用務員さんの重要性に気づいて欲しい!という話
こんにちは。
オマメの心理部屋にお越しいただきありがとうございます。
ここでは、都内で臨床心理士として働く私が、普段考えていることを纏めています。
今回お伝えしたいのは、題名の通り、
用務員さんの重要性に気づいてくれよ〜!
という話です。
「そんなの、知ってラァ!」という方は、
ここでお別れかもしれません。
「用務員さん大好き!」という方はきっと
うんうんと共感してくださることでしょう。「どういうこと?」と心を傾けてくださった方は、このままお進みください。
スクールカウンセラーをやっていると、
学校において用務員さんは要となる存在だ…と常々感じます。
ところが、管理職や教職員の中には、
用務員さんや受付さんの重要性を分かっていないようにみえる方がちらほら…。
「いや、掃除するだけの仕事でしょ」
「代わりは幾らでも居る仕事だから」とか。
おいおいおい。
何もわかってないんじゃないのか??
こういうセンスのない発言を聞いてしまうと、
ふだん穏やかだと自覚している私の攻撃性が
出てきてしまうことがあります。
また、みなまで言わずとも、
心のどこかに上記の様な考えというか、
ある種の仕事が"誰にでもできる仕事"だと
思ってしまう人は結構いるのではと感じます。
その価値観にささやかな警鐘を鳴らしたい。
これまで用務員さんに支えと助けをもらい、
彼らを愛し愛されている(と自惚れている)私が解説していきます。
用務員さんの重要性
そもそも用務員さんはどんな人かというと…、
ざっくりいうと、
「学校の環境を整えてくれる人」なんですね。用務員さんの仕事をもう少し詳しくいうと、
こんな感じ。すでに格好良くないですか。
「業務内容が独特で幅広く」「即応性が求められる」「経験的な専門職」なんだって。
私は勤め先で仕事のできる用務員のおじさまに3人ほど会ってきましたが、職人のような渋さがあり、まさに上記のような感じでした。
他の業務もやってらっしゃるかもしれませんが、私が観察した限り、メインのお仕事は、
①校内の床掃除
②ゴミ管理
③壊れた場所やものの修繕
④見回りとお喋り
こんな感じではないかと思います。
1つ1つの仕事が、臨床心理学の目線で見ると
かなり意味深いです。
①校内の床掃除
複数の学校を巡っていると、校内の床の汚さが
学校によって違うことに気づきます。
おおかた、公立の学校は広くて汚れやすい(校庭からの土埃&子供達が遊ぶのですぐに汚れる)
のですが、階段などを見ると一目瞭然です。
できる用務員さんが居ると、校内が常に整然と
保たれていることが分かります。
逆に用務員さんの数が足りなかったりすると、
床に埃や枯れ葉が散乱している時が多いです。
敢えて心理学的に解説するなら、
「割れ窓理論」が丁度いいでしょうか。
環境犯罪学の理論で、"割れた窓を放置していると他の窓も割られやすくなり、修理しておけば
他の窓も割られにくくなり、犯罪防止に繋がる"
というものです。
学校でいうと、ゴミだらけの床にはゴミを落とし易いが、綺麗な床にはゴミを落としづらく、環境が自然と大事にされるということです。
同じ理屈で、教室内の環境も綺麗に保っておくことが推奨されています。要は、
床が綺麗な方が秩序が保たれ易いんですよね。
ちなみに大学院の頃、心理相談室の運営で最初に叩き込まれるのも「掃除の大切さ」でした。
クライエントのために快適な環境を整えておく
こと、環境を一定に保つところに安心感が生まれることなど。書ききれませんが色々な意味が
あることを学びました。
皆さんも、大事な来客がある日には、
お部屋を念入りに掃除したりしませんか?
「相手が来る環境を大事にすること≒相手を大事にしている」という、非言語のメッセージになるのだと思います。
綺麗な学校は、子供達に"あなたたちを大切に思っているよ"と非言語で伝えてくれるのです。
逆に汚い学校は、子供達に"まあ埃を吸ってもしゃあないですわ。人生そんなもんですわ"と
伝えてしまうことになるかもしれません。
そう思うと、学校現場でのカウンセリングは、
用務員さんが整えてくれた場の上に成り立つ
ものなんですよね。
また、綺麗な校舎は子供達だけでなく、そこで働く教員や心理士の心まで整えてくれます。
用務員さん、マジ感謝。ということなのです。
ちなみに、心理士がどこかの機関に勤める時、
まずはその職場自体をアセスメントしろという
教えがあります。
学校現場に勤める場合、まずは、
「落とし物がどのくらいあるか見とき」という
ヒントもあります。
落とし物が丁寧に管理されているか、それとも乱雑にされているかというところから、
些細な問題が放置されている組織か/子供が困っている可能性に思いが行き届いているか…等
色々な査定材料になります。
こんな感じで、学校という環境がどんな風に
整備されているかは、学校全体に影響を与える
土台のようなものなのです。
その要となるのは用務員さんのお仕事であり、
校舎の床掃除は学校内を歩く全ての人を支える
大切な仕事ということになります。
②ゴミ管理
用務員さんは「ゴミを司る人」でもあります。
ゴミを集めて出すだけでなく、校内でのゴミの
分別指導を担う姿を見たこともありました。
まず、「ゴミ」そもそもが意味深いものです。
汚いもの/不要なものなので、触りたくない人
も多いかもしれませんが、
私達が活動したことで「ゴミ」は生まれます。
つまり、ウンコみたいなものですよね。
子供達が室内で遊ぶとゴミが出ます。
教員がプリントを刷るとゴミが出ます。
心理士がおやつを食べるとゴミが出ます。
これらの最後を引き受けてくれているのが、
用務員さんなんですよ。
葬儀屋じゃないけれども、ある種の汚れ仕事と
いいますか。ありがたいを超えて申し訳ない。
私の勤め先の用務員さんは、ゴミ処理場まで
研修に行き、得てきた知識をリーフレットのように面白く纏めてくれた時もありました。
その文章があんまり面白かったので、感想を
お伝えしたところ、昔ラジオのパーソナリティをされていたと聞きました。
え〜、そんな人だったの!?
…ってこと、結構あります。
元警察官だったり、実はセレブだったり。
意外なバックグラウンドを持った方が用務員に
なっていることも多いので、面白いです。
③壊れた場所やものの修繕
はい、きました。
用務員さん花型のお仕事、いちばん職人らしさが発揮されるところかと思います。
①でご紹介した「割れ窓理論」でいえば、
割れた窓を修繕するヒーローです。
私は以前、相談室の扉が建て付けが悪かった
ことがあり、うまく開け閉めができずに困って
しまったことがありました。
クライエントさんが来た時にも、いちいち
『ガタッガタッ』「ああすいません、ちょっと
建て付けが悪くて…」と言わねばなりません。
すごいストレス。だったんですが、
用務員のおじさまに伝えたところ秒速で直してくれました。
爽やかな笑顔で「直しといたよ」と笑いかけて
くれた時。あれはなんでしょうね。
虫歯の時の歯医者さんみたいな、水道管工事の
お兄さんみたいな頼もしさがありました。
別の機会でも助けられたことがあります。
私がスクールカウンセラーとして初めて学校に
勤務した日、緊張で便秘だったのが災いして、
トイレを盛大に詰まらせてしまったのです。
※この手の話が苦手な方は飛ばして下さい。
便器から水が溢れてきて仰天し、気が動転しながらも用務員室に助けを求めました。
初対面だった用務員のおじさまがスッポンを持ってトイレに来てくれたのですが、使いながら
「…あれ?奥に何か硬いモンが詰まってるな」
と言いました。
大人になってから情けない話なのですが、そのまま何かが特定されることを想像した私は、
心細さと恥ずかしさで泣きたいような気持ちに
なりました。そんな私の心情を察してか、
「あとはやっとくから大丈夫だよ(ニコッ)」と
用務員さんは安心させる笑顔をくれました。
②ゴミ管理にも通じる話でしたが、
学校内で壊れたものを直してくれる用務員さんは、私の不安まで修繕してくれたのでした。
④見回りとお喋り
最後はこれ。これもイチオシの(?)お仕事です。
用務員さんは学校中を掃除して回るので、校内の見回りを兼ねることができます。
校内を隅々まで回る人って、実は他にほとんどいないんですよね。
このため、用務員さんだから気がつく情報というものがあります。
先日、勤務先の中高で昼休みに用務員さんと
お話したところ、興味深い話がありました。
その用務員さんは年配の女性でしたが、
毎日多数の生徒を見るので、表情や雰囲気が
異色なお子さんがわかるというのです。
「あのねぇ、確かめようがないし、分からないんだけど…私たち、毎日凄い数の生徒さんを見るでしょう?そうすると、"あれ〜…このお子さんは、ひょっとして愛情に飢えてるのかな?"って思う子がいるんですよ」と言っていました。
統計的なリソースがとれなくても、
そういうことはあるだろうなと思います。
保育士が多数の赤子を見る中でなんとなく正規分布の体感値を得ていくように、
心理士が多くのクライエントを見る中で対人的な直観を養っていくように、
用務員さんは用務員さんの観察眼を持っているのではないでしょうか。
校内でなにか変わった様子があったりだとか、
気になる生徒がいた時に、用務員さんは早くに
情報を掴んでいる可能性があります。
また、用務員さんは学校内の人間関係について
色々な情報を持っていることも多いです。
学校内を巡回しているので、あらゆる教員と
廊下で立ち話をする機会があるんですよね。
また、お掃除している彼等に油断して教員が話していたことを実は聞いていたりもします。
安全なスパイというか、なんというか。
なので、スクールカウンセラーをやる方は、
ぜひ用務員さんと仲良くなることをお勧めします。有用な情報が貰える時がありますよ。
また、私たちは、相手が用務員さんだと油断して喋り易いという心理もあると思います。
職員室の人間関係は、時に複雑です。
管理職に対する鬱憤や不満が溜まっていることもあれば、同僚同士のいざこざもあります。
そんな時、職員室の人間関係ネットワークから
自由な存在である用務員さんは無害に見えて、
旅先で出会う人のような役割になってくれる
ことがあります。
用務員さん相手に身の上話をしたり、愚痴を吐き出している教員の姿をよく見ます。
また、私自身も、勤めたばかりで職場に慣れない頃、用務員さん達にお話し相手になってもらって救われたところがありました。
権威的な役割でない分、実習生から管理職まで
全ての人と対等に話してくれる方でもあるのです。ね、すごく大事な人じゃないですか?
用務員さんの重要性まとめ
つい熱がこもって、気づけば4500字を超えていました。
長い文章にお付き合いくださり、誠にありがとうございます。
今回記事を書くにあたって、
用務員さんの仕事を調べてみたところ、
昔は「小使」とか「給仕」とか言われて、
教員の身の回りの雑用をさせられていた時代が
あったということでした。
用務員さんの仕事を見下すような発言がたまに
聞かれた背景には、職業差別的な歴史もあったのかな?と思いました。
世の人の認識はこれから変わっていくでしょうが、私の心の中にも、当初からなぜか、
「用務員さんの仕事を馬鹿にする人たちがいる」という前提は確信に近い形でありました。
歴史的な背景は馬鹿にできず、自分の中にも
無意識にインプットされている職業差別的な
認識があるのではないか、とも考えます。
私たちのどこかに、ある種の仕事を
"誰にでもできる仕事"と思ってしまう時があるような気がしませんか?
しかし、こうして一つの仕事を掘ってみると、
全ての仕事はどこかの視点から見ればかならず
意味深いものであると思わざるを得ません。
誰にでもできる仕事なんてないんじゃないかな。
私の知人で、中高の頃に自分の悩みを用務員さんにだけ話せたという子がいました。
相談室に来る人だけが相談者ではなく、用務員さんはある瞬間、天然のカウンセラーになっていることもあるのです。
そういう意味では仕事の垣根もあまりないよねと思ったりする今日この頃。
それではこのへんで、今回のお部屋を閉じたいと思います。
みなさまの用務員論もぜひお聞かせください。
では、また〜。
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