獏と私の生活。
白昼前から酒を飲んでいると、飼い獏がよそよそしく語りかけてきた。
「昼から酒を飲むとは、気楽なものですな」
「バクくん、人間気楽な時には酒を飲まぬのだよ」
「はて、気が楽でないのなら、どうして美味そうに飲むのですな」
「月をひっくり返してしまうくらい、美味いと思い込んで飲むからさ」
「はて、まだ分からないことが多いですな」
「そう簡単に分かり合えたら、誰も苦労しないさ」
「はて、それだから昼から酒を飲むのですな」
「やはり君は頭がいい」
カンパリを飲み干してしまったので、象みたいに重い腰を上げる。冷蔵庫にはカールスバーグの350mlが残っている。それを空けてしまったら、無精髭を気にしながら酒屋に行かなくてはならない。
「はて、この頃は悪夢続きですな」
「ああ、ご馳走続きで君も本望だろう」
「はて、しかし悪夢ばかりだと胃がもたれますな」
「まったく、人も獏も欲望が枯れることはないね」
飼い獏が尻尾を振っている。まるで遊錘を目いっぱいに下げたメトロノームみたいに。それを見ていたら缶が空いたので、私はポケットに煙草を入れて外界に足を踏み入れた。
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