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読書記録:Vのガワの裏ガワ2 (MF文庫J) 著 黒鍵繭

【許容する為の取引、路傍の石は光輝けるのか?】


【あらすじ】

高校生神絵師の千景は、クラスメイトの少女、果澪のVTuber 「雫凪ミオ」を仲間達と制作し、見事大人気個人VTuberとして送り出した。
それからも順調に活動は続ける中で、夏休みの直前に入り。
果澪から「更に活動を広げていくにあたって、マネージャーを雇うか、事務所に所属したいと思ってる」と相談される。
話し合いの末、千景は果澪の為に、VTuber事務所『Bloom』を運営している知人に話を聞きに行ってみる事にする。

「マネージャー、やっていただけませんか?」

ところがそこで「お前には期間限定で『金剛ナナセ』のマネージャー業をやってほしい」と、まったく別のVTuberを託されてしまう。

千景にとってはそのお願いを受け入れる理由などなかったのだが、千景は思いがけない選択をしていく。

あらすじ要約


仲間達と協力して果澪を人気VTuber、雫凪ミオに仕立て上げた千景はその実績を買われて、VTuber事務所、Bloomから金剛ナナセを託される物語。


縁もゆかりもない金剛ナナセのマネジャーを任命される千景。
その依頼を聞き届ける義理は無いが、その数奇な運命を一度受け入れてみる。
VTuberには表裏一体の側面がある。
裏側の苦労や葛藤は得てして知られない。
事務所に所属するか、個人勢を貫くか。
夢と目標を叶える道程は想像よりも遥かに巌しい物であり。
起業家と労働者では、仕事に対してのアプローチがまったく異なる。

自らの野望を実現させる為に、莫大な資産を動かして、リスキーな市場に売って出るのか。
もしくは、言われた事をただ漫然とこなせば、それなりの対価が得られる使われる側で、一生を終えるのか。

学校の空き教室でこっそりと戦略会議をしていたところ、夕莉に追い出され、果澪の忘れ物を取りに夜の学校に向かった先で、何故かアイドル衣装で歌う 夕莉に遭遇する。
そんな意外な展開の中で、千景は果澪の意志を聞き届け、今の彼女に適切な事務所を探して、知人である花峰が経営する事務所の門を叩く。

しかし、その場で請われたのは、夕莉ことアイドル VTuber「金剛ナナセ」のマネージャーを期間限定でやって欲しいという物。
だが、普通に考えれば千景にメリットは一つもない。
そもそも、イラストレーターである千景にとっては、業務内容からして、専門外である。
だが、その試みは期が熟せば、いずれ果澪の為にもなると判断して、千景は夕莉と契約を結ぶ事となる。

夏休みの間は配信業界が一番盛り上がる時期。 
夏休みの間に、登録者数十万人を目指す。
その誓約を掲げた夕莉。
しかし、彼女は、コラボ配信の提案を一蹴したりと千景が考えた案を、ことごとく却下したりして。
自分の力だけで目標を達成させる事に何故かこだわる。

何故、彼女はそんなにも、己の力だけで成し遂げる事にこだわるのか。
その理由はかつて、本当に芸能事務所に所属して、アイドルの卵として活動していたから。
彼女は確かに秀才であった。
だが天才ではなかった、人を魅了する華がなかった。
だからこそ、心ない誹謗中傷に心が折れてしまい、
道半ばで挫折した過去があった。
それでも、新たな世界に夢を求めていた。
諦めたくないと夢を追い求め、持たざる者の起こす奇跡を信じていた。

だからこそ、その願いを叶えるのは、きっと一人ではいけない。
自分のプライドも大切だ。
自分なりに努力を続けているば、自らに誇りも生まれるだろう。
けれど、プライドを折らずとも歩める道もある。
自らのポリシーを曲げずに貫けば、いつか否定していた者達も、その姿勢を認めてくれて、かけがえのないファンに変わっていく。

夕莉には叶えたい野望があった。
登録者数10万人突破を目標として、中堅ライバーになりたかった。

それを支える為に、効果的な思索を模索していた千景に、夕莉が白羽の矢を立ててくる。
配信自体はこなれていて、視聴者を楽しませようとするアイデアを持っている。
しかし、あと一歩のところで、伸び悩んでいる。
運や才能といったどうしよもない要素を補おうと、必死に自分の出来る努力を積み重ねている。
そんな夕莉の足掻きを見てしまうと、したたかに利用するつもりだった関係が、思いの外、深く入れ込んでしまう。
ストイックな彼女を支える中で、数値を追い求める理由と思うようにいかない現実がつまびらかに明らかになる。

金剛ナナセの魂である夕莉は、自らの理想と現実のギャップに絶えず晒されていた。
自分がこれだけ努力しているのに、結果が伴なわない現実に、心が折れかけていた。
ストイック、向上心といった、ともすれば、ポジティブでプラスの思考が、自身を苛む毒となってしまっていた。
更には、数字という目に見える指標があるせいで、
自分の願いが分不相応な物なのかと、自己肯定感も下がってしまう。
それでも、自分の実力でこの野望を成し遂げたい。

たとえ、望みが今、手に届かなくたって、何度もジャンプを繰り返す。
果澪のような圧倒的才能は自分にはないけど、凡人でも愚直に続けられる努力があるはず。
それさえも、やめてしまったら、本当におしまいだから。
毎日、同じ時間に配信したり、視聴者が求めている企画をコンスタントに立案する。
一つひとつは小さな歩みかもしれないが、その小さな積み重ねが、野望へと届く推進剤となる。

理想から、今はまだ途方もなくと遠くても、頑張っている自分自身を自分が一番愛してあげたい。
自分を愛せれば、人にも愛されるようになるはずだから。
夢と才能は基本的に一致しない事も理解している。
それでも、高みへと登った成功者を見上げて、やり切れなかった自分に後悔を抱くよりも。
自分の全力を出して、それでも駄目だったら、自分自身にも納得が出来る。
敵は目の前にいるのではなく、いつだって過去の自分。
今日よりも、ほんの少しでも前に進める躍動こそ価値がある。

路傍の石だろうが、磨き続ければ、輝きを放つダイヤとなる。
華がなくとも、その夢を諦める事なく掴んでみたい。
そんな天才ではなく、秀才なナナセの一面を垣間見た千景は、自らの善性に従って、挫折の中に潜む再起の方法を提案する。
そこから、一気に飛躍する、一度挫折を知ったからこそ、誰よりも高く跳べる夕莉の目まぐるしい成長。

目標である登録者数10万人を達成した夕莉を祝福するかのような、美しい夏の花火を共に眺めながら。
この青春はまだ終わらない、まだ道半ばだと痛感する千景。
VTuberである彼女達を光り輝かせる為に、イラストレーターの自分がすべき事。
裏方の自分だからこそ出来る、彼女達の素敵さを魅力的に世界に送り出す方法。

自らの出来る事を拡げていく中で、彼女達の輝きを世界に知らしめる試みを模索出来るのだろうか?













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