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第八開『羽』飴町ゆゆき
鳥の羽を集めるのが趣味だという人に会ったことがある。
自宅の庭や、職場の駐車場など、何気なく歩いているだけでも地面に落ちている鳥の羽を発見できるのだという。この人は趣味の動物観察のために方々の山林へ遠出する際にも地面に目を光らせているらしいが、住宅地近くの雑木林も穴場なのだということで、早朝に散歩がてら羽を探しに行くこともあるのだというから驚きだ。
ところで、地面に落ちていたものは、汚い
第七開『縛る』宗谷燃
生まれてこの方、霊やあの世などスピリチュアルなこととは無関係で生きてきた。それなのに人生20数年目にして今朝初めて金縛りにあった。疲れていたのだろうか、不慣れすぎて戸惑っていたら終わってしまった。何か劇的な展開があるかと実は期待していたのだが、まあ現実はこんなもんか。
ルールは破るためにあるなどと声高に叫び続けていたらいつの間にか誰もいなくなってしまった。何をするにもルールはあって、所詮制約の中で
第七開『縛る』.原井
みなさん、今日も何かに縛られてますか? 今日も何かを縛っていますか?
縛るとか縛られるとか、過激なプレイの話でもはじまるのかと思った方、ちょっと待って。
あいにくと、私はそこには門外漢です。
そうではなくて、もっと精神的な領域の話をしようと思います。
さて、人間の活動を心理的・社会的に縛るものといえば所属する大小さまざまな共同体の明示的あるいは暗示的な規範ということになりましょうか。前者
第七開『縛る』飴町ゆゆき
ある言葉が表す概念がどの程度の広さのものかは、人それぞれだろう。もちろん、暑いだの美しいだの、硬いだの明るいだのといったものは、現象に対するその人の評価に他ならない。学術的な区分を除けば、キツネをイヌだと言おうがオオカミだと言おうが人の勝手なのである。なにせ世界にはチョウとガを区別しない言語まであるということだ。今日の空が晴れなのか曇りなのか我々には名状しがたい別の天気といえるのかなんて、それこ
もっとみる第六開『花/色/本』飴町ゆゆき
「君の作品を読んだけど、まるで泥を塗りたくったみたいだったよ」
そんなことをいきなり言ってきた相手に、わたしはあのときなんと答えてやればよかった?
カッとなったわたしにできたのは、ただ一振りの大きな張り手だけだった。
彼が読んだ作品というのは、つい先日発行されたばかりの文芸部の部誌に、わたしが寄稿したものだった。確かに、読者には作品に自由な感想を持ち、それを述べる権利がある。それはわ
第六開『花/色/本』.原井
「それじゃあ、教科書次のページ」
金曜日の三時間目、理科の授業。佐伯先生の指示にしたがって、ぼくは教科書のページをめくる。真横から半分にスライスされた眼球のイラスト。先生がプロジェクタを操作して、同じ図が黒板に浮かびあがる。
「みんなの教科書にある図です。さあ、それぞれの部分のはたらきについて、説明していこう」
先生がチョークで書き込みを入れながら説明していく。角膜、虹彩、ひとみ、水晶体、ガラ
第六開 『花/色/本』 宗谷燃
初めて会ったとき、その人は私のイヤリングを見て、綺麗な水色だと言った。
仕事帰りに立ち寄った本屋で、いつもは見ない児童書のコーナーをその日はなんとなく通った。見るともなしに歩いていると、ふと一冊の本が目に留まった。赤色で描かれた犬や緑色の猫が出てくる、少し変わった色遣いが印象的な絵本だった。作品を見ただけでは作者の人間性は分からないけれど、この物語のように優しい人だといいなと少し思った。
しば
第五開『酒』 宗谷燃
足元がふわふわしているのは、酔っているからだろうか。固いアスファルトを踏みしめようにも世界はぐるぐる回転して、地球という惑星に生まれ落ちたことを遅まきながら実感する。
寝ている時に見るものと将来へ抱くものが同じ「夢」という言葉なのはおかしい、と誰かが言っていた。考えたこともなかったけど、確かにそうかもしれない。では私が人生の夢とまで言って抱えていたあれは、どっちだったのだろう。もしかしたら水槽の中
第四開『雨』 飴町ゆゆき
雨に遊ぶのが好きだ。打たれるのは好きじゃない。
雨を眺めるのが好きだ。見ざるを得ないのは耐えられない。
雨の音を聴きながら、静かな部屋で本のページをめくる。お気に入りの大きなカップに淹れたコーヒーを口に含む。ふと顔を上げると、壁の時計が朝の11時を指したところで一瞬停止したような顔をして、やおら動き出すのが見えた。今日という日のなにも予定がないことを噛み締めて、また本へと目を戻す、そんななんでもな