- 運営しているクリエイター
2022年5月の記事一覧
「長い別れ」をようやく読んでハードボイルドとは何かを知った
レイモンド・チャンドラー氏の「ロング・グッドバイ」をようやく読んだ。田口俊樹さんによる新訳が今春、創元推理文庫から登場したことがきっかけ。ハードボイルドとは何か、やっと少し分かった気がする。
ロング・グッドバイとは1950年代刊行のロング・グッドバイは、清水俊二さんによる「長いお別れ」、村上春樹さんの「ロング・グッドバイ」が日本の読者に向けて訳出されている。田口さんの訳は新訳ということになり、タ
脳に対する認識と人生への向き合い方が変わる本ーミニ読書感想「脳は世界をどう見ているのか」(ジェフ・ホーキンスさん)
起業家で科学者のジェフ・ホーキンスさんが著した「脳は世界をどう見ているのか」(早川書房)が非常に面白く、また、胸を揺さぶられる一冊だった。本書は科学ノンフィクションであり、人間讃歌でもある。脳の認知のグランドセオリーとなる「1000の脳理論」を易しい言葉で説明してくれると共に、私たちは自らの脳をどう扱い、ひいてはこの社会、この世界になにを残していけば良いかを問いかける。人間が賢い生き物であり、より
もっとみる好奇心には領域があるーミニ読書感想「子どもは40000回質問する」(イアン・レズリーさん)
イアン・レズリーさんのノンフィクション「子どもは40000回質問する」(光文社未来ライブラリー)が大変興味深かった。テーマは好奇心。「なぜ?」「どうして?」と問うことが、人間の知能や技術革新の根幹だと説き、その主張を支えるたくさんの研究や実験結果を示してくれる。好奇心は、才能とは違う。放っておいては育たない。ある「領域」において好奇心は伸びるのだ、という内容が学べて面白かった。
タイトル通り、人
偶然を引き受けると人生は少し動き出すかもしれないーミニ読書感想「この道の先に、いつもの赤毛」(アン・タイラーさん)
アン・タイラーさんの小説「この道の先に、いつもの赤毛」(早川書房、小川高義さん訳)が胸に沁みた。じんわり温かいスープのような小説。街の片隅でパソコン関係の便利屋として気ままに暮らす独身男性が、ある日「あなたの子どもかもしれない」と訴える青年の訪問を受けるという物語。偶然や、予定外の出来事を拒絶せず、受け止め、引き受けた時、人生はほんの少し動き出すかもしれない。そんな、ささやかで優しいメッセージが伝
もっとみるウクライナ情勢を理解するために4月に読んだ本4冊
ロシアによるウクライナへの侵攻が長期化している。3月から、情勢を理解するための本を読んでおり、4月も読み続けた。プーチン体制の根元的な戦略や、他国の領域で暗殺を展開する非道性への理解を深めた。
①現代ロシアの軍事戦略テレビ出演や、SNSで名前をよく耳にしたロシア軍事研究者の小泉悠さんの著作。「長い2010年代」「永続戦争」という概念で、ロシアが冷戦期の戦闘姿勢、対立構図を引きずり続けていることが
1人で賢くはなれないから連帯して賢くなる仕組みを作るーミニ読書感想「啓蒙思想2.0」(ジョセフ・ヒースさん)
ハヤカワ文庫の新刊、思想家ジョセフ・ヒースさんの「啓蒙思想2.0」(栗原百代さん訳)が面白く、非常にためになった。理性による人間的社会の構築を説いた啓蒙思想を、ポスト・トゥルースや反知性主義が進行する現代に再駆動する。啓蒙思想1.0は個人主義に偏ったのに対し、ヒースさんの「2.0」は協働主義を取るのが最大の特徴。わたしたちは1人では賢くなれなかった。だから手を取り合い、連帯して賢くなる仕組みを作ろ
もっとみる自分が生きることが遠くの誰かのためになるのかもしれないと信じさせてくれる物語ーミニ読書感想「マイクロスパイ・アンサンブル」(伊坂幸太郎さん)
伊坂幸太郎さんの最新刊「マイクロスパイ・アンサンブル」(幻冬舎)に心を洗われた。相変わらず、伊坂作品にハズレなし。文句なしの面白さ。本作は特に、伊坂さんらしいユーモアとささやかな希望を感じられる。自分が生きることが、日常のふとした頑張りや誠実さが、実は見ず知らずの誰かの助けになるかもしれない。孤独や分断がより深刻化する現代において、そんな希望をもう一度信じさせてくれる物語だった。
本作はもともと