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文系にもできる、サイエンスでどんな問題も解決

サイエンスと聞いてどう思っただろうか。「理系の人に必要なもので、文系の私には関係ない」と思っているなら、かなり損をしていると思った方がいい。サイエンスを使えばどんな問題でも解決できてしまう。それがたとえ、どうやって好きな異性をデートに誘えばいいのか、という問題であってもである。

サイエンスについての二つの誤解

一つ目の誤解
「サイエンス」は理科と同義語ではないし、サイエンスは理系人だけのものでもない。日本の教育では、高校二年次から理系と文系に分かれる。文系は社会と言語(国語、英語)、理系は理科と数学がそれぞれ中心となる。このことからサイエンスは理系のものという誤解が生じている。

文系と理系という横並びの分け方は、古代ギリシャで体系化されたリベラル・アーツと、17世紀前後に見出されたサイエンスいう学問の上下二層構造を間違って輸入したものだ。リベラル・アーツとは、先人達が積み上げてきた知識を身につけ、自分の知識を増やし処世術を得るものである。一方サイエンスとは、誰もが知らないことをトライ・アンド・エラーで探し出すことによって、人類全体の知識を増やすことである。言い方を変えれば、サイエンスは先生から学べるものではない。

二つ目の誤解
大学の理系学部においても、この点を明確に学生に伝えている先生は多くないというのが私の観察だ。講義を聞き、予習復習をし、学生実験という「結果が最初からわかっている」実験をやってレポートを書く。これらは先人が見つけたことや考え出したことを学んでいるに過ぎない。これらはサイエンスを実施するための基礎知識や技術の習得ではあっても、サイエンスそのものではない。サイエンスは四年次の卒業研究ではじめて体験することになる。誰もが知らないことを見つけるための実験の積み重ねから結論を導き、論文として発表する。それが小さな一歩であっても、人類の知識の増加に貢献していれば、理系学部の学位は認定される。逆に「勉強」していくらテストの点数が良くても、それだけで卒業できないのは、サイエンスの目的が研究者(学生)自身の知識を増やすことではないからだ。

文系にもサイエンスが必須である理由

人の市場価値とインターネット
50年前までの日本では、例えばアメリカで既に実用化されている最新の技術や商品を真似て、量産化するだけで市場価値があった。しかし今ではGoogle検索で、世界中から様々な問題に対する答えや解決策のアイデアを、誰もが簡単に見つけられるようになっている。世界のどこかで誰かがすでに答えを示していることを、あなたが学んで活用しても、人類全体の知識の増加にはならない。つまり誰かから学ぶだけではあなたの市場価値はゼロなのだ。どこかに作り方が書かれている物をそのまま作ったり、アート作品を真似て作っても、それらに市場価値がないことを思えば納得できるであろう。

AIに唯一できないことがサイエンス
さらに言えば、顧客への苦情対応など、一見複雑に見える問題解決も、すでにAI(人工知能)に置き換えられつつある。既存の知識に基づいたアルゴリズム(経験の積み重ねに基づき、問題を解決するための手順を定式化したもの)として成り立つ仕事は、人間よりコンピュータのほうが早く、正確でコストも安いからだ。

ほとんどの銀行や証券会社の通常業務の大部分は、すでに単純なコンピュターシステムに置き換えられたり、AIに支援されたりしている。ガンや脳の異常の発見も、AIがfMRIなどの画像を解析することで、医師の業務をすでに支援している。近日中にもfMRI自体が病気を判断し、手術のスケジューリングや入院の手続きを行うようになるであろう。

しかし、AIが深層学習をくりかえし、ロボットがロボットを設計し生産する時代になったとしても、AIが人間に勝てない部分は必ず残る。なぜなら、ロボットから生まれるものはアルゴリズムに基づいたもの、つまりすでにあるデータを解析して生まれてくるものでしかないからだ。これは先人の知識から学ぶリベラル・アーツと同じである。そこに欠けているのがサイエンス。逆に言えば、人間の価値はサイエンス活動に絞られてくるということだ。

サイエンスの重要さは歴史を見れば明らかであることは、こちらにまとめてある。

理系に限らないサイエンスで問題解決

フィギュアスケートの浅田真央さんは「私は過去を振り返ったことがない」と言っている。常に前を向き、できないことや新しいことに挑戦する。何度も失敗を繰り返し、やがて新しい技を完成させる。そこには「なぜできないのか」ということを分析し、その原因を見つけ修正するというプロセスがある。サイエンスの基本姿勢そのものである。

起業家の多くはいわゆる文系出身であるが、成功している人はやはりサイエンスを実行している。問題をみつけ、それを解決するための膨大なトライ・アンド・エラーを経て、やがて新しいビジネスを築くのだ。

政府の審査待ちの難民を日本社会が受け入れるためのNPO法人WELgeeを立ち上げた渡部 清花(さやか)氏は、知り合いになったコンゴからの難民を自分の親の家にホームステイさせることが最初のきっかけだった。それがうまくいくとは思ってもいなかったと語っている。そしてホームステイのマッチングがうまく機能しはじめても、やがて共同生活のための施設が必要であることに気づく。[1]。

病児保育を行うNPO法人フローレンスを立ち上げた駒崎弘樹氏は、アイデアは100回でも練り直し、実際にビジネスを走らせてテストを繰り返し、問題点を修正していくことを、著書[2]の中で強調している。

シアトルにオープンしたスターバックスの一号店は、イタリアオペラがBGMで流れる店内で黒蝶ネクタイをつけたバリスタに、イタリア語表記のメニューを理解できないまま注文し、スタンドで立って飲むというイタリアンスタイルで大失敗であった[3]。

オバマ前大統領は大学を卒業して、自分がどんな人間になりたいか、何も見えていないながらも、シカゴの黒人低所得者層が多く住む、小さな町の人々の力になる活動を始めた。彼は人々の生活に密着し、心底彼らの境遇を理解し(観察、観測)、行政との駆け引き(トライ・アンド・エラー)を行いながら、彼らの生活の支援を勝ち取っていった[4]。まさにサイエンスそのものである。彼はリベラル・アーツ・カレッジ出身であるのにだ。後に大統領の時代に古ボケた政府のサービスをデジタル化する改革は、「とにかくやってみる」という[5]、サイエンスの手法をビジネスに応用したエントラプルナーのお手本とも言える。

あなたにもできるサイエンスで問題解決

ここまで読んでこられた方は、すでに「自分は文系だけどサイエンスで問題解決ができるだろう」という感触を得られていると思う。以下にサイエンスの手順を4つのステップにまとめた。サイエンスは誰にでもできる。

1. 解決したい問題を決める。自分が興味を持っている問題でも良いし、自分や誰か、あるいは世界中が困っていることでも良い。
2. 選んだ問題について調べる。これまでに誰がどんなトライをしてきたのかを調べる。これは同じ失敗を繰り返さないためだ。しかしここで重要なのは、何が分かっていないのかに気づくことである。ソクラテスの言う「無知の知」である。実はこれが一番難しいのだが、サイエンスの核である。
3. その問題について観察・観測をする。社会問題であれば現場に足を運び、実際に自分の目で観察すること。一次ソースとしての実際にそこで生活する人々の目線で物事を観察したり、インタビューをすることである。これは膨大な繰り返し作業となる。そもそも、最初は何をどんな方法で観察すべきなのかさえ明確でないはずだが、それで良い。大切なことは手探りでも勇気を持って第一歩を踏み出すことである。既知の観察・観測方法に無意識に自分を縛り付けていないか気をつけなければならない。
4. 問題を再定義する。最初に「問題」だと思っていたことが実は問題なのではなく、その奥に本来の問題が見えてくることが多い。いわゆる問題の再定義だ。これは一歩前進である。サイエンスとは、常に問題の再定義を繰り返すものである。アインシュタインは「一時間以内に問題を解決しなければならないのなら、私は55分を問題の定義に費やし、5分で解決してみせる」と言い切っている。

最後は問題の再定義であるから、この4つのステップは単純な繰り返しループである。繰り返していると、やがて観察結果やデータから一定のパターンが徐々に見えてくるか、あるいは突然パターンがひらめいたりする。それをできるだけ単純な数式で表せるかどうかだ。これができれば解決につながったも同然である。

デートの作戦にも!サイエンス活用事例

一見難しい問題でも、サイエンスの4つのステップを適用することで、意外と簡単に解決、あるいは克服できるようになるものだ。ここでは誰もが経験するはずの二つの事例を紹介する。

初デートを成功させる

好意を寄せている異性(同性でもいい)がいる。学校あるいは職場で毎日顔を合わす相手だ。しかしあなたの気持ちは伝わっていない。あなたはデートに誘い告白したいと考えている。サイエンスの4つのステップを応用してみよう。簡単にするために男性が女性を誘うケースとする。

1. 解決したい問題は、彼女をデートに誘い告白し、OKの返事をもらうことである。
2. 選んだ問題について調べる。OKの返事をもらうために、これまでに誰がどんなトライをして失敗したのかを調べる。成功例も見つかるかもしれないが、それが重要ではない。大切なことは失敗例の原因を考えること。ただし、失敗した原因の仮説を立てるわけではない。自分には彼女について、何がわかっていないのかを明白にすることである。
3. その問題について観察・観測をする。つまり彼女を理解するために、実際に行動を起こしてデータ収集すること。映画は何が好みか、食べ物飲み物の好き嫌いなどの表面的なことにはじまり、性格や価値観を理解するための会話もこのステップでは特に重要だ。彼女固有の「落とし所」をみつけるためには、一般的な方法やアイデアだけではダメだということは理解できるであろう。
4. 問題を再定義する。これまでは相手のことばかりを考え観察してきたが、問題は自分の中にあるのではないかという問題の再定義が当然あるだろう。自分の性格や言動、あるいは価値観のどこに問題があるのか。あるいは彼女はそもそも同じ職場で交際するつもりがないのかもしれない。だとすれば、自分は転職すべきかという問題に置き換わる。

時間管理

一日の中で自分がやりたいこと、やるべきことに十分に時間を割けていないというのは、多かれ少なかれ誰でも経験することであろう。これにサイエンスをあてはめて問題解決してみる。ケーススタディとして、イギリスの大学へ留学できるレベルの英語力を身につけるための勉強時間を考えてみよう。

1. 解決したい問題は、英語の勉強に十分な時間を割くこと。しかしちょっと考えれば、この問題定義が正しくないかもしれないことがわかるだろう。そもそも時間が問題なのか、それとも勉強方法が問題なのかという疑問がわいてくる。これだけでもサイエンスを使って考える効果を理解していただけると思う。
2. 選んだ問題について調べる。まずは勉強時間についてとことん調べる。留学経験のある先輩や友人に、どのくらいの英語力のときにどれだけ時間をかけていたのかを聞くことはできる。自分が一日にどれだけ勉強に時間を使っているのか、1週間の自分の生活のログをつけてみる。あるいは、世の中で英語を活かして社会で活躍している人の事例を紹介してあるブログや本を読む。
3. その問題について観察・観測をする。自分の生活ログをつけることは、すでに観測のステップに入ってはいるが、それだけでは不十分だ。一日を振り返った時、勉強すべき時間がネットサーフィンで消えてしまっていたとする。どうしてそうなってしまったのか、その時の自分の心の動きをメモに書き起こす。これが自己観察からくるデータである。これを1週間続けてみれば、自分の心の中の何が問題なのかが見えてくるのではないだろうか。
4. 問題を再定義する。「勉強時間がとれない」という物理的な問題が、「意思の弱さ」という問題に置き換わっていないだろうか。だとすると、次にステップ1に戻り、解決すべき問題は「意思を強くするにはどうすればいいか」となる。

どうだろうか。サイエンスを使える気がしてきたのではないだろうか。まずは自分でやってみることが肝心である。手探りでも勇気をもって第一歩を踏み出してみてほしい。

Reference
[1] Tanaka, C. (2018, May 13). Young social entrepreneur seeks to help asylum-seekers integrate into Japanese society, even while they’re in limbo. The Japan Times,
[2] 駒崎 弘樹. (2016). 社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門. Tokyo: PHP新書
[3] Sims, P. (2011). Little Bets - How Breakthrough Ideas Emerge from Small Discoveries. New York: Simon & Schuster
[4] Obama, B. (1995). Dreams from My Father - A Story of Race and Inheritance. New York: Three Rivers Press
[5] Ries, E. (2017). The Startup Way - How Modern Companies Use Entrepreneurial Management to Transform Culture & Drive Long-Term Growth. New York: Currency

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