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僕は編集者に向いていないのかもしれない。

はじめまして。ディスカヴァー編集部の牧野です。
入社8年目、編集部には3年目。

ビジネス書を中心に、こんな書籍の編集を担当してきました。

『トリーズの9画面法』
『わくわく科学実験図鑑』
『プロダクト・レッド・グロース』
『問いかけの作法』
『コンセプチュアル思考』
『今すぐ転職を考えていない人のためのキャリア戦略』

今回、せっかくのnoteの記事なので、きれいごとではなく、ドロッと考えている自分の本音の一部を書けたらと思います。

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編集者として持っているのは、2つの思い。

3年前、僕は「編集者」になるべく、ある2つの思いを持って編集部に入った。

そして、今も変わらず思っていることでもあり、かつて入社した頃からぼやっと抱えていた思いでもある。

それは、 

1.「読者」など分かりたくない
2.「売れる本」の編集者にはなりたくない

ということ。

 

……強がりました。正確にはこう。

1.「読者」など分からない
2.「売れる本」の編集者にはなれない

 

1.読者のこと、読者の気持ちなんて、分からない。


工学部の修士課程を卒業してから、ディスカヴァーに入社。
営業部、デジタルチーム(電子書籍担当)、プロダクト部(イベント・新規事業)を経て、3年前、編集部に異動するという、編集者としてはやや遠回りなキャリアを歩んできた。

そのおかげもあって、直接、あるいはイベントなどを通して、さまざまな立場の人から多くのことを聞き、教わった。

書店営業でお世話になった山陽エリアの書店員さん、電子書籍の先駆者の方々、ディスカヴァーの先輩・同期・後輩、前社長の干場さん、現編集部のマネージャー……。

挙げだしたらキリがないが、

「ビジネス書は読者の成長体験である」
「編集とは愛である」
「本は悩む人の課題解決のための手段である」

などなど、心に残るフレーズがたくさんある。

要は、書籍とは、読者ありきのものである、と学んできた。

 
知識としてはよく分かる。
しかし、僕はいまだに、その「読者」とは一体何者なのか、よく分からない。

じゃあ追求してみようとなると、 

「書籍の客層分析をしてみました。20-40代の男性を中心に売れています!」

怪奇!POSデータ(レジの購買履歴)の客層分析によって突如&毎度のように現れる「20-40代男性」。その謎に包まれた存在に迫る、ということになる。
それが、自分が営業で担当しているお店の話になると、

「この本、買う人いるのかな?」「この本、ネットでは売れるけど、書店では売りづらい」

さっきまでの存在感はどこへやら、「20-40代男性」が忽然と消える。(僕も営業部時代に、この華麗なマジックをよくやっていた)

頭に浮かんでいる「買いたくない人」「その本に興味のない人」って、本当はどこの誰?
「20-40代男性」は存在しないのか?
買わない理由を並べるけど、その理由を考えている「誰か」って、どこにいるの?

 

結局、その「読者」って、誰なんだろう?
自分自身(の一部)か、自分の幻想が生み出した人物以外にいるのだろうか。

 

2.「売れる本がいい本」だとは思わない。

 
大前提として、売れるものをつくれる人は、凄い。
なので、これは僕の反骨精神と技量不足からの強がりかもしれない。

 少し前に、「自己肯定感の高い子どもを育てる」ための書籍が、いっぱい出ていて、売れていた。
主張はよく分かる。もちろん、著者や読者を否定する気は全然ない。
だけど、自分だけの世界を生きている人に僕は良さを感じないし、友達にはなれない。
自分の息子を自己肯定感の高い子に育てたいとは、1ミリも思わない。

テレビで紹介されている本が、ベストセラーになった本が、
全ていい本だとは全く思わない。

(自身も身体がむちゃくちゃカタいので)開脚できることへの着眼とコンテンツ化した発想は天才だと思っているが、その本が、僕の本棚に入ることはない。


いい本って、何だろう?
その価値は、誰が決めるんだろうか。

 

今、自分ができること。

 
「読者」に寄り添えない、そして「売る」ことにこだわりきれていない僕は、編集者に向いていないのかもしれない。

ベテラン編集者の域には、もしかしたら一生たどり着けないかもしれない。

 
でも、だからこそ、自分が編集する本の読者は自分しかいないと思って本を作るようにしている。
そして、それを手に取るであろう自分へのメッセージを込めて、編集するようにしている。

新しい視点・哲学があり、自分の課題感を解決した企画を作る。
売れていなくても、絶版でも、自分が感動した本は認める。パクって吸収する。

コンテンツと著者を最高にリスペクトするからこそ、自分の琴線に触れない内容や面白くない部分の気持ちは、著者にぶつける。
10分くらい書店を歩き回ったら見つけられるタイトルにする。
読んだあとに本棚に置いておきたくなる内容にする。

そんなことを考えながら編集する。

そして最後は、「いいパッケージになったなあ」とニヤッとして、カバーを巻いた束見本を本棚に差して校了する。

 

自分がいいと思ったものを等身大で作る。

僕には多分、これしかできない。

 

自分の書籍は10万部も売れなくていいと思っている。
メディアでちやほやされたいという思いもない。
(著者や会社のために、結果として売れて欲しいとは思っている)

 

ただ、それが、

大学の時に出会った「伝わるデザイン」のサイトや、ディスカヴァーダイアリー、多田将さんの『すごい宇宙講義』(イーストプレス)のように、自分と似たような思いを持った人の視界に入り、その人の世界線を少しだけ変えられたらいいと思う。

著者にも、編集者にも、誰しもにストーリーがある。

数人しか見ていないYoutubeチャンネルにも、ひっそりと投稿されたブログやnoteにも、哲学はある。

ほんとうはみんな、誰かに語りたい自分だけのリアルがある。

 

そして自分も、そのリアルを生きる。

 

自分の編集観は、ただのエゴかもしれないが、その思いが伝わることを信じて、今日も机に向かう。

10万人に刺さる何かではなく、5人くらい、自分の手で触れられるくらいの人の明日が変わる何かを作る編集者でありたい。

(編集部・牧野)



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