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我々に突きつけられた問いとしての「自己決定権批判」『死は共鳴する―脳死・臓器移植の深みへ』by 小松 美彦

Reviewed in Japan on December 29, 2002 Amazon


密着的不在」という言葉でかけがえのない他者の他者性を見事に名指した著者の批判がその力をあらわにするのはむしろこれからだろう。とりわけ「新優生主義」、「ネオリベラリズム」といったテーマについて考えるとき、この本から出発して学ぶことは多い。著者の自己決定権批判という論点の射程は、例えば次に述べるような切迫した現代の問題の核心に突き刺さっている。着床前受精卵や胎児細胞の遺伝子診断は、ハンチントン舞踏病などの根治不可能な遺伝性疾患にとどまらず、「一般に重篤な遺伝性の障害を持つことが予測される子ども」の出生を「確実に予防する」ことを事実上の狙いとしている。個人の「自由な選択=自己決定」にもとづいて生殖細胞系列(卵、精子、受精卵および初期胚)を選別=廃棄するという「予防を目的とした予測医療」が社会的合意を持ってしまう可能性があるのだ。つまり、社会的圧力としての「新優生主義」が社会政策の実践を大きく方向づけていく可能性である。我々は、著者の投げかけた批判を受け止め、「個人、カップルの選択=自己決定による遺伝病の診断、治療、予防」というWHO主導でグローバル化しつつある理念を批判的に吟味することを迫られている。

参考






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