【考察】 カフェとロースター2022
「自分のすきなものを、自分のすきな形で」
そういうスタンスが好きで、フリーのバリスタとして、間借りコーヒーやコーヒーショップ分解ツアーなどの活動を続けています。
スペシャルティコーヒーを知ってもらい、街のお店にも足を運んでもらうことを目指し、出会う方々に必要なサポートをしたいと考えていて、
そのための情報収集が不可欠ですが、毎年春先に楽しみにしているのが、
コーヒーを取り巻く環境が1年でどう変化したか知ることができる、雑誌 Casa BRUTUS の特集「カフェとロースター」
今回はこちらを読んで感じたことを共有する記事です。
普段自分が感じていることと照らし合わせ、考察をまとめるとともに、
さまざまな要素の掛け合わせで、本当にいろいろなコーヒーの楽しみかたがある今、たくさんの方に、「こんなのもあるの?」という驚きと楽しさを感じてもらいたいです☺︎
みなさんが想像していることと比べて、
コーヒーは自由でしょうか?
それとも不自由で複雑でしょうか?
私の解釈であり「正解」はない記事ですが、興味があるところだけでも、読んでみていただけると嬉しいです☺︎
伝えかたとしての 「体験」
今のコーヒーシーンの特徴として、細分化と提案の多様化が進み、多くのお店や場で、コーヒー体験の独自性が伸びていっていると言えます。
代表的なのが、東京・清澄白河のKOFFEE MAMEYA KAKERUや、先日 Instagramでもお伝えした、抽出体験ができる下北沢のOGAWA COFFEE LABORATORY.
↓こちらは私自身の体験を記録した動画ですが、
バリスタはコーヒーの” 販売 ”を目的としたお店では成し得ない時間を接客に投下しているのがわかるとおもいます。
1952年創業の小川珈琲。
今回、巻頭にはこの小川珈琲の京都・堺町錦店も取り上げられています。
古き良き喫茶店、そのイメージとすこしの裏切りのバランスが絶妙な「100年先も続く店」
71年目のチャレンジがとても興味深いです。
価値を授ける非日常
従来のコーヒーの楽しまれ方から一度切り離し、これまでと角度を変えた価値を授けて世に出し直す、みたいな作業をしているのが、先述のKOFFEE MAMEYA KAKERUだと思います。
意外に思われるかもしれませんが、MAMEYAでは自社による焙煎を行いません。
国内外のロースターから焙煎豆を仕入れて独自の体験に昇華させています。
だからこそのフルコース。
コーヒーの楽しみ方がどれだけ多様で奥行きがあるか、複数の切り口をもたせたコースという表現でお客さんの意識のなかにある《コーヒーの価値》を上げているんですよね。
焙煎や菓子のプロと、自分たちのスタイルを「 × = 掛ける」ことこそ、
表参道コーヒー (OMOTESANDO "K"OFFEE )という、ちいさなハコから脈々と受け継がれている哲学を最もお客さんに伝えやすい方法なのかもしれません。
東のフルコースがKAKERUなら、西のセレモニーで 京都・WEEKENDERS COFFEEに着目してみましょう☺︎
こちらでは「茶道における美しい道具や見立ての面白さをすくい取り」コーヒーを主役とした「茶会」を提案。
おもしろいですよね。
喫茶店といえばコーヒーなのに、実際の文字として「茶」が据わりつづけているように、お茶とコーヒーは長い歴史の上では運命共同体といっていい。
このページでは建仁寺両足院(上の写真)でのセレモニーが紹介されていますが、この「茶会」の馴染みようといったら。
KAKERU とWEEKENDERS、非日常という共通点がありますが、それはあくまで受け取るほうの意識で、
仕掛ける側の意図としては「お客さんがコーヒーを捉える視点を増やすために非日常をつくった」という順番なんだと思います。
両足院は私も昨年、KYOTO GRAPHIEという国際写真祭のスタッフとして訪れました。庭園のすばらしさは随一。そのときの記事はこちら。
味を規定するものは何か?
次に、コーヒーに関わる人の中でも特に「職人」のイメージが強い焙煎士について。
「カフェとロースター2022」と冠した本誌ですが、味を考えるとき「焙煎」を重要な立場と捉える方は多いのではないでしょうか。
コーヒー豆はコーヒーチェリーという果実の種で、それを洗い乾かし、焼くことで「コーヒー」となりますが、
その焼く行為を焙煎と呼びます。
焙煎・抽出共通の目的は、その豆がもつ特性を引き出すことですが、それをもう少し具体的に伝えるのに使われるのが
「ネガティブな味を抑え、ポジティブな味を引き出す」という表現。
ポジティブとネガティブは人によって感じ方が違うのでは?と思われるかもしれませんが、
ここをもっと細かくすると
「多くの人がネガティブに捉える味を抑え、多くの人がポジティブに感じる味を引き出す」となり、
その線引きは、焙煎士自身によるものとなる。
料理でもそうですが、” おいしさ ”は理論で裏打ちできるものである一方、最終的にはつくる人の感覚・意思に依存していくものでもあります。
なにをおいしさとするのか。もっといえば、
「そこにある願いは何か?」
そんなふうに捉えると、職人の考えを垣間見ることもできる。
面倒だと感じる人もいるでしょうが、その想像の「幅」を楽しむこともできる、と考える人もいるはずです。
いろんな人にいろんなアプローチの余地があると知ってもらうことが大事だとおもうんです。
今回、焙煎に関する記事のなかで最も興味深かったのは、科学者×焙煎士の「虎へび珈琲」
コーヒーがもたらす困りごとに、胃の痛みや胸焼けなどカフェインの弊害がありますが、
「それってカフェインだけが原因なん?」という疑問を打ち立てたところが痛快で、こちらは
タンニンとカビ毒を排したディタンニン&モールドフリーコーヒーを提案しています。
独自の問いを立てることができる人は、自分ごととして課題に取り組み、誰とも違う答えを発見します。
こういう形が否定されることなく、「おもしろい」と評価されるかどうかで、業界の成熟度を計ることができると私はおもいます。
これまでは「邪道」と言われかねなかったものを「飲んでみたい」と思う人が増えれば、もっと「自分だけの疑問」を深堀りする人も増え、その分いろんな「見方」ができていくはず。
私もいろんなロースターさんの豆を使って間借り出店をしていますが、やはり「いろんなお店がある(それ自体が価値)」ということをやや強調して伝えるようにしています。
正しさよりもおもしろさを、均一性よりも多様さを感じてもらうほうが、お客さんが自分にあったものを見つけやすいとおもうからです☺︎
「判を押すように増やすのでなく」
本誌の中ほどでおもしろかったのが、ブルーボトルコーヒーのチェーン観。
チェーン店とは表記されていないものの、
2022年4月現在、国内23店舗を構えるブルーボトルコーヒー、その現状はチェーン展開と言えるとおもいます。ただ、
「判を押すように増やすのでなく」土地に合ったお店づくり。
ブルーボトルの好ましさとあたらしさはここにあります。
従来のチェーン店の代名詞である本部統制の色よりも、「そこに相応しいかどうか」という視点が強い。
では、「土地に合う」とはどういうことでしょうか?
それは土地と活かし合い、溶けこむこと。
その鍵は、境界を「なくす」ことではなく、境界の「超えやすさ」にあるのではないか?
そんなふうに感じたんですね。
一体化するのでなく、ひとつと別のひとつとして関わり合う在りかた。
クオリティとコンセプトの確保という従来のチェーンらしさと、その店が建つ場所に起こる流れを両手に持つような感じ。
誰もが「京都らしい」と感じられる京都カフェ、京都六角カフェをはじめ、
なんてことのない路地を入ったところにあり、店を出たあとは「どこにあったっけ?」と街に紛れるような三軒茶屋カフェも、その曖昧さに「三茶らしさ」を感じることができる。
客席から通勤ラッシュを見渡す品川カフェ、北谷公園内の渋谷カフェなど、「そこにいる人たち」を想像して設られた店。
ただ土地先導で作ることが素晴らしいのでなく、そこに「誰がいて」「どんな時間を好む人たちか」という視点と設計が見事なんです。
そして、
「判を押すように増やすのでなく」という言い回しに妙にピンときてしまうのは、まさに従来のチェーン店へのカウンターとしてのサードウェーブを連想させるから。
セカンドウェーブの代名詞・シアトルでは、「EVERY CORNER」にスターバックスがあると言われます。これはもちろん冗談というか比喩ですが、実際に夥しい店舗数であるという事実以上に、
均整のとれた店の作りが、街をあるく人に、どの角にも同じ店があるかのように感じさせるのではないか?とおもうんです。
大量生産が可能になり広くコーヒーが飲まれるようになったファーストウェーブ、
広まったもののおいしくはなかったコーヒーを「量より質」にフォーカスしていったセカンドウェーブ、
さらにそれを、生産の背景も鑑み、よりよい形での流通と発展を模索するサードウェーブと、その根幹にあるスペシャルティコーヒー。
素材の特徴を把握し、生かすことで生まれた提案を、受け取りやすい形で届け、関わる人みんなの生活の質を上げていく。
それが私のサードウェーブのイメージです。
The Great Good Place ゆるやかな干渉
最後に場所として、空間としてのカフェ、コーヒーショップについて。
社会学者のレイ・オルデンバーグの著書「サードプレイス」などで、家庭でも職場でもない場所、というニュアンスや機能が広く知られました。
カフェやコーヒーショップもそれぞれの姿勢や主張とバランスをとり、今も昔も「まちをつくる」役割を担っています。
よろず屋感が強まり、コミュニティとして機能する、街にひらかれた店。
そこで治安維持を担う人にも、同じようにオープンな姿勢が求められます。
バリスタは古くからこれを担ってきました。
エスプレッソのメッカ・イタリアではバリスタが変わると売上が変わると言われ、オーストラリアではお客さんが来ても全然オーダーをしない。笑
(オーダーの前にバリスタと話をする時間が長い笑)
「人」でなければ果たせない役割ってあるんですよね。
私も覚えがありますが、1つの店で働く期間が長くなるほど、当然ですがお客さんとの関係は濃くなり、「いつもその場所にいる」ことを期待されるようになります。
個別のオーダーを覚え、お客さんと名前で呼び合い、毎日互いの生存を確認する。
来る人の目的がコーヒーではないことに気がついたとき、この仕事の奥深さと本質を見た気がしました。
お店としてもバリスタとしても、来る人の生活の一部になれるってすごいことです。
日常として受け入れてもらえる負荷のなさを体現できなければ、毎日寄ってもいい、会ってもいい、という関係にはなれません。
だから、バリスタは自然体であることが大事です。
この塩梅はそれぞれが考えて試していくしかないのですが、
明るすぎても笑顔すぎても、ラフすぎても丁寧すぎても不自然で、かといって、覇気のないバリスタが淹れたラテを飲みたいと思う人はいません。
無駄がなく正確な手順で淡々と期待されるクオリティを提供し、
決して重くならないレベルで個別対応をして送り出す。
働くひとたちが個々の色を見せながら集団としての個性も維持し、その店に行くことが徐々にいる人に会いに行く、という意識にすり替わる。
一言でいうなら
アソビのある関わりや空間をつくり、ゆるやかな干渉でもてなす。
尖りに尖った個性や専門性のみならず、そこにある日々の在りかたが最大の魅力となる場所も、同じように評価されているんですよね。
(ちなみに、この「サードプレイス」という本の原題は、The Great Good Place. です。)
スタイルをもつことの意味
今日は、毎年春に購読している雑誌「CASA BRUTUS 新・カフェとロースター2022」を読んで考えたことを書きました。
読んでいただきありがとうございます。
最後に、コーヒーに自分のスタイルをもつことの意味について、私の経験から少し。
なぜ仕事としてコーヒーを選び続けるのか、考えることがあります。
専業でないなら、すっぱり辞めてしまうほうがいいのではないか。
他者からでなく、自分で自分にそういう呪いの言葉をかけてしまう時期がありました。フリーで活動を始めた頃のことです。
それまで4年弱店舗に立ち、お客さんとともに街をつくるバリスタという仕事は最高に楽しく、淡々とした日常ながら、他では得られない喜びがありました。
国内外で働き、数々の店舗を訪れ、コーヒーをとおして自分が感じてきた世界のおもしろさを振り返ったとき、
店舗勤務という形から切り離すことはできても、自分のワークのひとつとして、手放すことはできなかった。
ここまでみてきたように、《コーヒー》には様々な要素があり、多様な発展の結果、おおくの人が自分に合う価値を見つけています。
その生産から精製、流通、焙煎、抽出、ペアリングや、他業界とのコラボレーションなど、
世界中で親しまれているコーヒーには、それ自体に関われるポイントと、掘り下げられる懐の深さがあり、誰もが手にしやすいアイテムとして人やコンテンツの間をとりもつ役割を担っている。
これだけのことを可能にできる食材を、私はコーヒー以外に知らないし、その代替不可能性がそのままコーヒー自体の可能性だとおもうんです。
そんなわけで、今もフリーの調理師でありバリスタという少し妙な立ち位置で活動を続けています。
両方の基礎にあるのはコーチングの考えかたと行動指針です。
大事なことは、
お客さんが選びたいとおもえるものを発見し、実際に選べること。
その先にはその人らしさがあり、それぞれの生活がつづいていきます。
自分らしい生活を送る人は、いいお客さん、いい働き手として関わる人をたすけます。
私も店舗時代にそういうお客さんたちと出会い、自分のコーヒー観を持つことができました。
自分の見方を得るのは、自分を正しいと感じられるためではなく、他の人のおもしろい部分を素直におもしろいと感じるために重要です。
それがあるから、他の人とちがうスタイルを選ぶとしても「違いは罪ではなく価値」と考えることができ、結果、合う人に出会うことができる。
コーヒーは限りなく自由だと私は思います。
みなさんが広い世界から自分のコーヒーのスタイルを見つけ、育て、楽しむためにお手伝いできることがあれば幸いです☺︎
バリスタとしての活動は以下に。
よければ是非のぞいてみてください♩
「コーヒーショップ分解」ツアー
間借りコーヒー(東京都北区にて月2回開催)
↓お仕事のご相談・お問い合わせは各SNSでも受け付けています↓
よろしくお願いいたします☺︎
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