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生き延びること=核戦争『死に急ぐ鯨たち』by 安部 公房 9.11以後 予感の実現


Reviewed in Japan on August 7, 2003 Amazon

 もうかなり前に書かれた本書で、安部公房は、次のように述べている。
「…誰かが生き延びるために、誰かが死ぬ、この条件がある限り、サバイバルは犯罪になってしまう…人間が人間を所有し支配できるかぎり、生き延びようとすることで誰かを殺してしまうんだ…ファシズムとはすなわち選別の思想なんだ…殺すことも、殺されることも拒否しようと思えば、二人とも死ぬしかない…いまわれわれが置かれた状況は、まさにその選択を迫っているとぼくは思う。どっちかが生き延びることをゆるされるのなら、核戦争も許されてしまうじゃないか」(p.104-108.)

 これは決して、「冷戦時代の思考」ではなかったことが、9.11とイラク戦争後、やっと明らかになり始めている。「核戦争も許されてしまう」という鮮明な予感は、今まさに現実のものとなった。核は今や、「偏在する潜在的なものとなった敵」の裏をかくことさえ可能なものとして、それ自身が「偏在する潜在的な力」となった。それは、多様な戦術に応じて、いついかなるときにも、誰に対しても使用され得るものなのだ。

 このような状況において、本書だけが語ってくれることは何だろうか。



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