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サイエンスの重要さは歴史を見れば明らか

人類は考え、工夫することで他の動物から分化した。人類の進歩は問題解決の脈々とした連なりである。草木を利用し雨風をしのぎ、寒さや暑さに適応する。土を利用し、形をかえることによって道具を作る。火を使って生では食せないものを摂取できるようにする。土から金属を取り出し、より頑丈な道具をつくる。より栄養価の高い食物をより確実に生産し、人々が幸せに暮らせる街を作るなど、人類は様々な問題を解決してきた。

これらの発明・発見は、偶然の積み重ねであった。尖った石がナイフになり動物を殺傷できるのは、誰かが転んで尖った石に体をぶつけて怪我をしたからであろう。木を柱にして、ワラを屋根にするのは、樹木の下の雨宿りの延長である。食器だって、土が乾燥して固まったものが壊れにくいという発見から来ている。それを焼くともっと長持ちすると知ったのも、火災の後、残骸の中にそれを発見したからのはずだ。

こうして人類は膨大な経験と知識を、共有財産化してきた。しかしやがて人類は自ら工夫することを怠るようになる。わからないことや困った時は、過去に遡れば人類が築いてきた膨大な知識と経験の蓄積の中に必ず答えがあるものだと、誰もが考えるようになった。だからすぐに古代の哲学者の書物や、皇帝などの偉人に頼る。それでもダメなら占いや神に頼るわけだ。目の前の問題を今、自分たちで解決するという発想を誰もが持たなくなった。この世界では人類全体の知識が増えることはない。なぜなら過去の知識を探すことしかしなくなったからだ。

しかし17世紀後半、一部の人たちはそれまでの常識を疑い、真実を探求すべく自然を客観的に観察し、トライ・アンド・エラーで観測することを始めた。サイエンスの萌芽である。これによって、人類全体の知識の量は加速度的に増加し始めた。

サイエンスの第一歩は、世の中には誰もが理解できていないことがあるということを、認めることから始まる。これはそれまでの「答えは過去の偉人か神のみが知っている」と信じる世界と真逆である。そして膨大な時間を観察と観測に使い、数学で表現することによって一定の法則を見つけ出す。CopernicusやKeplerは「なぜ金星はおかしな動きをするのだろうか」という疑問からはじまって「何故だろう」をひたすら繰り返しながら観測し、計算し、地球が動いているとしか説明できないという結論に至った。

Mendelは膨大な交配実験を繰り返し、優性遺伝という法則を見つけ出した。Darwinも世界中で膨大な動植物と生態を観察し、人も動物もバクテリアも元をたどれば同じであるという、キリスト教世界の常識を覆す結論に至った。

既に知られている法則を駆使して答えを見つけ出すことがサイエンスではない。脳科学者のStuart Firesteinは以下のように表現している[1]。

“Most of us have a false impression of science as a surefire, deliberate, step-by-step method for finding things out and getting things done … more often than not, science is like looking for a black cat in a dark room, and there may not be a cat in the room. The process is more hit-or-miss than you might imagine.”

訳してみよう。「私たちのほとんどは、サイエンスとは確実で意図的で、段階的な方法でもって、発見や物事を成し遂げることだ、という誤った印象を持っています。しかし実際のサイエンスは、真っ暗な部屋の中で黒猫を探すようなもので、しかもその部屋には黒猫はいないかもしれない、というあなたが想像する以上にトライ・アンド・エラーなのです。」

1938年のノーベル物理学賞を受賞したEnrico Fermiは

“An experiment that successfully proves a hypothesis is a measurement; one that doesn’t is a discovery.”

つまり「仮説を立証する実験は単なる測定であり、立証できないことこそが発見である」ということだ。

また、サイエンスとテクノロジーは車の両輪でもある。サイエンスが産業革命の起爆剤であり、様々な科学計測機器が開発され、新たなサイエンスにつながるというサイクルを経てきた。Einsteinの一般相対性理論によって、GPSによる位置測定が数メートルの精度で可能となっている。GPSによって世界中の森林破壊などを定量的に観測し、より高度なサイエンスが行えるようになっている。

サイエンスがもたらす重大な発見はそれまでの常識を覆す。2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑博士は「自然科学の発展によって得られた新しい知見によって、私たちのものの見方や世界観が常に変えられてきた」とうまい表現をしている[2]。

二千年前の偉大な哲学者アリストテレスが「太陽も月も星も地球の周りを回っている」と言っているから、それが常識であった世界とは真逆である。

Reference
[1] Firestein, S. (2012). Ignorance – How It Drives Science. New York: Oxford University Press
[2] 本庶 佑. (2013). ゲノムが語る生命像 - 現代人のための最新・生命科学入門. Tokyo: 講談社ブルーバックス

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