メトロノーム。

振り返ってみると、圧縮された時間と希釈された時間の両方が僕の人生には存在した。時間は簡単に伸び縮みする。メトロノームみたいに時間が刻まれていればいいんだろうけど、不確かな世界においてそれは虚構に近い。

例えば、齷齪とした日々を過ごせば、多くの人は時間が圧縮されると考える。しかし、むしろ引き延ばされて煉獄に近い状態になってしまうこともある。それは、相対性理論のようなものなのかもしれない。光の速さに近づけば、時間はゆっくりと流れる。時間において起こるそれは、相対性理論よりずっと偶発的なもので、極めて感覚的な事象である。

僕は、毎朝メトロノームの遊錘を気まぐれに上下させ、しばらくその刻音を聞くようにしている。少なくともそのリズムが、僕のステップを助けてくれる。もちろん、そうすることで時間の伸び縮みが防げる訳ではないが、随分生きやすくなる。ティク、ティク、ティク。何度もそらんじる。ティク、ティク、ティク。

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