空が落ちる。

空が落ちてきた。初めは誰も気付かなかった。星座学者が首を捻った。どうも空が近いようだ、と。宇宙を調べる機関に問うた。数値に異常はありません、と。どうやら人間の範疇を越えた事象であるらしい。

やがて、月を愛でる人達も気付いた。あまりに月が大きすぎるぞ。あまりに空が近すぎるぞ。みんなが気付いたのは、月が気球くらいに膨らんだ頃だった。

「ねえ、少し苦しくない?」

「だろうね。ここはもう成層圏だ」

「成層圏?」

「雲もできない哀しい場所さ」

「私達はここにいるのに?」

「しばらくしたらいなくなるよ」

プチプチを潰していくみたいに、一人また一人と息絶えていく。なぜ空が落ちてきたのかは誰にも分からない。神様のいたずらなのかもしれないし、宇宙の気まぐれなのかもしれない。そのようなことは時々起こる。そのようなことが時々起こる世界だから、僕達はたまたま産まれたのだ。


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