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幻想的クオリア。
幻想の幻想らしさを、彼は追い求め続けている。
庭園には、蜜蜂の楽園がある。千日紅の馨しい香りがある。カーネーションのあっけらかんとした美しさがあり、鈴蘭の淫靡な毒がある。そこは幻想的な空間だった。現実感が滑らかに研磨され、間断が続く眠りで見る夢のような、虚構的な感触が毛穴の一つ一つを撫でる。冷たい風が、畏怖に似て背筋をそばだてる。その空間には彼の哲学があり、彼の弱さがあった。
「クオリア」
彼の頭はクオリアで充ち満ちていた。それは形而上学的なフレームだから、彼の頭の中は不格好な気球みたいにひしゃげていた。
「幻想の、幻想らしさを……幻想らしさを、そのクオリアを、私は……」
彼に与えられた才覚は言語化能力ではなかったから、彼の表明はあの幻想的な庭園に集約された。庭園を訪れた人は、みな幻想的なクオリアのその一端を、確かに感じていた。
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