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「カレーVSラーメン」

カレー

 僕らはカレー沼にいた。浮かぶ具材の上で難を逃れている。けれどついに煮崩れが始まった。玉ねぎは真っ先に沈んで消えた。じゃがいもの今井が不安そうに天を仰ぐ。
「落ちるにしても俺はまだ先だ」
 にんじん内山の余裕が憎い。
「全部飲み干そうぜ、腹ペコだからいける!」
 言い出しっぺの赤パプリカ前田は途中で心が折れ、ふくれた腹を撫でながら泣いた。
 牛ブロック津村が足を滑らせ落ちた。全員が固唾を呑んで見守る。
「おい、ここのカレー、すりおろしりんご入ってるぞ」
 ウコン色の顔を出して津村が叫ぶ。あいつの味覚、異常すぎる。感心しつつも僕は沈んだ。このたっぷり山盛りチーズ、やっぱりとけるタイプだったんだ。


ラーメン

 なるとを最後に入れて師匠が言う。
「ほら、もう荒れてる」
 丼は激しく渦巻いていた。自慢の透き通ったスープがうねり、白く濁る。海苔は砕け、ねぎやメンマは散り散りになった。麺が深く深く潜っていく。
「活きのいい、なるとが入ったから」
 早朝に港から連絡があったときには意味がわからなかった。でも師匠の言う通りだった。
 丼の縁で雷紋がぐるぐる回り始めた。かろうじて掬ったスープも蓮華の中で渦巻いている。恐る恐る口に入れる。熱くねっとりとした液体が舌の上で回転する。文字通り、味が躍動して駆け巡る。渦は伝播する。獰猛な波が身体の内側から僕に襲いかかる。瞬間的な眩暈のあと、自分が溺れていることに気づく。


これはかぐやプラネットで開催されたカレーとラーメンのマイクロノベル用に書いたものです。二つ書いてみて、カレーで応募しました(コンテストには通りませんでした)

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