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第1話『ふたりはプリキュア!? 伝説の戦士、誕生!』part1

「うわぁ、満開の桜だぁ! きれ~い!」

 春。桜舞い散る、という表現がよく似合う美しい並木道を歩きながら、桜宮まつりは、花びらを目一杯抱え込むように両手を広げた。
 彼女はこの春中学2年に進級するが、桜にうっとりと見とれる様子は、実の年齢よりも些か幼く見える。
 その事をよく分かっている幼馴染みの汐風ゆららは、低い位置で2つに結んだ髪を振り回しながら駆け出すまつりを、軽く顔をしかめて叱責した。

「そんな悠長な事言ってる場合じゃないわよ、まつり! 誰のせいで待ち合わせに遅れたと思ってるの!」
「えへへ、面目ない……今日のお花見楽しみすぎてさ~、昨日の夜、全然寝付けなかったんだよねぇ」
 その言葉とは裏腹に、振り返った顔は楽しさに受かれていて、とても反省しているようには見えない。ゆららは半ば呆れたようにため息をつくと、小走りでまつりに追い付いた。
「はぁ……そんなことだろうと思ったわ。とりあえず、四葉と悠花は遊具の近くにいるって言ってたけど……こう人が多いと、全く見つけられないわね」
 花見の待ち合わせをしている友人たちの名前を呟き、ゆららはぐるりと周りを見渡した。並木道の続く公園内には、沢山のブルーシートと笑い声、そして人、人、人……。

 この人混みの中、友人たちを探しながらまつりをセーブするのは不可能だ。ゆららは瞬時にそう悟り、鞄の中から2つ折りの財布を取り出した。
「まつり、これ私の財布。私、先に二人を探しておくから、屋台で色々買ってきてよ」
「ええぇ~!! 何で私が!」
 遅刻の原因は自分なのにも関わらず、何という態度なのだろう、とゆららは面食らう。お金は私が出してるでしょ!と口の裏で毒づき、彼女はくるりと踵を返した。
「遅れたんだから、それくらいしてよ。じゃあ、よろしくねっ」
「あっ! 待ってよゆらちゃん! 不可抗力~!」
 人混みの中に消えていくゆららに手を伸ばすも、その手は空しく宙を掻く。
 まつりは、手元に残った財布を不服そうに見つめながら、昨夜さっさと床につかなかった自分自身を呪った。