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『リバーズ・エッジ』

Netflixで映画『リバーズ・エッジ』を見た。2018年公開の作品。好みの作品だったので感想などを少々。



原作は岡崎京子さんの同名漫画。連載は1993年から1994年なので、かなりの時間を経て映画化されたようだ。同じ著者の『ヘルタースケルター』も時間が経ってからの映画化であったのでその点は似ている。

あらすじは以下。

舞台は90年代、東京都大田区。女子高生である若草ハルナ(二階堂ふみ)は、彼氏の観音崎(上杉柊平)が苛める山田(吉沢亮)を助けたことをきっかけに、夜の河原へ誘われ放置された<死体>を目にする。「これを見ると勇気が出るんだ」と言う山田に絶句するハルナ。さらに、宝物として死体の存在を共有しているという後輩でモデルのこずえ(SUMIRE)が現れ、3人は特異な友情で結ばれていく。ゲイであることを隠し、街で売春をする山田。そんな山田に過激な愛情を募らせるカンナ(森川葵)、暴力の衝動を押さえられない観音崎、大量の食糧を口にしては吐くこずえ、観音崎との体の関係を重ねるハルナの友人ルミ(土居志央梨)。閉ざされた学校の淀んだ日常の中で、それぞれが爆発寸前の何かを膨らませていた。そうした彼らの愛憎や孤独に巻き込まれ、強くあろうとするハルナもまた、何物にも執着が持てない空虚さを抱えていた。そんなある日、ハルナは新しい死体を見つけたという報せを、山田から受ける・・・。

本作は青春を描く映画である。その中ではかなり異端な群像劇だと思う。まずもって暴力、クスリ、煙草、酒、セックスが散りばめられている。グロテスクなほど生々しい感情、若者が抱えるグチャグチャ感の表現はすごかった。しかしそれは誰しもに、少なからず内在するものである。

若い、とは何だろうか。その存在の内部に様々なものが蠢き、だからこそ途轍もないエネルギーがあるのだろう。彼ら、彼女らにはとにかく「死」が近くにある。刹那的であり、退廃的な快楽も感じた。

暴力やセックス、嘔吐する場面など、激しい描写も多い。人を選ぶと思うが、個人的には最後まで退屈することはなく、のめり込んで観れた。

監督が行定勲さんということで生々しく等身大の描写は、僕が好きな映画『GO』に通ずるものもあった。また時折、登場人物の心情を問うインタビューカットが入り、それぞれの思いを理解した上で物語を追えるのは良かった。

時代背景も見どころの一つだ。ファッションや風景にも時代性を感じるし、携帯電話はもちろん無いので、公衆電話から家に電話する場面が何度かあったり。90年代カルチャーに興味がある自分にとって、その点は引き込まれた。服装は逆に新鮮でカッコ良かった。

小沢健二の主題歌『アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)』が最後に流れるのだが、それも素晴らしい。原作者の岡崎京子さんと旧友であった縁で、映画のために書き下ろされた曲だ。主演の二階堂ふみと吉沢亮がVoiceとして参加している。映画とリンクする部分もあるし、岡崎氏と小沢さんの友情、絆を描いた曲そのものとしても大好きな曲だ。個人的には岡崎氏の事故についても考えてしまって悲しみも感じるが、包み込むような温かさのある曲だと思う。



良い映画に巡り会えてよかった。原作も気になるので読みたい。最後に、物語に登場するウィリアム・ギブスンの詩を引用して終わります。「平坦な戦場」という言葉が好き。


この街は
悪疫のときにあって
僕らの短い永遠を知っていた

僕らの短い永遠

僕らの愛

僕らの愛は知っていた
街場レヴェルの
のっぺりした壁を

僕らの愛は知っていた
沈黙の周波数を

僕らの愛は知っていた
平坦な戦場を

僕らは現場担当者になった
格子を
解読しようとした

相転移して新たな
配置になるために

深い亀裂をパトロールするために

流れをマップするために

落ち葉を見るがいい
濡れた噴水を
めぐること

平坦な戦場で
僕らが生き延びることを


(ウィリアム・ギブスン 『THE BELOVED』より)



読んでくださり、ありがとうございました。 今後より充実したものを目指していきます。