マガジンのカバー画像

小説

19
21世紀最高のシナリオ。
運営しているクリエイター

記事一覧

剛腕少女

 僕の幼馴染はその人並み外れた剛腕で子供の頃から損ばかりしている。
 初対面の時、挨拶のつもりで握手をしたはずみに手首を折られた。まだ保育園の時分のことだ。なぜそんな無茶をできたと聞く者があるかもしれない。なんてことはない。彼女──剛腕寺火憐が人並み外れた膂力と頑強さを持っていたからに過ぎない。
 遊戯の時間に暇だから「高い高い」をして欲しいと頼み込んだ。しかし天井に頭を突っ込んで突き破って「他界

もっとみる
(没)writing

(没)writing

 読書感想文なんて本を読まない児童に本への嫌悪感を促すだけの効果の宿題、というのは小学四年生の時のぼくの言である。
 当時はあの活字の羅列された紙束を見るたびに肌が粟立った。よくもあんな醜悪な代物がこの世にのさばっているものだと、見るたび胸がムカついた。
 変化が訪れたのは中学生に上がった時のこと。授業で800字で小説を書けという国語教師のお達しに殺意を覚えながら鉛筆の先を尖らせていたぼくに、他の

もっとみる
「挽歌」 引用レスバ対決決勝(あと実力行使)場面抜粋

「挽歌」 引用レスバ対決決勝(あと実力行使)場面抜粋

「昔の人は『彼を知り己を知れば百戦殆からず』と言ったらしいけど……世の中戦ってはいけない相手というのもいるんだよ?」
「『知らざるを知らずと為す是知るなり』お前は自分の限界を知らないが故に大言壮語を吐く」
「おやおや。『教うるは学ぶの半ばなり』なんて言うけどさ、君なんかに教えてもらわなくても俺は自分が勝者になることを知ってる。やれやれ、『善のまた善なるものは却って兵勝の術に非ず』」
そして一休はこ

もっとみる
アキレスと亀:

アキレスと亀:

:亀は超重量であると仮定する。ブラックホールくらいの。そもそも元ネタでは正確な大きさや質量は描かれていなかったわけで、そう考えるとこれもあながち間違いではないのかもしれない()。
そのデカすぎる質量から発される重力が強すぎるので、相対性理論と照らし合わせると時間が遅延とかなんとかするために、側から見ている我々はアキレスが亀に追いつく様を中々観測できない、というわけ。
さらに言うと、アキレスは望んで

もっとみる
壊校

壊校

2020年 
2年B組 百舌鳥 実

 いきなりですが、世界は滅びました。
 今残っているのはここ、架空ヶ崎高校(以下、架高)の校舎のみとなります。
 ここに至るまでに色々なことがありました。三國劉の暴行事件。生徒の集団失踪。校内で頻発する怪奇現象からの怪異生物の出現に伴う虐殺事件。謎の瘴気による淫売術式の完成からの校内大乱交。異形の権能が發顕した生徒間による戦闘行為。
 わたし、百舌鳥実は友人の

もっとみる
タブラ・ラーサ/リフレイン

タブラ・ラーサ/リフレイン

 こつん、とりんごが地に落ちた。
「よってここに、地と重力とリンゴが創造されたわけだ」
「ふぅん」
 ところで。
「君は誰だい?」
「さあ?」
 わかった。ぼくが描写してあげよう。
 人影はとんでもない、絶世の……
「絶世の?」
 人影は問う。
「美少女」
 途端、人影が絶世の美少女だと認識できた。詳細は不明だが、とにかく美少女だ。
「曖昧だなー」
「ぼくにそう高度な筆力を求めないでほしい」
 と

もっとみる

金剛

 男は死にかけていたが、その目には強い光があった。
 襤褸を身に纏い、骨に皮が乗っているだけのような四肢が隙間から覗いている。強い紫外線に曝されて肌は焼かれ、目の下には深い隈があった。
 生きているのが不思議なほどだった。死者が墓から蘇ったのか、そう思わせるほど色濃い死の影が男を縁取っている。
 周囲には目を刺す銀色が陽光を受けて煌めいていた。鉄錆、砂、そして銀色といった、赤茶の地面に突き立った無

もっとみる
ゐ変

ゐ変

 眠気も飛ぶような妙な夜であった。
 私はふと目を覚ますと窓の外で猫が鳴く声がしたので床から抜け出し、肌寒さに毛をそそけ立てながら寝床の緞帳をめくり、窓を開いて宙に白い息を吐いた。
 満月の夜である。
 はるか先に超高層の楼閣を拝みながら窓枠に肘を置き、腕でその身体を抱え込んだ。
 ここに居を構えてからもう数年になる。始めは違和感を生じさせた天井と地を繋ぐ卒塔婆の群れや、赫色に明滅する遊乱燈も見慣

もっとみる
邪悪な許し難い異端の…。

邪悪な許し難い異端の…。

「な、なにをする?!」
「いいから来いや!」
 学校まであと二駅というところでぼくは女子高生に手を掴まれた。ぐいぐい引っ張るそれは強固で、血が滲む強さをもってぼくを拘束していた。
「痴漢だ痴漢」
「死ねばいいのに」
「ああいうの軽蔑する」
「あいつ終わったな」
「通報した」
「よし俺が殺す」
 こそこそこそこそ。周囲の何人かが好奇の視線を向けてくる。うっさいんだよと圧を向けたくなったがグッと堪えた

もっとみる
Pages

Pages

「だからさ、このままここにいてもいいんじゃない?って思って」
 ぼくはそうは思えない。
 彼女を前にしてぼくは熟考する。そして口を開いた。
「……君も、夢を見るよね」
「見るけど?」
「ぼくはね、夢が何層も重なることがあるんだ。どうしても起きなきゃいけない朝、夢を抜けてベッドから出る。けれども体が妙に重いし現実感がない。そこで再びこれが夢だって気づくんだ。そしてまた起きようとする。けれどもそれもま

もっとみる
アイアンフィスト

アイアンフィスト

 やはり人体というのは破壊するに限る。
 それが闘争の結果なら尚更だ。
 そこは一見、コンクリートで塗り固められた、地上に剥き出しのモノリスを思わせる建築物であった。窓一つとしてなく、出入り口は分厚い鋼鉄の扉のみ。目出し窓が設けられたそれを叩き、門番を呼び出して人の目による認証の後、門扉が開かれる。中に踏み入れば誰でも、そこはおおよそ健全な活動が行われている場所ではないことを肌で察する。同時に膚を

もっとみる
うっかり殺害!貴族転生!!

うっかり殺害!貴族転生!!

 生意気な貴族を殺したら遺族に恨まれ、司法局の執殺官に追われてネロウの都を散々に逃げ回った挙句、密航行者に依頼してドゥリムン川を渡って国境を抜けようと試みたところで裏切りに遭い、遂に命運尽きて年貢の納め時と相成った。
「つっても悪いのはあいつだろ」
 逮捕時に愚痴ったのはそんなセリフである。当然聞く耳を持たない執殺官は紫苑を司法局の暗い石牢に鎖で縛りつけた。
 そして遺族の意向いかんによっては拷問

もっとみる