ミズ・ミステリオーザ -ふくらはぎの刻印- (27)
エピローグ
気づけば端末から、善々珈琲の特別クーポンが消えていた。
もう行かないから、別にいいけど。
あの秋の日、翠が自宅に戻って片付けをしていると、頼んでもいない熱々のうどんが届いて。
出前のおじさんがにっこり笑って言ったのだ。
「大統領特別令指名手配の履歴は完璧に消去しました。ご安心を」
ダーリンさん! と瞬きするともう姿が消えていた。
その後、恐る恐る大学へ行ってみると、拍子抜けするくらいあっさり復帰できたのだった。
一人で過ごすお正月。窓から陽光が部屋の奥まで射し込んでくる。もう一度戻れるだろうか。人を愛していた頃の自分に。それは簡単なことではないとわかっているけれど、もう一度見つけられたなら、前を向いて歩いていけるかもしれないと思う。
カラスが空を舞っている。あれ、向かいのベランダの手すりに縞模様の猫が寝そべっていて、その下を真っ白い犬が駆けてきて。
「コッコーラ! アブラダモッチ! ホニョーラ・ルナ!」
手を振ると一瞬、みんなと目が合って、笑いかけられたような気がした。瞬きすると、もうなにもいなかった。そうだね、そろそろお屋敷ではお茶の時間だものね。
ミステリオーザ婦人に、ハーブティーをもらった。皮膚を整える効果があるから、ふくらはぎのアザは消せないまでも少しくらいなら薄くなるでしょう、と。
でも。
洸一のこと、科学に対する思い、見つめ直して。アブラダモッチに言われたように、わからないことがたくさんある中で、一歩ずつ地を踏んでいると感じられるようになったなら。
そのときは、なんてすてきなpersonaって、胸を張っていくのだ。
翠はキッチンへ向かうと、薬罐を火にかけた。
〈ミズ・ミステリオーザ ーふくらはぎの刻印ー 了〉
イラスト:R. Bonyari
テーマソングです。
歌の撮り直しと、編曲、マスタリングもちょっと修正して再公開。
ありがとうございました!
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。