ヨロイマイクロノベルその33
321.
あるもの出せよ。路地裏に連れてきたブルボンを脅す。何も持ってない、と涙を浮かべる。まあ、みんなそう言う。ほら、ジャンプしてみろよ。おどおどしつつ高く飛ぶ。五度目で濁点が落ちた。あるじゃねえの。俺はにやつき濁点を拾う。それは生暖かい涙で濡れ、少しだけ甘い匂いがした。
322.
小雨降る中、停止した時計台の前に小指が落ちている。黒い男たちが集まってきた。小指の周りを囲んで立つ。「北だな」。「いや南東だろう」。思い思いの方角を口にする。雨粒が男たちの帽子のつばから垂れる