にんべんに弱。

君達は鰯のように、一つの大きな生き物として振る舞っている。

「どうして、君は離れたんだい?」

大きな生き物は僕を諭すように訊ねる。毛羽立っているような無数の目が僕を捉える。見えているものだけではない。幾層もの目が、組成された大きな一対の目が、めいめいに僕を詰っている。

「みんなでやらないと意味がないのにさ」

「ああいう奴がいるから駄目なんだよ」

「俺だって我慢しているんだ」

「私はもうあの子を信頼できない」

いかなる言葉も僕には響かない。響く余地があるなら、僕だって今日もあの一員だ。一つの大きな生き物として振る舞うことが悪であるとは、つゆも思っていない。僕が今日も生きながらえているのは、それのお陰に他ならないからだ。しかし、と僕は思う。

「にんべんに、弱いと書いて、社会だね」

反駁した僕が出来るのは、今を一生懸命に生きることだけである。


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