ネット広告代理店が20年のノウハウを集結させたら、金融の常識を変える事業ができた
私はバンカブルという会社を経営しています。
デジタルホールディングス(旧オプト)というネット広告のグループで、新しく立ち上げた「金融サービス」の会社です。
つくっているのは「広告費を分割・後払いで支払える」というしくみ。
「ああ、後払いサービスって、最近流行ってるよね」と思われるかもしれません。
でも、実は「広告費」の後払いというのは、いままでの金融のルールでは「絶対に不可能」だと思われていたんです。それを私たちは、広告というまったく異なる畑にいたからこそ発想し、実現できた。
だからグループとしてもすごく力を入れています。創業から1年足らずで数十億円の投資をいただき、本気で業界を変えようとしています。
なぜ私たちはこのサービスをつくったのか? 既存の金融のしくみでは不可能だったことを、なぜ実現できたのか?
今回はそんなお話をします。
資金不足に困っている事業者の方に読んでいただけたら、最高にうれしいです。そしてそれ以外の方にとっても、新規事業やビジネスのヒントになれば幸いです!
いまの金融のしくみでは、救えない人が多すぎる
銀行でお金を借りるのは、実は多くの会社にとって、けっこうハードルが高いです。
大手の銀行からうちにきてくれたメンバーが、こんな話をしてくれました。
彼は銀行で法人営業を7年ほどやっていました。大手企業の融資をメインで担当していたのですが、あるとき伸び盛りのIT系のベンチャーを担当することになりました。すごく業績も伸びて、売上もあがっていた。
で、その会社から「上場準備をしたいから、その前に大きく投資をかけて、さらに業績を伸ばしたいんです」という話があったそうです。
彼は「業績は伸びてるし、これは行けるだろう」と。それで審査部門に「こういう会社があって、こういう調達をしたがってるんです。どうですか?」と相談して。
すると、結論としては「NO」だったんです。
「社歴が浅くて、実績もまだそこまで多くない。伸びているのはわかるけれども、この先どうなるかわからないでしょ」と。「彼らのサービスって、本当に世の中に受け入れられるの? 成長性はどれくらいなの?」と、とても厳しく話をされたそうです。
彼は一銀行マンとして、自分がお金の面で支援した会社が、成長して世の中に出ることを、いちばんの喜びと感じていました。
それなのに、目の前の困っている会社を助けられなかった。「どうにかできないのだろうか……」と悶々としていたのです。
日本には360兆円が眠っている
いま、日本の銀行にある預金の総額は、約952兆円。
実は、貸し出されているのはそのうちの61%ほど。残りの約362兆円は、眠ったままになっているんです。
預金のうち、銀行が貸し出しているお金の割合(預貸率)は、年々下がってきています。景気が不安定になるなかで、銀行はどんどんリスクを取りづらくなっている。大きくて安定した会社にしか、お金を貸せなくなってきているんです。
これだと、本当に困っている会社に資金が届きません。いまの金融の仕組みでは、どうしても助けられない人がいるのです。
ベンチャーにとって不利な広告の慣例
小さな会社にとって、不利な条件で取引せざるを得ない……。
実は広告の業界にも、おなじ課題がありました。
広告費は、ふつう「翌月払い」でご請求します。掲載の翌月に、一括で支払っていただく。
でも、ベンチャーなどのまだ実績の少ない会社さんには、費用の前払いをお願いせざるを得ないことがあります。万が一、広告掲載後に支払いが滞ってしまうリスクを回避するためです。
これは「前受(まえうけ)」といって、広告業界の慣例になっています。
広告費を受注する側もビジネスですし、前受を打診することは決して悪いことではないと思います。
一方で、これによって、広告出稿を諦めている会社さんも多いのです。
私もオプトでメディアプランナーをしていたとき、お客さんに前受をお願いせざるを得ないことが何度かありました。本当に心苦しかったです。
「金融をナメるなよ」
広告の会社として、この問題にどうにかアプローチできないだろうか?
そう考えたとき、出てきたのが「広告費の分割・後払い」というアイデアでした。
広告費を少額に分割して、後払いで支払える。そんなサービスがあれば、資金不足によってベストなタイミングで広告投資できず、困っている会社を助けられるんじゃないかーー?
アイデアとしては最高でした。しかし、そう簡単に受け入れてはもらえなかった。会議で事業アイデアを提出すると、こんな声が上がったのです。
「広告の会社が、思いつきでそんなリスクの高いことをやるもんじゃない」
「絶対に合意できない。金融をナメるなよ」
と、突き返されました。
それも無理のないことでした。
ちょっと専門的な話になりますが、「後払いする」ということは、サービスを提供する側が「いったんお金を立て替える」ということ。
そのためには「審査」が絶対に必要です。「この100万円を立て替えて、本当にちゃんと返ってくるのか?」を見極めないといけませんから。
そうなったとき、広告には致命的な弱点がありました。
広告には「担保価値」がないのです。
車や家は、ローンでお金を払うことができます。「分割・後払い」ができるわけです。それは、もし何かあって返済が滞ったとしても、車や家を差し押さえればいいから。
つまり、車や家には「担保」としての価値があるんです。だからローンを組むことができる。
会社の場合もそうです。会社は預貯金や資産を持っているので、なにかあったらそれを差し押さえられる。そういう担保をもっているから、融資を受けられます。
金融って「担保」があってはじめて成り立つんです。
でも、広告には「担保」としての価値がありません。広告費はただのコスト。「広告費を融資して、返ってこなかったら広告を差し押さえます」というわけにはいきませんよね。
お金を貸す側のリスクが大きすぎるわけです。
だから、広告費を「後払い」できる金融サービスは、これまでこの世に存在していませんでした。
データを活用して貸し倒れリスクを減らす
では、どうやってこの問題をクリアしたのか?
ひとことでいうと、私たちは「担保なし」でサービスを提供しています。「返してもらえなかったら、もうおしまい」という前提です。
もちろん、何も考えずにリスクをとっているわけじゃありません。
私たちは、ネット広告代理店の「オプト」を中心とした、デジタルホールディングスグループの傘下にいます。
グループ内には20年以上培ってきた、インターネット広告の膨大なデータがあります。
その膨大なデータを分析すれば「100万円でこの広告を打ったら、いくら売り上げが返ってくるのか?」というのが、けっこう正確に予測できるわけです。
「この広告を出せば、これぐらい売上が伸びる。それなら、広告費を渡しても返ってくるだろう」と判断できる。
私たちはこのノウハウを活かして、独自の「広告リターン予測モデル」を設計し、閾値(追加担保を請求せずにすむ、一定の金額)をつくりました。
その閾値を審査に組み込むことで、リスクを抑えつつ「分割・後払い」を実現できたんです。※もちろん、リターン予測モデルだけでなく、他にも多数の審査基準が存在しています。
これまでの金融機関では、どうしても「会社の規模や安定性」で審査をするしかありませんでした。
でも、データを活用したこの審査方法なら「まだ若くて小さいので銀行の審査は通らなかったけど、広告を出せば確実に売上が伸びる会社」にも、サービスを届けることができるんです。
原則、財務諸表も決算書もいらない
さらに銀行で融資を受けるとなると、けっこう面倒な手続きが必要です。
信用金庫で面接を受けたり、区役所に行ったり、財務諸表や決算書を用意したり。まるで「スタンプラリー」みたいに、いろんなところを回らないといけない。
それで結局、実際にお金がもらえるのは1か月後……なんてことも普通にあります。
「銀行のやり方がダメだ」というわけではありません。銀行が融資に使うのは、みんなの預貯金です。絶対に貸し倒れてはいけない。だから、それほど慎重に審査をする必要があるんです。
ただ、ぼくらはそこも、デジタルの力を使って簡略化しています。
うちで広告費を調達するときは、財務諸表も、決算書もいりません。手続きはすべてオンライン。最短3営業日でサービスを提供できます。
売上データをちゃんと把握していれば、リスクをそこまで恐れなくていい。貸し倒れも防げる。だから、既存の金融機関でおこなうほどの厳しい審査は、思い切ってなくしました。
そうすることで、困っている会社を、なるべく早く助けたいんです。
日本の99.7%を占める中小企業を助けたい
このサービスを特に届けたいのが、中小企業の方々です。
これまでの金融の仕組みだと、大きくて安定した会社ほど資金を調達しやすかった。まだ規模の小さな会社は、チャレンジしたくてもできないことが多かったんです。
でもそれでは、世の中はよくならないと私は思います。
だって日本にある会社のうち、99.7%は中小企業なんです。
困っている人がいるなら、なるべくたくさん助けられたほうが良いに決まってます。だから「担保なし、来る者拒まず」。それがぼくらのスタンスです。(もちろん、審査次第ではありますが……!)
会社を成長させたいとか、利用総額を伸ばしたいとか、それは本質ではないんです。そうではなく、助けられる人の数を増やしたい。「そのほうが、世の中よくなるじゃん」と、社内でもよく話しています。
それに、中小企業向けにサービスを展開することは、ビジネス的にもメリットがあるんです。
ご利用金額が高い大企業のお客さまは、もちろんうれしいです。ただ一方で、私たちにとってはリスクも高い。
たとえば、ある会社に1億円をサポートするとします。その1社がもし貸し倒れたら、1億円の損失です。でも、この1億円を100社で分割したら、1社ダメでも9900万円は残ります。100分の1しかリスクがないんです。
これまで「お金を貸すにはリスクが高い」と思われていた中小企業。でも、彼らにサービスを届ければ、一周まわって私たちにとっても、社会にとってもプラスになると思っています。
データが増えるほど、助けられる人は増えていく
私は20代のころ、不動産のスタートアップで働いていました。
やっていたのはリノベーション事業。古いマンションを買い取って、内装をいったんすべて壊して、きれいにつくり直して販売します。つまり、けっこうな額の初期投資がかかるんです。
私はマーケティング担当だったのですが、予算はとてもシビアでした。社長に頼んでなんとか承認をもらって、なけなしの 50万円を握りしめて広告を打って。
本当にこの50万円を使うべきなのか。ひとつ間違えば、みんなのお給料が払えなくなるかもしれない。失敗したらどうしよう……。と、いつも思っていました。
私が事業を通して助けたいのは、そういう人たちなんです。
その後、私はオプト(デジタルホールディングス子会社)に転職して「広告を売る側」になりました。するとそこでのお客さんは、すごく大きい企業が多かった。
オプトは、業界大手のネット広告代理店です。それゆえに、ベンチャーや中小企業を助けられるサービスをあまり持っていませんでした。事業が大きくなってくると、どうしても「そんなに小さな会社に向き合って、儲かるの?」という問題が出てきてしまうからです。
でも、私たちの事業なら、まだ小さな会社でも助けられるはず。
正直いまはまだ、審査でお断りせざるを得ないお客さんもいます。
だからこそ、これからどんどんお客さんを増やして、データを蓄積し、審査ロジックを精緻化していきたい。そうすれば、貸し倒れリスクを極限まで減らすことができます。
そうやっていずれ、どんな人でもうちのサービスを利用できるようにしたいのです。
当たり前にそこにある「インフラ」になりたい
もっともっとたくさんの人に「広告費の分割・後払い」ができることを知ってほしい。
いまはそのために走り回っているところです。
CMを打ったり、ベンチャーキャピタルや地銀、EC支援の会社とも連携していきます。彼らが向き合っている法人の企業さまに対して、うちのサービスを紹介してもらう。
最終的には、当たり前にそこにある「インフラ」になりたいと思っています。
そのために、OEM提供の準備も進めています。「A社が広告費の分割・後払いサービスをはじめました!」というかたちで、裏側のシステムは私たちがすべてサポートする。
車やバイクを買うときも、窓口は車のディーラーさんだけど、そこで保険に入ったり、ローンを組んだりしますよね。裏側には、保険会社やリース会社がいるわけです。
やりとりの中に埋め込まれて、気づかないうちにお客さんの役に立っている。それが、UX的にもベストな形だと思っています。
うちの名前が売れる必要はない。いいサービスが、たくさんのお客さんに届くように動いていきます。
採用費や仕入れ費も「後払い」できるはず
もっと言うと、私たちは「広告費の分割・後払いサービスの会社」を目指しているわけではありません。
”データによって貸し倒れリスクを減らし、担保なしで「後払い」を可能にする”
私たちのサービスを可能にしたこの仕組みは、いろんな分野に応用できると思っています。
採用、人材育成、仕入れなど「その後の成長のために、先にお金がいる」分野はたくさんありますよね。いずれはそういった分野に、この仕組みをあてはめていきたい。
実際に、インドの一部の会社ではすでに「教育費の後払い」がおこなわれています。
まったくの素人に、プログラミングやエンジニアリングの講座を1年間ほど受けてもらう。その間の教育費は、全部タダです。それで一人前になったら、その人が就職した会社から、2年間かけて教育費を回収するんです。
講座を受けた人の就職率や「何年間は退職しない」というデータがすべて揃っているから、このような仕組みが成立しています。
「Buy Now,Pay Later(BNPL)」と呼ばれるこのようなサービスは、世界中で広まってきています。
私たちが目指しているのは、そんな「新しい金融の仕組み」をつくることなんです。
資金不足に悩まず、誰もが適切なタイミングでチャレンジできる。まだまだ道半ばですが、そんな世界を実現するために、これからも全力で事業に向き合っていきます!
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