この海に、帰る支度をする、鯨の骨の眠る家。(後篇)
9:30
石ノ森萬画館に着く。
受付のお姉さんはサイボーグ009のコスプレのような格好をしていた。
最初に「龍神沼」という15分程度のアニメ上映を見た。僕とあとおじさんが一人いた。
担当のお姉さんが二人のために上映についての注意を話してくれる。
お客がいないときもあるのだろうな。
その他、サイボーグ009、仮面ライダー、キカイダーといったコーナーをまわった。
回り終えて一階にもどるとベンチに仮面ライダーが座っている。
そこで若いお兄さんに声をかけられた。
「写真撮ってもらえません? 仮面ライダー大好きなんですよー」
「どうぞ、どうぞ、では僕も撮ってください」
「いいっすよー。どこから来たんですかー?」
「東京からですよ。」
「あ、ありがとうございまーす!」
いつのまにかお兄さんはどこかに行ってしまった。
いつだか石ノ森章太郎特集の番組を見たことがあったのでここは楽しめた。
サイボーグ009も好きなので来れてよかった。
10:30
友人が到着した。白いスバルの車だった。
深くお礼を行って、まずは石巻周辺の作品を見てみようということになった。
水の入った器に「目」が浮いている作品が床にたくさんならんでいる作品。
器は、生活上必要なものだから、「生活」自体なのかもしれない。それが、一つだったり、あるいはたくさん集まっていたり、階段にだんだんに置かれていたりする。集団はきっと家族のようなものなのだろう。階段は、これまでの先祖たちだったりするのかもしれない。「目」は何を見ているのだろう。パンフレットによれば「未来」を見ているようだ。
石巻エリアをまわったあと、牡鹿エリアに移動する。
ランチもそこで食べることにした。
石巻から車で30分。くねくねした道をいく。
最近のこと。なんでこの旅にきたのか。そんなことを話しながら。
12:00
牡鹿エリア。
海が見えた。ここに来て、はじめて目の前に海がある。この海が。
浮きの大きなボールがたくさん置かれているなかを歩き、林のなかに入っていく。
遊歩道のようなところを歩いていくと、遠くのほうに浜が見える。
そこに大きな白い鹿がいる。
あれが。
そしてレストランのようなものもとなりにある。
あまり人も多くない。
鹿の作品のまえで一通り写真を撮る。
あとで聞けば休日などは並んで写真を撮るのだとか。
この日は撮り放題だ。
それからレストランに入ると、特等席だというカウンターに通してもらった。
鹿が真正面に見える。
オープンダイニングなので風が気持ちいい。
メニューを見るとちょうど薪料理が食べられる日のようだった。
どうせだからと、鹿肉を注文した。
ドリンクは、クロモジソーダというのがあった。
クロモジは爪楊枝の原料になる木だ。それのドリンクがあるなんて珍しいので飲んでみるとまったくクセのない味だった。食事の邪魔もしない、いい飲み物だった。
鹿肉は臭みもなく、やわらかでとても美味しかった。
しいたけを焼いたものも美味しかった。
14:00
食事を終えて、近くの洞窟の作品をいくつか見たあと、鮎川に向かうことになった。
また車で40分くらいの道のりである。雨が降りはじめた。
鮎川に着いたときには本降りになっていた。傘がなかったので友人がビニール傘をくれた。何から何までありがたい。深くお礼を言って、また会おうと別れた。
15:00
鮎川はそれこそ工事ばかりで、砂山がいくつもできていた。
見渡してみても、店のようなものは何もない。
これは当初の予定で、友人を頼らずにきていたら、朝10時ごろに鮎川に着く予定だったので、なにもすることがないまま途方にくれるところだった。
「詩人の家」を探した。Googleマップで手がかりを探すにも、目当てとなる場所がないのでなかなかわからない。一本、リボーンアートフェスティバルの旗を見つけて、ようやくたどり着いたか、と安堵した。
スタッフが何名か駐車場にいて、迎えてくれた。遠くのほうに吉増さんがいるのが見える。やっとここまできた……。さっそく入っていき、挨拶をした。
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