その出版社、凶暴につき 番外特別篇 「四谷のあやしい人々」
3週間ほどお休みをいただきました。
とりあえずの復活、というわけでもないのですが、貴重な資料を入手することができたので、この機会に掲載したいと思います。二年後輩の編集部員だったT瀬が当時書いていた「四谷のあやしい人々」というタイトルが付けられたイラスト集です。二十数年前の資料を保存していて、提供してくれたのは、同じ二年後輩の元営業部員で、いまは筑摩書房にいるM澤。著作権者であるT瀬に掲載の了承を取り付けるのにも協力してくれました。とりあえずは番外特別篇として、これまでに登場した主要な登場人物の似顔絵を抜粋して掲載したいと思います。
まずはもちろん情報センター出版局のトップ、H山局長。ほぼそのままといっても過言ではないでしょう。しかし、残念ながら局長を描いたカットはこれ一点だけでした。ゆえに貴重といえば貴重です。椎名誠や藤原新也を擁して、80年代の出版業界に大型台風のような旋風を巻き起こし、独特の、人の心のなかに入っていく本づくりによって数々のベストセラーとロングセラーを生んだ〝ガニマタ&怒り肩&ワニ眼〟の、クサリガマをぶんまわすとも形容された伝説的な豪腕・豪快編集者です。いや、編集者であることは確かですが、より正確には、2017年10月末現在で手がけた書籍が1000冊を超えるという、「異端の巨人」と呼ぶにふさわしい比類なき出版人なのであります。
続いて、これを書いている「俺」こと、1984年入社のT代。
まぁ、自分ではなんともコメントのしようがないので次へ。
「俺」の第二の師である、編集部のSさん。切れ者です。大宅賞を受賞した星野博美『転がる香港に苔は生えない』や小林紀晴のデビュー作にしてベストセラー『アジアンジャパニーズ』から、直木賞候補になり原田美枝子主演で映画化もされた下田治美の長編小説『愛を乞うひと』、日本推作家協会賞評論その他の部門を受賞した小林英樹『ゴッホの遺言』、講談社科学出版賞を受賞した島村英紀『地球の腹と胸の内』、芸術選奨文部大臣新人賞を受賞した野町和嘉の『長征夢現』『ナイル』といった写真集まで、H山局長同様になんでも手がけた懐の深いマルチなスーパー編集者でした。
イメージとしてまちがってはいないのですが、これはやはり行き過ぎでしょう。カマキリやん!? 実際はもっと知的な雰囲気の人です。
Sさんと同期で「俺」の三年先輩にあたる総務のOさん。これはそのままです。これ以外描きようがありません。総務の仕事をしながら、局長の秘書的な役割も果たし、椎名さんや藤原さん、森南海子さん関係の細々とした仕事をすべて担っていました。局長のスケジュール管理も含めて、相当に神経をつかう大変な仕事だったと思います。90年代になって、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」の人気コーナーだった「お色気大賞」のカセットテープ版を発売したとき、中心になってバンバン直販で売っていたのもOさんでした。なんと23巻まで刊行された人気商品でした。
もうワンカットありましたが、ほぼ同じでした。
「俺」たち1984年入社の新入社員たちの教育係でもあった、営業部のO川部長。これは残念ながらあまり似ていません。もっとおっさん顔なんです。情報センター出版局創設メンバーの一人で、局長の下で80年代を代表する藤原新也のベストセラー『東京漂流』の編集を担当したこともあります。元は編集者でしたが、営業の責任者に転じたのです。長らく局長に次ぐ出版局のナンバー2でした。
1984年に「俺」たちと一緒に入社した、営業部のM村さん。これもあまり似ていません(すまんT瀬ゆるせ)。ただ、昔、M村さんは自分のことを「わし」と言っていたんだなぁと思い出しました。いまはなぜか「ボク」って言ってるんです。出版局から筑摩書房に転じ、経理のエキスパートとしてキャリアアップ。いまではお孫さんまでいて、筑摩書房のとてもえらい人です。つい先日も飲んで昔の話や業界の話や映画の話や演劇の話や落語の話などしましたが、お元気そうでなによりでした。
ルースターズとローリング・ストーンズが大好きな、大阪出身の三年後輩・編集部員A。ストーンズの初来日公演では5公演くらいは足を運んでいた奴です。短い期間ではありますが「俺」の部下でした。よく一緒にチャーやPANTAのライブに行ったことを思い出します。いまはWOWOWで活躍中。てか、これ似顔絵じゃないだろ。
さらにその一年後輩の編集部員Y山。特徴のある顔なので、激似です。Y山というとなぜかモリ・カンテの「イェケ・イェケ」とユッスー・ンドゥールを思い出すという、そんな奴でした。
連載の冒頭のほうで少しだけふれた、もう一人の異能の天才「H」こと、H川S朗。1991年の入社で、翌年には豊福きこうのベストセラー『水原勇気0勝3敗11S』、その後、まついなつきの大ベストセラー『笑う出産』、同じくベストセラー『きょうからの無職生活マニュアル』などを刊行し、ついには「旅の指さし会話帳」シリーズを〝発明〟する、やっぱりスーパー編集者です。これは入社まもない新人時代を描いたイラスト。似てます。
これは総務の局長付きとして途中入社してきたY野さん。シンプルですが、なかなか特徴をよくとらえています。似てます。
三年後輩の営業部員だったC葉。本文ではまだ名前だけしか出てきていないのですが、もう少しすると連載でもまた登場します。直の先輩だったK川によくちょっかいを出されていて、困っている様子がよく表現されています。
そしてそのK川本人。情報センター出版局の看板を背負って立つ、名物営業部員でした。T瀬とはM澤を入れて〝三バカ〟と愛を込めて呼ばれていた三人。ゆえにT瀬が描いたイラストも多数ありました。
これはそのうちのほんのワンカット。ダルな雰囲気が絶妙です。イラスト中の「面陣」はもちろん「面陳」ですね。機会があればまた別の作品を紹介したいと思います。
そして今回このイラスト集を提供してくれた、M澤です。デフォルメではありません。もうそのまま。
T瀬自身が、「M澤だけを主人公にして単行本をつくりたかった」とコメントしているだけあって、リアルです。スーパーリアルな再現性です。当時の様子がまざまざと甦ってきます。
感謝の意味も込めて、もうワンカット後ろ姿。これも涙がこぼれそうです。
最後を飾るのは、もちろん今回紹介したイラストのすべてを描いた、T瀬自身の似顔絵。そっくりです。局長がこだわり続けていた写真モノの「地球ドキュメント」シリーズやポケット判写真集など、多くの写真ジャンルの本を手がけていました。どれもいま見ても素晴らしい仕上がりの本ばかりです。
いまは南米コロンビアにいて、この連載を読んでくれているという作者のT瀬N文画伯に感謝しつつ、この番外特別篇を終わることとします。T瀬よ、ありがとう!
お付き合いいただきありがとうございました。
(いつか続くかもしれません)
で、連載のほうですが、気持ちとしては来週もしくは再来週の月曜日には更新したいと考えております。もう少々お待ちいただけるとありがたいです。
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