見出し画像

占領の二つの時 ――今は亡き母の若き日々に

2013年創作(一部改変)

以下の詩作品は、私の母親の実体験の証言に基づいて創作された。

 この国に敗戦が迫っていたあのとき 
地上軍の上陸後に首都東京が戦場となってしまえば
この国はそのことによって二つに分断され
そのとき愛する者たちが東京を挟んで分かれて住んでいたなら
それ以後二度と生きて会えなくなると思われた

半永久的な別れの予感が切迫していた
だがそれは
予感という言葉をはるかに超えでた
圧倒的な
いてもたってもいられないほどの力だった

東京というこの国の中心が地上戦に巻き込まれることで
東からそこを通りぬけて西のエリアへとたどり着くことも
西からそこを通りぬけて東のエリアへとたどり着くことも
いずれも不可能となり
そこを通過する以前に
あるいはそこを通過するさなかで
例外なく殺されるか
力尽きて死んでしまうに違いないと思われたのだった

あの日すでに一度焼き尽くされた東京という巨大なエリアは
そこで地上戦を経ることなく占領された
だが
その後東京へとたどり着きそこを通過することが
人々にただちに死をもたらすことはなかった
──この国は致命的な分断を免れたのだろうか?

そのとき「戦争は終わった」のかもしれない
しかしそれ以後の時の流れのなかで
殲滅された集団は数知れない

人々は生きていた
そのあとも

一見減速されたように見えるが
確実な死へと誘導する時の流れが
かつての東京というエリアによる分断の予感を
場所のない世界を占領しながら
いたるところで実現している

よろしければサポートお願いいたします。頂いたサポートは必ず活かします。🌹🌈🎁