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短編/超短編(創作)

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ロマンスを裏返す

ロマンスを裏返す

「精神的に向上心のない者は馬鹿だ。」
僕の敬愛する夏目漱石先生の作品、『こゝろ』の一節。
最初、この本を読んだ時、全く理解できなかった。

僕は今まで空で踊る雲とか、白いキラキラとか、そんな綺麗で透明で、誰よりも優しいお友達と一緒に暮らしてきた。
人間のお友達もいたけれど、彼らとは一種の契約関係を結んでいただけだったと思う。お互い、大きな共同体という概念から自己を守るだけ。代わりに小さな労力と精神

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霧雨あるいは煙になる事を乞う

霧雨あるいは煙になる事を乞う

悲しいと、雨に打たれたくなるよね。
辛いと、煙になりたくなるよね。
わかりますその気持ち。
幸せでいることが怖くなって、自ずと不幸に進んでいくものでしょう。
陰湿でカビ臭いところにいると心が安らかになって、ここで死んでもいいって思えるんです。

雨に濡れながら歩く夜道は、緊迫感と街の明かりが自分の周りをつつんでいるように感じて、その瞬間だけこの世の主役になれる気がしますよね。
髪を揺らす激しい風で

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黴

シャンパンボトルがぶつかって中で弾け出す泡。
指先から伝わる他人の熱や、コンピューターの起動音。
口から溢れる知らない誰かの悪口。
安心と快感。オレンジと赤の保安灯。
重なる札束、重いドア。

使い物にならない時計。
棚から落ちる本。踏みつける失敗作の原稿達。
飛び散った乱反射する透明の破片。
映し出るカラーバー。砂嵐。

静かに流れる体液。
窓を開けると入ってくる人間の香りの外気。
優しく揺れる

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僕を涅槃に連れてって。

僕を涅槃に連れてって。

真っ黒な世界では何も見えないから余計なことは考えずにすむという。

逆に真っ白な世界こそ私たちを不安にさせる。
だって何もないんだもん。

見えないほど幸せなことはない。
目を閉じれば、ほら!嫌なことは全て隠すことができる。聞きたくないなら耳栓をすればいい。
触りたくないなら手足を切り落とせばいい。
情報を遮断する方法は如何様にもあるんだよ。

何もないほど不幸なことはない。
欲しいものも手に入ら

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泡沫と衝動

泡沫と衝動

“There is no such thing as, what if”

人間、三代欲求だけに依存して生きることが一番楽だ。
でもそれだけじゃ、生きていけない。
108の煩悩が毎日を豊かにするし、自分を人間たらしめる。

さて、僕は一度満足すると煩悩が欠落する。
三代欲求を中心にして円を描いていた煩悩たちは、まるで身の危険を感じて逃げ惑う小鳩達のように散々する。

そして、僕は“暇”を名目に煩悩

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