マガジンのカバー画像

一万編計画

1,281
一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
運営しているクリエイター

記事一覧

啓示。

余りにも克明だった。その夢の感触は現実を越えていた。明晰夢の向こう側にあった。僕は彼女が…

偶然。

夜道、缶チューハイを気持ちよく傾けて上を向いたら、ちょうど窓から人が落ちてきた。ストップ…

マザー。

彼が静かに泣き始めると、シューマンの『謝肉祭』の一節が、まるで出来合いのテレビドラマみた…

呪詛。

「君は、雨の日に死ぬよ」 君が死神と揶揄されるゆえんは、死期を示唆する戯言が時々当たって…

髪と本と眠り。

カジュアルなボルドーワインを一本飲み干してしまうと、僕はシャワーを浴びる。一定以上の品質…

幻想的クオリア。

幻想の幻想らしさを、彼は追い求め続けている。 庭園には、蜜蜂の楽園がある。千日紅の馨しい…

逃運。

性格のいい悪魔は、彼女の願いを渋々受け入れた。 「本当に、知りたいんだね?」 性格のいい悪魔は長い人差し指をぴんと立てて、彼女に警告をした。彼女はとても草臥れた様子で、薄幸に頷いた。 「運命の人がこの先にいることが分からないと、もう生きる気力が沸かないの……」 性格のいい悪魔は彼女の承諾を確認すると、長い指を互い違いに絡ませあって、祝詞を唱え始めた。悪魔がアクセスできるのは、その対象に運命の人は何人いるのか(どれだけ神様が錯乱していても、1人以上は必ず存在する)、そし

笑み剥製。

君は笑顔がとても可愛いから、僕はそれを剥製にしようと思った。 剥製の作り方はこうだ。 ①…

ノイズ・タイピング。

「すみません」 イヤフォンを外して振り向くと、見知らぬ男性が不服そうに立っていた。半袖…

カプレーゼ・ジャッジ。

「今日は、カプレーゼを作って置いて欲しいんだ」 彼が手料理のオーダーをしてくるのは初めて…

熊仮託。

木彫熊が部屋に来てから、僕の生活はとても規則正しくなった。 木彫熊は僕が実際に購入する前…

万色の空白。

「何も思いつかなかったら、その空白を描けばいいのさ」 先生は確かにそう仰ったが、私の空白…

黄泉。

「正直言ってさ、ここはまさに地獄だよ」 僕はその言葉の意味を推し測るべく、黄泉の国を見渡…

Rooted Bouquet.

彼に贈られたスターチスのドライフラワーは、いつまでも枯れなかった。 私が部屋を出ようとすると、彼は首尾良く花瓶からスターチスを抜き取った。 「折角だから、あげるよ」 彼の手慣れた素振りは暗喩的だったけど、その時私はふわふわしていた。初夏に舞うポプラの綿毛みたいに。彼はささやかなブーケを設えて、小さな酒瓶(糊の効いたシャツみたいにパリッと乾いていた)と共にそれを紙袋に入れた。 「ドライフラワーは、手が掛からないから良いんだ」 スターチスは酒瓶の底を抜け、観念的に私の部