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ドント
2019年11月13日 01:59
106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首【第1巻】 ジョー・レアルをぶち殺して首を持参した野郎には10万ドルくれてやる。 そう俺たちが宣言したその翌日。さて、何人が首を持ってやって来たと思う? 212人だ。 持ち込まれたうちの半数は偽物だったが、あとはどっからどう見たってホンモノの、ジョー・レアルの首だった。 信じられるか? 俺には信じられなかった。バー
2019年11月23日 18:38
【↩第1巻】 若い黒人はしつこく、しつこく、しつこく、ずっと相手の顔面をブチ殴り続けた。 信じられない体力と暴力だった。長年、樽の中に少しずつ溜められて発酵していた怒りが、一気に爆発したようだった。 元からぶよついていた白人の顔面はパツパツに腫れ上がっている。その顔をまだ黒人は、最初と変わらぬ力強さで叩き続けている。 タフな西部の男たちも人間だ。残忍なショーが好きとは言えどここまで来てし
2019年11月28日 00:34
【↩2巻に戻る】 …………俺たちがジョー・レアルを狙わざるを得なくなったきっかけ。そもそもの因縁。それは去年のある日。まだ「ヘンリーズ」のドアが今みたいに壊れていない時期に持ち込まれた。 トゥコがニヤニヤして鼻をひくひくさせながら「ヘンリーズ」に入ってきた。バカみたいなチョビ髭もひくついている。 奴は町に酒だの食い物だのを買いに行っていたのだが、情報か噂かジョークを仕入れてきた様子だ。こ
2019年12月6日 09:16
【↩3巻に戻る】 チョビ髭はその59秒を言い切ると腕を組んで座り直した。「さぁっ! やってくれ! 俺は覚悟ができてっからよ!! スパッと一気に……」「おい」「うん?」 振りあおいだチョビ髭の鼻先に、男の拳がふり下ろされた。止めるヒマもなかった。 ぐぇ、と間抜けな悲鳴を上げながら後ろに倒れるチョビ髭。死んだかと思ったが、それほどの強さの拳ではなかったように感じた。「2人ともこれで許す
2019年12月16日 10:58
【↩第4巻に戻る】 ……旦那は震える手で酒をついでいたそうだ。その手を叩いて、丸めてあった手配書を広げて旦那に突きつけた。「そら! 10万ドルの賞金首だよ!」 それから及び腰の旦那を引っ張って外に出ると、ジョーはもう事切れていた。死んだらただの死体だ。もう怖くない。「そら、首だよ首!」おかみさんは作業小屋から二人で両端を持つノコギリを持ち出して、イヤイヤする旦那に片側を持たせて「10万ド
2019年12月26日 08:34
【↩第5巻に戻る】 猛進する馬車を止める者はいなかった。さっきの倍近い早さだ。 砂塵をまき散らしながら馬はまっすぐ暴走していく。車の中にはジョン・ダラス氏とその奥方、そして用心棒が一人乗っているはずだった。 彼らはどう思っているだろう、と俺は考えた。護衛をクビにしたことを後悔しているか。いや、それどころじゃないだろうな。 元護衛のあいつに教えてやりたかった。「ざまあみろだ!」と喜ぶだろう
2019年12月28日 03:15
【≪戻る】 男は、女にキスすらしなかった。顔を近づけすらしなかった。 部屋に入ってからはコートを脱いで掛け、椅子に座っただけだった。化粧台の前の四角い椅子だ。安手の革の張ってある、中に小物がしまえる椅子。 女はこれが嫌いだった。事が済んで座った時、汗をかいた尻に吸い付くような肌触りが苦手だった。 娼館の花見部屋では落ち着いて振る舞う男でも、部屋に来ればがっつきはじめる。それなのに男は、花
2020年1月2日 15:40
【↩戻る】 怖かった。 1時間に20ほどの生首が持ち込まれ、ジョーの首が1時間に10くらいずつ増えていくこの状況も怖かったが、何より俺が、たぶん俺たちみんなが恐れていたのは、「この中に本物のジョーの首はないのではないか?」 という可能性だった。 俺が「どっちだか」で遠目に見たジョー。墓場で見た、あの沈痛な顔のジョー。 持ち込まれた首の半分はどこからどう見てもジョーだったが、これだ
2020年1月6日 00:05
【↩第7巻に戻る】 ずっと向こうの建物の陰に隠れていたブロンドとウエストが何事か、と俺たちの方を見る。俺は残りの2人と共に奴らの方へ駆け寄った。「なんだ? 何が爆発した?」ブロンドが犯人でもないのに小声で俺に尋ねた。「後ろだ。銀行の真後ろが、金庫が爆破された」俺は普通の声の大きさで答えた。「かなりの量のダイナマイトだ。あの爆音だとおそらく金庫は……」 どうする、とブロンドが言ったか言わな
2020年1月7日 10:26
【↩第8巻に戻る】 いきなり口火を切ったのはウエストだった。獣のような声を喉から出しながら数歩前にいた生っ白い白人の若い奴の左頬を右手でブチ殴った。蹄鉄を握っているとは言え人間の顔はあんなことになるものなのだろうか? ウエストの拳はそいつの左頬を突き抜けて口の内側を通過して血と肉片を飛び散らせながら右頬に貫通した。顎はばっこりと外れ眼球は飛び出し白人の若い奴はビックリ人形みたいな顔になった。ば
2020年1月22日 00:02
【↩第9巻に戻る】 燃えさかるバー「どっちだか」も、蜂の巣になったハニーの死体もそのままにして、俺たちは夕刻の荒野を駆けて、真っ暗になるまでには「ヘンリーズ」に到着していた。 志願者や、仲間の半数だけじゃなく、ハニーも殺せたのは幸運だった。俺たちの計画にとっては最高の幸運だった。 店内に入るとウエストは耳を押さえて「いてぇ!」と叫び出したし、トゥコはさっき帰りに一瓶開けたってのにカウンタ
2020年1月30日 01:13
【↩10巻に戻る】 ──先日の殺戮は、頭に血が上っていたせいか、いつもの倍のような速さでコトが動いていたように感じた。 しかしこの時、ジョーを襲撃するときは、全てがゆっくりになって見えた。 両隣にいたモーティマーとブロンドの肩を叩いたあたりから、少しずつあたりの景色も人間の動きも、俺自身の動きも遅くなったように感じた。 モーティマーがゆっくりと──もちろん普通の速度だったろう──岩の上
2020年2月2日 20:22
【↩第11巻に戻る】 ダラスは壊れかけたスイングドアにぶつかった。ひとつめの首を運んできた「おかみさん」が半分壊した片方のドアがその勢いでついに外れて敷居の位置に落っこちた。 クソッ! クソが! その声が遠ざかっていく。たぶん外に置いてある水入りの樽で右手を清めてそれからどうにか処置するのだろう……と頭をよぎった直後、馬のいななく声がした。 ドアの外で、自分の馬を持たないダラスが、誰かの馬
2020年2月3日 20:00
【前回】●106 ……早撃ちというのは面白いものだ。少なくとも俺の経験上、先に動いた方が負ける。 何度か他の決闘を見物したこともあったが、例外はない。「先に動いた方が負ける」 これは根気の勝負なのだ。 じれて我慢ができなくなって、先に動いた奴の肩や腕にグッ、と力が入る。 それを見た俺は、ただ抜いて、撃つ。 向こうから根無し草が転がってきたら避ける。瓶が倒れかけたら掴む。それと同じだ