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2022年8月の記事一覧
踏みにじられる側から描く戦争ーミニ読書感想「ある日 失わずにすむもの」(乙川優三郎さん)
乙川優三郎さんが2018年に刊行し、2021年に徳間文庫に収録された連作短編集「ある日 失わずにすむもの」が切なかった。近未来、勃発した世界規模の戦争に分断される各国の人々の日常を描く。踏みにじられる側、殺される側から見える戦争の景色を淡々とした筆致でつむぐ。
解説でも言及されている通り、わざわざ英語で付された副題が「twelve antiwar stories」であることは胸に留めたい。これは
村上春樹をつくった翻訳文学ーミニ読書感想「翻訳を産む文学、文学を産む翻訳」(邵丹さん)
中国の研究者・邵丹さんの「翻訳を産む文学、文学を産む翻訳」(松柏社)がとても興味深かった。1970年代末に「風の歌を聴け」でデビューした村上春樹は米作家ブローディガンとカート・ヴォネガッド作品をおおいに学んだとされる。本書この二つの作家の作品の翻訳に焦点をあてる。いわば、村上春樹を「つくった」翻訳文学を解明する一冊だ。
ブローディガンは「アメリカの鱒釣り」という作品で、それまでにない語り口や、現
本を愛する人のための本ーミニ読書感想「モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語」(内田洋子さん)
内田洋子さんの「モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語」(文春文庫)は、本を愛するすべての人に捧げられたノンフィクションだった。イタリアの険しい山中に、多数の本の行商人を輩出した小さな村があった。歴史の片隅に埋もれた小さな物語を、内田さんは掬い上げてくれた。
その村、モンテレッジォは特産品があるわけではなく、中世期には交易路の関所として役割を果たしてきたそうだ。しかしながら村の主要産業がない
カインとアベルになるのかならないのかーミニ読書感想「カインは言わなかった」(芦沢央さん)
芦沢央さんのミステリー小説「カインは言わなかった」(文春文庫)が面白かった。謎、まさしくミステリーに引き込まれた。下敷きとなっているのは、人類最初の殺人として聖書で語られる「カインとアベル」の物語。神話をなぞる展開になるのか、それともこれは全く異なる物語なのか、最後までハラハラさせられた。
兄のカインは、弟のアベルばかりが神に愛されることに嫉妬し、アベルを殺めてしまう。ものすごくざっくり言えば「
中国料理が喚起したアジア各国のナショナリズムーミニ読書感想「中国料理の世界史」(岩間一弘さん)
研究者岩間一弘さんの「中国料理の世界史」(慶應義塾大学出版会)が興味深かった。中国料理を立脚点とし、それがアジアや欧米各国にどう波及し、その国の歴史にどう関わったかを詳述する。いわゆる「テーマ史」かと思いきや、各国のナショナリズムとの絡み合いを深く追求する点でユニークだった。
中国料理は、アジア各国のナショナリズムを喚起するツールとして貢献した。このことを学べたのが大きい。
たとえば、シンガポ