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新たな「教育振興基本計画」 まとめ 〜 ICT 教育編 〜

令和 5 年 6 月 16 日、未来に向けた教育を構想する「教育振興基本計画」が閣議決定されました。この計画は、教育基本法に示された教育の使命を基本としつつ、予測困難な時代に対応するための教育の方向性を示す羅針盤と位置付けられています。

教育振興基本計画はコンセプトとして「 持続可能な社会の創り手の育成 」及び「 日本社会に根差したウェルビーイングの向上 」を掲げ、5 つの基本的方針と 16 の教育政策の目標、基本施策及び指標が示されています。これらの教育政策では、初等中等教育から高等教育、生涯学習・社会教育の連続性を重視し、それらの共通課題を踏まえつつ、各省庁の連携と各地方公共団体による地域の実情に応じた適切な対応が期待されています。

引用:文部科学省「教育振興基本計画(概要)」P1


「5 つの基本方針」 と 「 16 の教育政策の目標、 基本施策及び指標 」

【 5 つの基本方針 】
1.  グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
2.   誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
3.  地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
4.  教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
5.  計画の実効性確保のための基盤整備・対話

【 16 の教育政策の目標、基本施策及び指標 】
目標1:確かな学力の育成、幅広い知識と教養・専門的能力・職業実践力の育成
目標2 :豊かな心の育成
目標3 :健やかな体の育成、スポーツを通じた豊かな心身の育成
目標4 :グローバル社会における人材育成
目標5 :イノベーションを担う人材育成
目標6 :主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成
目標7 :多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂
目標8 :生涯学び、活躍できる環境整備
目標9 :学校・家庭・地域の連携・協働の推進による地域の教育力の向上
目標10 :地域コミュニティの基盤を支える社会教育の推進
目標11 :教育 DX の推進・デジタル人材の育成
目標12 :指導体制・ICT 環境の整備、教育研究基盤の強化
目標13 :経済的状況、地理的条件によらない質の高い学びの確保
目標14 :NPO・企業・地域団体等との連携・協働
目標15 :安全・安心で質の高い教育研究環境の整備、児童生徒等の安全確保
目標16 :各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ

上記の「 5 つの基本方針」に則り、教育に関わるさまざまな分野における目標と基本施策、及び指標が 16 の観点に分けて提示されています。非常にボリュームのある文書のため、今回は ICT 教育について焦点を絞って内容を確認してみましょう。

目標11:教育 DX の推進・デジタル人材の育成


【 1 人 1 台端末の活用 】

児童生徒の個々の学習スタイルと協働学習を統合し、教育の質を向上させるために、デジタル教材と ICT の普及を通じて GIGA スクール構想を強力に推進する。また、発達の段階と対面の指導の重要性を認識しながら、遠隔・オンライン教育の有効活用を進めていく。

【 児童生徒の情報活用能力の育成 】
GIGA スクール構想の一環として、情報活用能力(情報モラル含む)の育成を目指す。日常的に学習端末の活用を促進し、EdTech をはじめとした教育産業の力を活用しながら優れた事例を生み出すことを目指していく。さらに、情報技術を効果的に活用する力を身につけ、情報社会への主体的な参加やその発展に寄与する態度を重視するとともに、学校だけでなく個人でも学べる環境の構築に取り組む。

【 教師の指導力向上 】
情報活用能力を育てるため、ICT の実用例提供、小学校から高等学校までのプログラミング教育、情報活用能力の調査結果の公表などを通じて教員の指導力を向上を目指す。また、情報モラル教育の充実高等学校の「情報」科目の質の向上のために外部の専門家の活用と最新の情報提供を行う。

【 校務 DX の推進 】
デジタル技術を活用して校務の効率化と教職員の働きやすさを向上させることを促進する。その一つは、場所を選ばずに校務を処理できる環境を普及させ、学校経営を高度化・効率化すること。また、マイナンバーカードの活用に関するガイドブックの作成と周知を通じて、各学校でのマイナンバーカードの利用を促進する。

【 教育データの標準化 】
教育データの交換、蓄積、分析を容易にするために、データの意味や定義の標準化を推進していく。そして、地方公共団体、学校、事業者などに対して、この標準化の意義を理解することを促し、また、データ標準に基づく教材の実装を促進している。

【 基盤的ツールの開発・活用 】
全国的・公共的な基盤ツールの整備により、学校間の問題解決や知見の共有を図る。具体的には、「文部科学省 CBT システム( MEXCBT:メクビット)」の普段使いや全国・地方の学力調査への活用が進んでいる。さらに、「文部科学省 WEB 調査システム(EduSurvey)」を通じて行われる業務調査により、学校からのアンケート調査結果を自動的に集約する。

【 教育データ分析・利活用及び先端技術の利活用 】
効果的な教育データの利活用により、学生の個別の学習ニーズに対応した教育を提供することが可能となり、また児童生徒が直面する問題を早期に特定できる。データの利活用をサポートするための個人情報の適正な取扱い等のルールの策定とともに、学校が抱える教育課題解決に向け、センシング、メタバース・AR・VR、AI などの最新技術の活用を促進する。

【 高等教育におけるデジタル人材育成の推進 】
大学と高等専門学校が数理、データサイエンス、AI のモデルカリキュラムと教材を国全体に展開することを支援するコンソーシアム活動を推進することで、全ての学問分野で数理、データサイエンス、AI を応用する基本的な力を持つ人材を育成する。

【 高等教育における教育環境のデジタル化の推進 】
高等教育におけるデジタル教育の推進と、大学におけるデジタル変革(DX)の促進を図る。特に、ハイブリッド型の教育(対面と遠隔の組み合わせ)の推進、新しいデジタル技術を用いた生涯学習の提供、そしてデジタル技術やマイナンバーカードを用いた大学の管理運営業務全般を電子化する。

【 社会教育分野のデジタル活用推進 】
デジタル技術とリアル活動を組み合わせた社会教育を効果的に展開していく。また、全ての世代がデジタル社会から取り残されないようにするために、デジタルリテラシーの向上を促進する。

また、これらの目標の達成度を測るために、以下の指標を用いて評価することが示されています。

・児童生徒の情報活用能力(情報活用能力調査の能力値)の向上

・教師の ICT 活用指導力(授業に ICT を活用して指導する能力、児童生徒の ICT 活用を指導する能力)の改善

・児童生徒一人一人の特性や理解度・進度に合わせて課題に取り組む場面での ICT  機器の活用頻度の増加

・児童生徒同士がやりとりする場面での ICT 機器の活用頻度の増加

・ICT を活用した校務の効率化の優良事例を十分に取り入れている学校の割合の増加

・ICT 機器を活用した授業頻度の増加

・全国の運営支援センターのカバー率の増加(令和6年度までの目標値:100%)

・数理・データサイエンス・AI 教育プログラム(応用基礎レベル)の認定プログラムにおける 1 学年当たりの受講対象学生数の増加


上記のように、教育振興基本計画では学校の DX を推し進めていくために必要な施策が網羅的に示されています。しかし、これらの目標を達成するためには以下のような議論を乗り越えていく必要があるでしょう。

1. 費用とアクセス 
デジタル技術の導入や利用は多くの場合、資金的な投資を必要とします。また、全ての児童生徒や教育者が、必要なデジタルリソースやインターネット接続にアクセスできるわけではないかもしれません。これらの課題をどのように解決するか、また誰が費用を負担するべきか、については議論が必要です。


2. 教育の質と効果性
デジタル技術の活用が教育の質や効果性を確実に向上させるとは限りません。どのようなデジタル教材やツールが実際に効果的であるのか、またそれらをどのように適切に評価・選択・利用するかは重要な視点となります。


3. プライバシーとセキュリティ
デジタル教育は児童生徒や教育者の個人情報を大量に生成・利用します。これらの情報をどのように保護し、プライバシーを確保するかは大きな課題です。さらに、デジタル教育システムはサイバーセキュリティのリスクも持ちます。これらの問題にどのように対処するのかを考えていく必要があります。


4. 教育者のスキルと教育のデジタル化
教育者自身がデジタルツールやテクノロジーを効果的に使うためのスキルや知識を持つことが必要です。これには新しい技術を学ぶ時間やリソース、そして適切な研修が必要です。また、どのようにして教育者が児童生徒のデジタルスキルを評価し、指導するかも重要なポイントです。


5. 児童生徒のメンタルヘルスと社会性
デジタル教育がメンタルヘルスや社会性にどのような影響を与えるかは重要な視点です。オンライン学習が、孤立感を増加させる可能性もある一方で、新しい形のコミュニケーションやコラボレーションを生み出す可能性もあります。これらのバランスをどのようにとるかは重要な視点となります。

まとめ


本稿で確認した「 目標 11 教育 DX の推進・デジタル人材の育成 」を実現・達成させるためには、上記 5 つの視点について議論を進めていく必要があると考えます。
その中でも 1 つ目の視点として挙げた「費用とアクセス」については、近々の課題として、その対応を検討していくことが急務です。各教育委員会や学校でも大きな話題となっている GIGA スクール構想で整備された端末の更新、いわゆる「 Next GIGA 」に関しての問題です。

令和 5 年 2 月 22 日の衆院予算委員会において岸田文雄首相の発言から、GIGA スクール構想を国策として位置づけ端末更新問題に政府として取り組んでいく姿勢が示されたことから、国費での更新も期待されました。しかし、先般( 6 月 16 日)に閣議決定された「 経済財政運営と改革の基本方針 2023(いわゆる「骨太の方針 2023」)」や、本稿で確認した「 教育振興基本計画 」においても、GIGA スクール構想を国策として位置づけることが明文化されているものの、その費用は誰が負担していくのかは明らかにされていません

教育委員会や学校が「 端末更新 」に悩むことなく、( 児童生徒の学びを深めるための学習用端末活用の促進を含めた )教育活動に専念できるような方針を、国として早期に示してほしいと考えます。


株式会社エデュテクノロジーでは、DX によって先生方の働き方改革とウェルビーイングを向上する学校環境を整えるため、NEXT GIGA 対応を含めた ICT 機器の環境デザインや活用マニュアル等のハード設計から、ICT の強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計までトータルに支援する「教育DXコンサルティング」を提供しています。長年培った経験とノウハウで、これからも児童生徒の学力向上に向けた「学びと ICT 」について、学校と教育委員会へのサポートを行っていきたいと考えています。

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