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万色の空白。

「何も思いつかなかったら、その空白を描けばいいのさ」

先生は確かにそう仰ったが、私の空白は描かれることを粛然と断った。それどころか、憐れみの表情を浮かべて、私に諦めを促したりする。僕は先生に思いを馳せざるをえなかった。先生、あの言葉はよもや嘘だったんですか。


「考える前に書く。書き終わったら、酒を飲んで思考を止める。その繰返しでしかないんだ」

「先生は、幸せですか?」

「君の悪いところは、二元論にほとほと犯されていることだ」

先生は物語でしか、私の疑問に答えてくれなかった。私の質問は、先生の中ですでに答えが結ばれているが、それは先生の口から決して漏れない。先生は万色の登場人物に答えを仮託して、物語を組成する。私が物語の中で、先生のほしいままにされる。


「先生は、幸せですか?」

まるで、苦役列車に乗っているみたいじゃないか。三次元の視座から見ても、この生業は地獄だ。

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