アイアンフィスト
やはり人体というのは破壊するに限る。
それが闘争の結果なら尚更だ。
そこは一見、コンクリートで塗り固められた、地上に剥き出しのモノリスを思わせる建築物であった。窓一つとしてなく、出入り口は分厚い鋼鉄の扉のみ。目出し窓が設けられたそれを叩き、門番を呼び出して人の目による認証の後、門扉が開かれる。中に踏み入れば誰でも、そこはおおよそ健全な活動が行われている場所ではないことを肌で察する。同時に膚を撫でる冷気にも似た怖気た感覚や、人肌から発される湿気臭気の数々が五感を刺激してやまない。薄暗い灯り以外に視野の明瞭を補佐するものはなく、無数の電子スプレイやラッカーの落書きによって低俗なキャンパスと化した壁面が左右から先へと広がっている。硬い床を一歩一歩進んでいくとその先から聞こえる喧騒を耳にするはずだ。その頃には受付に行き当たる。僅かにせり出した机代わりの突起と手錠に繋がれた腕のみが覗く応対口以外に何の装飾も施されていない様は、ここに歓迎されていないかのような心地を与える。そこで対戦したい旨と最低限の身分と負傷または死亡してもいかなる文句もつけないという誓約書を交わし、対戦者の証である鋼鉄のグローブを貸与される。
受付の横の扉を抜ければ、そこは地下闘戯場。
拳と拳によるコミュニケーションの場である。
鼻っ柱をへし折った瞬間血が沸騰した。
相手の顔面が視界のど真ん中で大きくブレて揺れた。唾液の飛沫が宙を舞って照明を反射し、キラキラと汚らしく照った。
どう、と倒れる敵。床にしたたかに頭を打ちつけた。安否が不安だったが、勝利の喜びの方が勝った。
【未完】