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速達の手紙と一年半ぶりの再会

私は障害者施設で働いている。

その障害者施設では様々な物を作り
販売している。

 
10年以上働き、そこで骨を埋めたいとまで思っていた施設を不本意な形で退職した頃
世間ではコロナ感染の話で持ちきりで
私は大好きな利用者や保護者や同僚と
色々な意味で会えなくなった。  

だが
今の職場は毎日様々な場所に出掛けるので
出掛ける先々で私は再会を願ったし
実際
複数人の方との再会を果たした。

 
特に土日祝日の販売時は再会しやすい状況なので
私は販売日をいつも心待ちにしていたし
販売日は他の職員より多めになっている。

私はものづくりより売ることの方が性に合っていて
私が販売を担当すると、売れ行きが良いこともある。

 
今度の販売日は、現場リーダーと行くことに決まっていた。

リーダーと販売は初めてだが
リーダーは気が利くがいい意味で適当で
一緒に仕事はやりやすかった。

いつもと勝手が違う販売場所だったが
リーダーとなら大丈夫だろう。

そう私は安心しきっていた。

 
前日までにリーダーと販売準備をしたり、打ち合わせをし
「明日はよろしくお願いします!」と言い合いながら
私は職場を後にした。

 
販売前日、家に帰ると
速達で手紙が届いていた。

私の元担当利用者とその母親からの手紙だった。

元担当利用者からは、様々な質問が書かれていた。
その方は質問が大好きで、働いている頃は毎日いくつも質問をされていた。

だが
私が仕事を辞めてから質問ができなくなったので
こうして手紙を書こうと思ったようだ。

変わらないなぁ…

そう、微笑ましくなったのは利用者の手紙に対してだった。

 
だが、母親からの手紙は別の印象だった。

様々な辛いことがあり、最近しんどいこと。
私が働いていた時は、色々話を聞いてくれたから支えられたが、今は誰も彼女の悩みを聞いてくれないこと。

明日の販売に家族一同でいくこと。

再会が楽しみな反面
転職したことで、私が遠くの世界に行ってしまったようで寂しいと綴られていた。

 
私は号泣したし
色々考えてしまって 
その日はよく眠れなかった。

 
利用者もそのご家族も優しく仲良くあたたかい人柄で
私達は親しかった。

母親は笑顔だが、頑張り屋さんで
私はよく公私の悩みを聞いていたし
談笑することはたくさんあった。

私達は信頼関係と愛情で絆はできていたし
仕事中、彼女らの優しい言葉で支えられたのは
むしろ私の方だった。

 
退職時は理不尽な施設のやり方に本気で怒り、泣いてくれたご家族だった。

退職日に素敵なソープフラワーの犬をもらい
それを玄関に置き
毎日毎日眺めては元気をもらっていた。


退職後も何度も手紙やプレゼントをくれたが
手紙を読むと
利用者は毎日「施設に行きたくない!ともかさんに会いたい!」と家族にこぼし
家族にしても
不誠実な施設の対応に不信感になっていた。

「会いたい。」
「私もともかさんのように頑張る。」 
「また施設に戻ってきてほしい。」
「大好き。」

手紙には大抵そんなことが書かれていた。

 
退職してから約一年半が経った。

明日、私は笑えるかな?泣いちゃうかな?
転職先で働く私はどう見えるかな?

そんなことを思いながら 
無理矢理眠った。

 
 
 
販売日当日
寝不足だが、仕事に支障はなさそうだった。

いつもより出勤時間は早い。

余裕をもって自宅を出たが
いつも誰よりも早く出勤しているリーダーは
私より先に着いて私を待っていた。

二人で談笑しながら利用者を待ち
全員揃ってから販売場所に移動した。

販売場所まで移動する間
利用者は朝が早い為爆睡していて
私はリーダーと色々話をしては笑った。
リーダーといると居心地が良い。

 
販売場所に着いてから
リーダーと相談しながらディスプレイしていく。
リーダーと私は価値観が似ているし
利用者も温厚な方なので
仲良く和気藹々と準備をした。

 
その日は暑く、販売場所は日なただった。

販売開始したての頃はあまり人がいなく
暑い中立っているのはなかなかにしんどかったが
利用者やリーダーと一緒にいて
笑い合ったり、話していたら楽しかった。

 
この日、出張販売店の数は50以上だった。

販売場所はよかったが
周りはお店だらけだった為
売り上げは全く読めなかった。

 
ポツリポツリと製品は売れ
人は徐々に増えてきた。

私は仕事をしながらも
いつ元利用者と元保護者が来るかとドキドキしていた。

 
 
販売場所に到着してから二時間後くらい経った頃だろうか。

マスクをつけた人並みの中に
見覚えのある顔が見えた。

元保護者(母)のAさんと私がまず目が合った。

お互いに目を見開き
二人で手を振った。

Aさんの隣には元利用Bさん、その父親Cさんがいた。

私は名前を呼びながら
売り場を抜け出して走った。

 
「Aさん!Bさん!Cさん!」

 
私は半泣きになりながら笑った。
そして三人とたくさん話をした。

事前にリーダーには知り合いが来ることを伝えていた為
話す許可はもらっていたのだ。

 
Aさんは手紙では弱音を吐いていたが
私の前では笑顔で穏やかないつもの姿で
Bさんはかわいい印象からきれいな印象に変わり 
Cさんもあたたかい表情だった。

 
三人は私が利用者と担当して作った物をたくさん買ってくださった。
ありがたかった。

AさんとCさんは最近の施設の質の低下を話し
Cさんは何度も「戻ってきてほしい。保護者は全員歓迎しますよ。」と言った。 

「妻はともかさんとの連絡帳のやりとりや手紙を何度も読み返してる。今の職員は対応が事務的だ。

今日改めて思ったけど、ともかさんほど人に寄り添う職員はいない。

私達はみんなともかさんが大好きなんだ。」

とも。

 
 
Aさんは言った。

「“施設に行きたくない”と本音を漏らす娘を毎朝励まして送り出すのが辛い。連絡帳を書くのも毎朝辛い。冷たい言葉しか返ってこない。
ともかさんがいたら、こんな風じゃないのに、ってことあるごとに思う。」

 
「ともかさんが元気そうでよかった。変わらないままでよかった。」

三人から、そう何度も言われた。

 
私が元気なのは、ずっと大好きでずっと会いたかった三人と再会ができたからだ。

 
私はAさんとCさんに伝えた。

転職した今でも前の職場は大切であること。
今の職場で様々なことを学び、いつか前の職場に活かしたいこと。
退職してからも、前の職場と仕事でやりとりしたこと。
コロナが落ち着いたら前の職場と何らかの形で繋がりたいこと。
出張販売があるから(コロナ禍でもみんなと再会しやすいから)、今の転職先で働いているというのもあること。

 
私の気持ちは伝わっただろうか…?
今でも、大好きだということが。 
 
 
話した最後に、少し早いクリスマスプレゼントとメッセージカードをもらった。
私はそれを見てまた泣きそうになった。

「また会いましょうね~!」

私は三人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 
心がポカポカした。
確かな元気をもらった。

大好きで大好きな、Aさん、Bさん、Cさん。
遠いところ、忙しい中、来てくれてありがとう。

 
 
それから一時間も経たない内に
前の職場の保護者Dさんが来てくれた。

Dさんは私の大好きな、お手製栗の渋皮煮とパンを差し入れてくれ、更に、「そちらの施設でやってみたらどうか?」と、手芸材料と見本を分けてくれた。

Dさんは、私の出張販売に来てくれるのはなんと3回目である。

お正月用の新商品の予約販売もしてくれて
とてもありがたかった。

 
お正月用の新商品は、私が受け渡す予定だ。
また近々会えると思うと嬉しくて仕方ない。

Dさんのご家族とは、退職してからも何回も会っていて
電話ももらっている。
ありがたいことこの上ない。

 
更にその後、元同僚も来てくれた。

生憎、その時は利用者の昼休み支援があった為、バタバタしてしまってあまり話せなかったが
元同僚も何度も来てくれるのでありがたかった。

 
 
その後は、今の職場関係者がたくさん来た。

利用者、その家族、施設関係者が来て
呼び込みをしてくれたり
雑談をして笑い合ったり
楽しい時を過ごした。

差し入れもたくさんもらった。
ありがたかった。

 
退職をして、転職をして、新たに得た楽しさや喜びや繋がり。

それをしみじみ感じた。

 
 
一般の方からもたくさん購入していただき
売り上げは目標金額を大きく上回った。

ありがたかった。

 
 
 
利用者が帰った後、リーダーと二人きりになり、仕事を終えて職場を出た。

リーダーは定時で上がりたい方で、職場を出たのは確かに定時であった。

だが
今日は二人で駐車場で話が盛り上がり
なんと一時間も話していた。

 
リーダーとこんなに二人きりで話したことは初めてだったし
とても楽しかった。

 
リーダーは優しい。

誰よりも早く毎日職場に来て、全体をいつも見ていて、さり気に手伝ってくれる。
今日もそうだった。
リーダーと一緒だったから頼もしかったし
たくさん話せて楽しかった。

そう、楽しかったのだ。

 
前の職場は大切だ。

でも
私は明らかに、今の職場が居場所になりつつある。
毎日が、楽しいんだ。

今の職場は穏やかで明るい未来が夢見れる。
私は私の選択を後悔はしていない。

 
 
 
 
帰宅後、私はAさん、Bさん、Cさんに返事を書いた。
便箋6枚分だ。

速達の手紙の返事と、販売店に来てくれたお礼、今の気持ちを伝えた。

泣きながら書いた。

退職や転職は一種の裏切りのような思いは抜けないし
人事異動さえなければ私はきっとまだあそこで働いていた。

 
でも
転職先で新たな出会いがあり、繋がりができた。 
楽しさや喜びを感じ
毎日笑顔で過ごせている。

やりたいこともある。
 
 
今の私を、私は好きなんだ。


















 



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