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第1話プロローグpart2

 レザンとポムを見送るための式典は、国王の意向で、城の中でも最も大きな『聖の間』で行われる事になった。きらびやかな広間に沢山の人々がひしめき合う中、ポムとレザンは、貴族たちからの別れの挨拶を受けていた。

「レザン様にポム様。あなた方に我らの未来を託します。行ってらっしゃいませ」
若い貴族男性が恭しく頭を下げると、
「地球と言う惑星は、こちらの環境とはかなり異なる場所だと聞いております。心配だわ」隣に居た貴族女性は心配そうにレザンの手を握った。

 そのあたたかな2人の視線に、レザンは、自分の中に押し込めていた不安がぐっと込み上げてくるのを感じた。国民から抹消されたと思われていた負の感情は、全て彼の中に凝縮されていただけに過ぎなかった。
 それでも、負けるものかとレザンは歯を食い縛った。この国を、大切な人たちを、そして、生きているのかどうかも分からない親友を思っての事だった。
「ありがとう。国を頼んだよ」
 彼の決意は、声に出す頃にはしっかりと固められていて。2人の貴族は、王子の優しくも凛々しい表情に感嘆のため息を漏らした。

 大丈夫、これで何とか、心の底の感情を出さずにすみそうだ。レザンがそう思い、ほっと息をついた時、ポムが何かを思い出したようにぱっと微笑んだ。
「そうだ、お土産ももって帰るポム!」
……今、何と言った?
レザンは驚愕の表情で、荒唐無稽な事を言い出したポムを凝視した。
 先程の比ではない。これから、こんなにも危機感のない少女と旅をしなければならないのか。
 彼の頭は一瞬にして高速で回り出す。シミュレーションの結果として浮かんでくるのは、最悪の想定ばかり。

(詰んだ。人生詰んだ。13年かぁ……短かったな)

脳裏には、早くも走馬灯のようなものまで見え始めてきた。ああ、やばい……この子ダメだ……。

「りょ、旅行じゃないんだよ…」
 ぐっと堪えて振り絞った一言は、嫌に他人行儀で冷めていた。
 レザンが額を押さえて表情を取り繕っていると、当の心配の原因であるポムは、彼の後ろを見て嬉しそうに跳び跳ねた。
「レザン!国王様と女王様ポム!」
「え?…あぁ、もう両陛下に挨拶する番なのか」
 振り替えると、国王と女王、すなわち彼の両親が立っていた。国王ヴィナグラードは、息子と目が合うと、逞しい表情を作った。
「レザン、ポム、そろそろ出発だ。私たちは若き勇者に期待する。国をあげてそなたたちを応援しているよ」
 今この時は、父と息子ではなく、国王と勇者。差し出された大きな手を、レザンはしっかりと握り返した。隣を見ると、普段は厳しい母親のミルティーユが、滅多に見ないほど柔らかい表情で頷いた。
「二人とも、体に気を付けて。どうか、無事でいてくださいね」
 国王とは異なり、それは、息子を心配する普通の母親の言葉だった。
 ポムとレザンは顔を見合わせると、屈託のない微笑みを交わしあった。束の間、家族の温かさを再確認した2人だったが、ここからは甘えは許されない。だがせめて、最後に思いを伝えようと、2人は国王と女王の前にひざまづき声を揃えて言った。

「両陛下に『希望の光があらんことを』」