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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2023年3月の記事一覧

にんべんに弱。

君達は鰯のように、一つの大きな生き物として振る舞っている。 「どうして、君は離れたんだい…

パルフェ・タムール。

完璧な愛はこの世に存在しないけれども、それを希って生きていた方が幸せである。僕はしばしば…

クロニクル嘔吐。

僕の人生には、嘔吐をした日か嘔吐をしなかった日の二種類しか存在しない。後者の方がほとんど…

獏と私の生活。

白昼前から酒を飲んでいると、飼い獏がよそよそしく語りかけてきた。 「昼から酒を飲むとは、…

虹を這う。

あなたは七色が不揃いな虹のような人だった。赤がない日もあれば、紫がない日もあった。私はい…

メトロノーム。

振り返ってみると、圧縮された時間と希釈された時間の両方が僕の人生には存在した。時間は簡単…

鏡(きょう)。

鏡には生まれつき自我が欠落していた。もし鏡がホモサピエンスを形成していく過程に産まれていたとしたら、真っ先に肉食動物に喰われていただろう。へその緒を裁断されたその瞬間から、鏡に然るべき意志はなかった。しかし、現代社会は産み落とされた幼児を甲斐甲斐しく世話するように組織されている。生きる意志すらも持ち合わせていなかった鏡は、システマチックに成長のベルトコンベアに仕分けられた。 鏡はそのラインを進んでいくことで、自然と第三者的に生きることを会得していった。鏡自身に意志はなかった

紫眼のルカ。

「貴方の瞳は可愛らしくないから、これを付けておきなさい」 母は私が15の頃、コンタクトレン…

流。

流(りゅう)は、一度眠った部屋で二度とは眠ることができなかった。 流がその病(病であると…

トワイスアップ。

「アードベッグを……トワイスアップで」 「はいよ。しかし珍しいね」 「トワイスアップが?…

ドッペルゲンガー。

帰省をした部屋には、僕のドッペルゲンガーが生活をしていた。 「やあ、今更帰ってきたんだ」…

やおよろず。

脳みそは空っぽで、いかなる表現も浮かんでこない。「すまんすまん。今日は君日和だったから」…

空が落ちる。

空が落ちてきた。初めは誰も気付かなかった。星座学者が首を捻った。どうも空が近いようだ、と…

双子。

僕と彼女はどちらも双子の片割れだった。僕には弟がいて、彼女には姉がいた。僕の方は一卵性だけどあまり似てなくて、彼女の方は二卵性なのに黒子の位置くらいしか変わらなかった。僕の弟は三年前交通事故で亡くなって、彼女の姉は三年前バーテンダーと駆け落ちをした。どちらも双子であることに、生きやすさを感じることはなかった。 僕は、彼女の姉に一度会ったことがある。ひとり旅が好きな僕は、旅先でその土地を感じさせる酒場に自然に足が向かう。そこに、彼女の姉はいた。余りにも出で立ちがそのままだから