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「人間にしっかり投資をする社会」を構築してこそ、「家族の幸せ」が実現できる!

山口慎太郎(2019)『「家族の幸せ」の経済学』#光文社新書 .

本書は気鋭の労働経済学者による、サントリー学芸賞受賞作である。

副題に、データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実とあるが、「真実」とはいえ、これは、「巷のあやしい言い伝えや、噂話よりは真実に近い」というのが正確であると思われる。

実際に、著者もデータ分析の解釈については、慎重に判断をした上で解説をしている。

もっとも、本書を通じて巷のデータ分析や、そもそものデータが「結構あやしい」かもしれないという可能性に気づくだろう。

分かりやすく刺激的なデータと、データ分析に惑わされずに「家族の幸せ」を選択していくために、有用な本である。

個人的には、伊藤公一郎(2016)『データ分析の力』光文社新書と合わせて読むとより良いと思う。本書により「データ分析そのもの」を理解することで、『「家族の幸せ」の経済学』が、どれほど意味のあるものなのか、より深く理解できるようになるはずだ。

筆者が36頁で述べているように「当たり前」をデータできちんと確認しておくことはとても重要である。

ではまず、私が特に面白く感じたデータをここで紹介しておきたいと思う。

「図表1-4:出会いのきっかけ」である。これは、第15回(2015年)出生動向基本調査を基にしている。

多い順に並べると、
1.友人・兄弟姉妹を通じて(30.8%)
2.職場や仕事で(28.2%)
3.学校で(11.7%)
4.街なかや旅先で(5.7%)
5.サークル・クラブ・習い事で(4.8%)
6.アルバイトで(3.8%)
7.幼なじみ・隣人(1.6%)
8.お見合い(6.4%)
となる。

どうだろうか。街なかや旅先で、というのは個人的にロマンチックだなぁと思うが、おおよそ予想通りといったところか。
晩婚化、未婚化が進む現代であるが、ほとんどが恋愛結婚に分類される。

出会いのきっかけ別に、どれだけ関係が続いているかを見るのも面白そうだ。

次に、子供をもうけることを念頭に置く人々にとっては重要なデータ分析結果も紹介されている。

それは、「出生体重が重いほど、出生時の健康状態は良く、生後1年間の生存率も高い(80頁)」ということだけでなく、「出生体重が10%増えると、20歳時点でのIQは0.06高く、高校卒業率は1%上がり、所得も1%増える(80-81頁)」というものである。

つまり、妊娠した女性が健康で、無理することなく出産まで過ごせる環境を構築することが、子供の幸せにとって重要であるということが示されている。

これは、「社会的にも幸せ」なことである。妊娠さんが、忙しく働いたり、不摂生をすれば、赤ちゃんが健康に産まれる可能性が低下するのは、当然であるから、妊娠さんには、社会的にも配慮しなければならないということだ。

母乳育児のメリットや、帝王切開のデメリットについても、非常に重要だが、詳しくは触れない。結論からすると、「母乳育児はできるならすべき」、帝王切開は「避けれるなら避けるべき」ということになる。

加えて、「しつけ」において「叩く」のはNGであるということの根拠も示されている。つまり、なぜ体罰はいけないのか?ということだ。

本書によれば、「親が体罰を行うことで、自分の葛藤や問題を暴力によって解決してよいという誤ったメッセージを伝えることになってしまうため」である。

体罰により育てられた子供は、他の子供に乱暴しがちで、問題行動を起こしやすくなるという、日本の研究結果もあるようだ。

このようにみると、やはり「子育て」において大切なのは「母の選択する権利の尊重」と「周りのサポート」であると言えるだろう。

さらに、本書では今述べた「周りのサポート」に当たる内容だが「子育てのプロ」としての保育士さんにスポットが当てられている。

本書の言葉を借りると「子供にとって育つ環境はとても重要であるけれど、育児をするのは必ずしもお母さんである必要はない」のである。

認可保育所がより信頼できるのはもちろんだが、本書では、日本の保育所の質の高さに言及した上で、家事に仕事に忙しいお母さんが「無理なく」子育てをするために、保育士さんに頼り、安心して家事や仕事をすることを勧めている。

一方で、保育所の質にはバラツキがあるため、質の良い保育所がこれまで以上にふえるべきであること、待機児童問題の解消を優先すべきこと等も主張している。

筆者が説くように、幼児教育の充実には大変なお金がかかるが、その成果は犯罪の減少に見られるように、「社会全体に薄く広く」受け取られるため、その費用を「税金によって薄く広く」負担することは妥当である(215頁)。

個人的には、ここがポイントだと思っていて、経済学用語では、「幼児教育に正の外部性がある」とも言えるが、このように、幼児教育の充実は、「家族にとって」だけでなく「社会にとって」も重要なことなのである。そして、このことを「社会が認めなければ」前には進まないと強く思うのである。

煎じ詰めていえば、
「人間にしっかり投資をする社会」を構築してこそ、「家族の幸せ」が実現できるのではないだろうか。
そう思わせられる1冊だ。

本書は、とりわけ、未来のお父さん、お母さん、先生にオススメしたい。

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