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水曜日はおいしいたのしいカレーの日

幼い頃、一週間に一度はカレーを食べていた気がする。

一週間は盛りすぎだろうか。
いや、記憶を辿っても
10日か二週間の間には必ず一回はカレーを食べていた。 

毎月必ず給食でカレーが出たし
家でも定番メニューとしてカレーはよく出た。
ハンバーグよりカレーの日の方が多かった気がする。

 
私はカレーが好きだった。

スパイス等香辛料や具材で深みが変わるのに
カレーは普遍的にカレーだった。
まずいカレーなどない。
カレーはいつもどんな時も安定してカレーであり
想像がつく味
安心感のある味は
私をいつも喜ばせた。

 
小さい頃はカレーの王子さまという甘口カレーが好きだった私は
やがて中辛派に変わった。

自宅で作る時はジャワカレーとバーモントカレーを混ぜ
牛乳を入れてまろやかさを出すのが我が家流だった。

 
姉は甘口派だったので
我が家のカレーの日は
甘口、中辛、シチューをまとめて作った。
カレーの日は汁物としてシチューもついた。

それが我が家では当たり前だった為
友達の家ではカレー日とシチューの日が別日だと知った時は大変驚いた。
社会人になった時、シチューご飯が給食に出た時も大変驚いた。シチューはパンのイメージがあったからだ。

シチューはいつも私を予想外に驚かせる。
味以外の理由で私を驚かせるのだ。

 
 
私は大学生以降、外食のカレーにもハマッた。

食べ慣れない物だと胃の調子を崩したり
あまり食欲が沸かない偏食家の私にとって
変わらない味のカレーは正義であり、救世主でもあった。
変わらない味…予想がつきやすい味なのに
お店によってコクや深みや隠し味が違うカレーは面白くもあった。
ギャップ萌えに近い。

 
私はナンにハマり、キーマカレーとナンをよく注文した。
自宅ではライス&カリーだが
外食でカレーといったら、ナン&カレーだ。
あの大きなナンを引きちぎり、カレー(私は大抵、チキンカレーやキーマカレーを選択する)につけて食べる幸せよ。
ナンを完食はなかなかに厳しいが、それでも頼まずにいられない。
外出先でカレー屋を見掛けると、ついついカレー屋に引き込まれる。
周りに色んな飲食店があっても
私はカレーの誘惑に負けてしまう。

 
大学生時代に、浅草の洋食屋に入ったら、焼きチーズカレーというメニューを見つけた。
メニュー名からして、当たりの予感しかない。
洋食屋だから、オムライスやグラタン、ビーフシチューなんかも美味しそうだったし
確か友達はそれらを頼んでいたが
私は初めて出会った、焼きチーズカレーの響きにノックアウトされた。
一目惚れにほぼ近い。

焼きチーズカレーは、美味しすぎた。

私は感動しながら、バクバク食べた。 

 
カレーにチーズがこんなに合うなんて!それを焼くセンスよ!さすが東京さんはハイカラだ!

 
と、かっぺまるだしな感想を言いながらバクバク食べた。
友達もそれぞれ美味しいと言っていたので、多分その洋食屋さん自体のレベルが非常に高かったのだと思う。

 
 
当時は家庭教師のバイトをしていたので
夕飯は一人で食べることも多かった。

大学時代、私はオムカレーにしてカレーを食べることにハマッていた。
玉子とカレーの相性の良さに私は拍手しかない。

カレーは定番メニューでありながら
可能性に満ちあふれていた。
スパイスの調合や具材を変えるだけでなく、
トッピングでもバリエーションを楽しめる。
カレーパンやカレーマンもあるし
お米だけでなく、パンでもマンでもナンでもいける。
万能過ぎてもはや怖い。

 
 
やがて社会人になった私は
今度は半熟目玉焼きをカレーの上に乗せることにハマッた。
トロッとした半熟の黄身とカレーのハーモニーが堪らない。

 
生卵をカレーに乗せる人もいると聞いたが
私はまだ試したことはない。
生卵はあまり得意ではないからだ。
だが、オムカレーや目玉焼きカレーでカレーと玉子の相性はお墨付きだし
生卵が合わない訳はない。
ゆで卵で試したこともあるが、やはり安定の美味しさだった。
おそらく、温泉卵やウズラの卵でも素晴らしい結果を残すはずだ。
ワイルドな人なら、ダチョウの卵と一緒に食べるかもしれない。

 
 
 
そんな私のカレーライフは、あるアイドルとの出会いで更に彩られていった。

私がアラサーの頃、ガールズq/b(ガールズキュービー)という三人組のご当地アイドルに出会い、推しになった。

 
ガールズキュービーは精力的にライブを行っていた。
毎月、第二水曜日と第四水曜日は「In Time Wednesday!!」というイベントを行っており
その日はメンバーのたのしいなちゃん(本名である)が作るカレー(ランチェキ付き)を販売していた。

 
 
水曜日はイベント名は同じだが、内容が異なる。

第二水曜日は推しドリ企画カラオケ(メンバーがたのしいなちゃん一人になってからは、カラオケ)をしてから、 q/bライブを行った。

 
推しドリ企画とは、メンバーカラーのジュース(生写真サイン付き)を一杯500円だか700円だかで売り(ど忘れ)
ドリンクの売り上げを競うものだった。
その日、一番ドリンクが売れたメンバーはソロ曲を多めに歌えた。

単推しの人は、好きなメンバーのドリンクを必ず頼み
箱推しや生写真が欲しい人は、複数もしくは全メンバーのドリンクを頼んでいた。



 
 
一方、第四水曜日は、前半はアコースティックライブを行い、後半はq/bライブを行った。
アイドルライブは生演奏がほとんどない為
アコースティックライブはレア中のレアである。

   
     

マネージャーの松岡さんはプロデビューを果たしたギタリストの方で
ガールズq/bはとにかく、オリジナル楽曲や生演奏、音響にこだわりのあるアイドルだった。
ご当地アイドルは、カバー曲を歌うアイドルも多々いるが
ガールズq/bは、ワンマンライブの企画以外ではカバー曲は歌わない。
オリジナル曲にこだわりと誇りがあるのだ。

 
ライブ本数もとにかく多く、ガールズq/bはライブ第一主義の印象でもあった。

 
 
だが、ライブ本数が多かった分、私は水曜定期ライブに行けなかったし、行かなかった。

水曜定期ライブは、夜20時からである。

私は毎日23:30前には寝ていたのだが
ライブ仲間の話によると
水曜定期の日は終わる時間が遅いらしい。
次の日は仕事だし
帰りが遅くなるのは、体力がない私には辛かった。

 
イベント企画自体はどちらも非常に楽しそうで
私はブログやTwitterを見たり
ライブ仲間から話を聞いたり
写真を見せてもらっては
いつか水曜定期に行って、メンバーお手製のカレーを食べたいと願っていた。

 
 
 
そんな中、私に幸運が舞い降りた。

2018年の某第四水曜日の次の日が祝日だったのだ。
私の職場は祝日は仕事が休みである。
この日を決して逃してはいけない。

憧れの水曜定期ライブだ!

私はルンルンした。
ファン歴が長い割に、ようやくの水曜定期参戦といったところだ。
残業にも力が入る。
普段はライブTシャツで現場で会う仲間が
スーツや作業着なのも面白い。

 
みんな一日仕事をして、水曜定期に間に合うようにライブハウスに集まったのだ。
そう思うと、ヲタ仲間の社会人の顔が見えて面白かったし
スーツ萌えな私はニヤニヤした。

 
受付ではみんなが、「フルセットで!」「フルセット!」と伝えている。
ライブ仲間によると、カレーを頼む場合はそう言うらしい。
知らなかった。

松岡さん「こんばんは。お!ともかちゃん、水曜定期初めてだね。カレーどうする?」 

  
私「フ、フルセットでお願いします!」

 
力みすぎて噛んでしまった。
フルセットデビューだ!フルセットデビューした、万歳!
私はテンションが上がった。

 
 
普段はスタンディングライブだが
水曜定期の日は椅子とテーブルが並べられた。

「ともかちゃんはせっかく来たんだから前に来なよ。」

ライブ仲間は一番いい席を譲ってくれた。
優しい。

 
カレーはセルフで、自分でお米をよそって、カレーを好きなだけかけていい。
お代わり自由だ。

たのしいなちゃんちのおばあちゃんは農家なので
メンバーのおばあちゃんが作ったお米を炊き
メンバーのおばあちゃんが作った野菜が具材に使われた。
地産地消だ。

大鍋にカレーは山盛り、お米もたくさん。
だが、残ることはまずない。
美味しいので、みんな食べきってしまう。

 
たのしいなちゃんはこだわりがあり、みんなに喜んでもらおうと
毎回カレーのレシピ(隠し味)や具材を変えていた。
たのしいなちゃんは料理が上手なのだ。

だから、どんなカレーが提供されるかは
その日次第でもある。
それもまた、ワクワクだ。

 
カレーの日はお菓子も振る舞われ(こちらもお代わり自由)
インスタントみそ汁も飲み放題だ。
持ち込みもありなので
メンズはコンビニ等で唐揚げ等を買ってきて
周りに分けてくれたりもした。

 
水曜定期は、想像以上に楽しかった。

 
「今日も一日仕事お疲れ様!」とみんなで乾杯し
カレーをバクバク食べた。
たのしいなちゃんのカレーは噂通り美味しかった。
お米も非常に美味しい。
たのしいなちゃんのおばあちゃん、ありがとう。

 
みんなでしゃべったり、食べたり、飲んだりして
笑い合っていたところで
主役のアイドルのライブが始まる。
 
沸くライブとはまた異なり
しっとりとしたアコースティックライブはしんみりと聴かせてくる。
たのしいなちゃんは歌が抜群に上手い。

 
歌や生演奏は感動的なのに、カレーの香りがライブハウスに充満しているのだから
そのギャップが面白い。

 
 
アコースティックライブの後は沸くライブなので
飲食を中断し
一旦テーブルを後ろに下げる。

通常ライブは全力応援だ。
コールし、ケチャし、タオルやサイリウムを振る。
ライブ仲間とふざけて
それを見てメンバーが笑って 
そんなメンバーに私達はまた嬉しくなって
盛り上がって盛り上がって盛り上がって
ライブは終了となる。

 
ライブが終わると再びテーブルを戻し
ライブの感想を言いながら
また仲間とカレーやお菓子を食べたり
飲み物を飲む。

その間にメンバーはメイクを整え
物販交流会が始まる。

 
メンバーにライブの感想やカレーの味を伝えた。
メンバーは、私が来たことをものすごく喜んでくれて
私は私でようやく水曜定期に行き
メンバー手作りカレーを食べられた幸せを噛みしめた。

噂通り帰りは遅くなったが
明日は祝日なので何も怖くない。

 
本当にたのしいなな一日だった。

 
 
 
だが、それからも私は水曜定期になかなか行けなかった。

そうそう第二水曜日や第四水曜日の次の日が祝日なんてことはない。
たまに振休を木曜日にあてて、水曜定期に行ったものの
ほとんど行けないまま
気づけば2019年秋になっていた。

 
その頃には他のメンバーが卒業し
ガールズq/bはたのしいなちゃん一人になっていた。
ガールズq/bを私が知った時はメンバーが3人いたし
もともとは箱推しだったが
やがて私は、たのしいなちゃんだけのガールズq/bを応援している期間の方が長くなっていた。

私の中で、たのしいなちゃんはどんどん大きな存在になっていた。

 
 
2019年は仕事がとにかくハードでメンタルがやられ
私は2019年秋頃から、水曜定期に行く回数を増やした。

ライブ仲間とバカ騒ぎしたり
ライブを楽しんだり
推しの笑顔を見ることは
仕事を乗り越える為に必要不可欠だった。

 
私が行く頃には、水曜定期は第四水曜日のみになっていた。

 
 
ちょうど今から一年前くらいである。

「お誕生日おめでとう。」と推しから言われたくて
私は仕事を調整して、水曜定期に行った。
私は1月が誕生日である。

 
ライブは相変わらず楽しかった。

カレーは美味しいし
大好きな仲間やアイドルに囲まれた時間は幸せでしかなかったが
ライブ終わりにサプライズがあった。

「ハッピーバースデー トゥーユー ハッピーバースデー トゥーユー♪」

 
いきなり会場全員が歌い出し
私はケーキを贈られた。
そして、ティアラやらたすきやら何やらをつけられた。

 
「ともかちゃん、お誕生日、おめでとう!!!」

 
私は泣いた。
推しと二人で話した時に一言、「お誕生日おめでとう。」と言ってほしかっただけだったのだ。

 
だが、仲間内で
仕事が大変な私を励まそう、お誕生日をお祝いしようと秘密裏で動いていたらしかった。 
メンバーやマネージャーの松岡さんも、それを快く賛成してくれた。

それが嬉しくてたまらなかった。

 
カレーもケーキも美味しいし
仲間は優しいし
推しはかわいいし
プレゼントもたくさんもらった。

 
 
誕生日当日より、水曜定期の日の方が誕生日らしかったし、私は間違いなく、会場にいる中で一番の幸せ者だった。

 
 
 
水曜定期はもうすぐで100回を迎えようとしていた。
今度はこちらの番だ。

100回目をファンみんなでお祝いしたい。
100回目は絶対に駆けつけたい。

 
そう思っていたのに
この誕生日祝いから程なくして
水曜定期は無期限延期になった。

 
コロナウィルス感染拡大である。

 
 
誕生日祝いをしてもらったことが遠くに感じた。
幸せは儚い。

毎月、水曜日にライブやカレーを楽しむ未来は
コロナや緊急事態宣言の存在で
描けなくなってしまった。

 
 
そして、私達は、違う未来を歩き出した。
 
 
 
 
2019年6月。
ガールズq/bはCafe&Bar47(シーナ)をオープンした。
たのしいなちゃんがチーフで、松岡さんも働いている。
お店の一角にはステージがあり
チーフとして働きながらも
イベント時はそこでライブを行った。

 
「水曜日はカレーの日!」

 
第二水曜日や第四水曜日にカレーライブを楽しんできたファンにとって、それは合い言葉だった。
それまでは水曜日は自宅でカレーを楽しんでいたファンも
水曜日に仲間で店に集い
カレーを食べるようになった。

 
お店に行けないファンも
水曜日はカレーを食べては、ガールズq/bに思いを馳せた。

(こちらは某日曜日に仲間とライブに行った日に、ライブ会場付近で食べたカレー。たのしいなちゃんアクリルキーホルダーを添えて。

ファンにとっては、水曜日といったらカレーだし、ガールズq/bといったらカレーなのだ。) 

 
 
47ではカレーと焼きチーズカレーを販売している。
どちらもめちゃくちゃ美味しいし
トッピングも色々楽しめる。

2020年はコロナや緊急事態宣言の影響で
テイクアウトも始めた。
テイクアウトメニューにはカレーもある。

 
水曜定期ライブがなくなっても
店内飲食ができない期間も
ファンはカレーを食べ続けては
元気をもらっている。

 
こんな世知辛い世の中でも
カレーを食べると推しの笑顔が浮かんだ。
それは希望の光だった。

 
 
 
2021年に入り、再び緊急事態宣言が出された。

2020年よりむしろ事態は悪化している。
暗いニュースばかり続く。

ライブは自粛を求められるし
飲食業界も風向きはよくない。

 
 
Cafe&Bar47はまだ一年を迎えたばかりだ。
まさかオープン時はこんな日を迎えると思わなかった。

ファンの居場所 
地域の皆さんの憩いの場になるようにと
プレオープンを迎えたあの日
47にいたみんなは明るい気持ちしかなかった。

 
 
ガールズq/bも47も
今できることは限られていて
動くに動けなくて
不安はたくさんあると思う。

私も他のファンも
先の見えない今に押しつぶされそうで怖い。

 
 
だから、そんな時はカレーを食べる。
可能ならば水曜日にカレーを食べる。 
無理のない範囲で可能ならば
47店内でカレーを食べる。
テイクアウトだっていい。

 
 
ガールズq/bや47のお陰で
水曜日の楽しさが増えた。
週の真ん中の水曜日はなかなかしんどいけど
でも
たのしいなちゃんのお陰で笑顔が増える。

 
水曜定期がなくなっても
コロナで制限がかかっても
カレーが持つパワーは健在だ。

カレーを食べてコロナに負けない。
負けるもんか。

 
たのしいなちゃんのキャッチコピーは

【今日も一日たのしいな】

である。

 
 
曲の合間にはファンみんなで

【魔法をかけるよ たのしいな】
【幸せハッピーたのしいな】

と、言う箇所がある。

 
言霊を感じる。

「たのしいな」と推しの名前を呼び
推しの笑顔を見るたびに
私達は楽しくてたまらなくなり、笑顔になる。
本当に、魔法のようだった。

 
 
こんな時代だからこそ、楽しさや美味しさを大切にしたい。
笑顔で過ごしたい。

そして今は耐えて耐えて
いつか虹がかかる未来を待っている。

 
今日も一日たのしいな

と、毎日言えるように
毎日丁寧に生きていきたい。



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