トワイスアップ。

「アードベッグを……トワイスアップで」

「はいよ。しかし珍しいね」

「トワイスアップが?」

「ああ。少しみないうちに、歳を取ったみたいだ」

友人の発言に他意はなさそうであったが、僕は深読みをせざるをえなかった。身の丈に合わないスーツを着て、ネクタイで喉仏を縛っている。

「……辞めたんだよ」

チェイサーを徐々に注いでゆき、ピートの香りが丸くなってからようやく言うことが出来た。

「……そうか。今回はどうやら本当みたいだね」

「ああ。正直いって、限界はとっくに越えていたんだけれどね」

「しかし、諦めることの方がずっと難しいさ」  

友人はチェイサーのグラスに水を注いだ。
 
「僕は君よりずっと……歳を取ったようだ」

「それくらい、身を尽くして生きたということだろう」

アードベッグはすっかり水割りになっていて、角が取れていた。それがまるで今の僕を表象するメタファーのようで、早く飲み干してしまいたかった。

「それでも……僕は歳を取ったんだ」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?