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第六開『花/色/本』

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第六開『花/色/本』.原井

「それじゃあ、教科書次のページ」
 金曜日の三時間目、理科の授業。佐伯先生の指示にしたがって、ぼくは教科書のページをめくる。真横から半分にスライスされた眼球のイラスト。先生がプロジェクタを操作して、同じ図が黒板に浮かびあがる。
「みんなの教科書にある図です。さあ、それぞれの部分のはたらきについて、説明していこう」
 先生がチョークで書き込みを入れながら説明していく。角膜、虹彩、ひとみ、水晶体、ガラ

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第六開『花/色/本』飴町ゆゆき

「君の作品を読んだけど、まるで泥を塗りたくったみたいだったよ」

 そんなことをいきなり言ってきた相手に、わたしはあのときなんと答えてやればよかった?
 カッとなったわたしにできたのは、ただ一振りの大きな張り手だけだった。

 彼が読んだ作品というのは、つい先日発行されたばかりの文芸部の部誌に、わたしが寄稿したものだった。確かに、読者には作品に自由な感想を持ち、それを述べる権利がある。それはわ

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第六開 『花/色/本』 宗谷燃

初めて会ったとき、その人は私のイヤリングを見て、綺麗な水色だと言った。

仕事帰りに立ち寄った本屋で、いつもは見ない児童書のコーナーをその日はなんとなく通った。見るともなしに歩いていると、ふと一冊の本が目に留まった。赤色で描かれた犬や緑色の猫が出てくる、少し変わった色遣いが印象的な絵本だった。作品を見ただけでは作者の人間性は分からないけれど、この物語のように優しい人だといいなと少し思った。

しば

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