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叶いそうで叶わない

私は動物が好きだ。
哺乳類が好きなのである。

 
毛がモコモコしたり、モッフモフしているのが堪らない。
茶色の毛に特に弱いが
白だろうが黒だろうが灰色だろうがまだらだろうが
まぁ基本的に何色でもよい。
黒くパッチリとしたお目々もソーキュートだ。

鳴いても鳴かなくてもよい。
懐いても懐かなくてもよい。

 
哺乳類はただそこにいるだけで愛しい。
かわいくて堪らない。

 
 
哺乳類は昔から好きだが、ペットとして飼うことは許されなかった。
両親が、ペットは死ぬのが悲しいと言うのだ。
両親が許さない以上
強行突破は許されない。 

 
動物園はなかなか行けないし、そもそも動物園は檻の中に動物がいるのがかわいそうだった。
動物園の動物は活気がなく、寝てばかりだったので
余計にかわいそうに見えてしまったのかもしれない。

 
家で飼うことは難しい、動物園はなかなか行けない、行けても状況によっては切なくなる。
そんな私がてっとり早く動物に会うためには
動物を飼っている友達の家に行くことだった。

 
仕方なく私は、動物を飼っている友達の家によく遊びに行った。
私は絶対的ネコ派で、ウサギやハムスターも好きだった。
正直なところ、ネコを飼っている友達の家に行く時は
ネコに会うことが最大の目的だった。
某クラスメートはネコ、ウサギ、ハムスター、更に熱帯魚まで飼っており
その子の家は愛らしい動物で溢れていた。
その子の家に行けば推し動物に一通り会えた。
私は哺乳類も好きだが、熱帯魚も好きだった。

 
一軒家にネコ、ウサギ、ハムスター、熱帯魚がいるのは大丈夫なのだろうか… 
ちょっかいを出さないのだろうか……

 
と、勝手に心配したが
まぁ、遊びに行く時はいつも一匹として欠けていなかったから
おそらく大丈夫だったのだろう。

  
 
小学校四年生になり、全員が何らかの委員会に入らなくてはいけなくなった。
私はチャンス到来だと思った。
飼育委員になれば、動物の面倒を見たり、世話ができると意気込んだ。

だが、毎年飼育委員はクラス内で一番人気で
私は三年連続でジャンケンに負け
飼育委員になることはできなかった。

 
代わりに、私が小学校高学年の頃にようやく両親から許可が出て、ハムスターを飼いだした。
本命はネコだが、まぁハムスターがいるだけでも部屋は明るくなる。
ようやく飼えたハムスターにルンルンしていた。

  

 
そんな中、私にビッグチャンスが訪れた。

六年生の夏休みは、当番制でニワトリ小屋の掃除ができるのである。
私はニヤニヤした。
ようやく動物の世話を堂々とできる。

 
今までは休み時間にウサギやウズラ、ジュウシマツ、ニワトリ、鯉と
学校にいる動物をただ眺めるしかできなかった。

 
飼育委員の友達に付き添ってニワトリ飼育小屋に行っても
私は飼育委員じゃないから、中に入る資格はない。
外からただ眺めるしかできなかった。

 
だが!
ついに!
ようやく!

 
私はニワトリ小屋に学校公認で堂々と入れるのだ。
万歳としか言いようがない。
クラスには面倒くさそうにお知らせプリントを握り締める人も何人かいたが
私は喜びで手に力が入り、プリントをしわくちゃにするところだった。

 
 
 
夏休みになり、私は張り切って学校に出掛けた。
各日に当番は一人で
私はルンルンしながら学校に出掛けた。

 
私の小学校は昇降口の近くにウズラやジュウシマツ、ウサギ小屋があり
体育館の近くに鯉がいた。

ニワトリ小屋はそこから離れ、グラウンド側にあった。
校庭の隅にジャングルジムがあり
校舎とジャングルジムの間、真ん中地点に
緑色のヤケに派手な巨大なニワトリ小屋があった。
部屋は三部屋あるようなもので、ニワトリ小屋の二つは壁と扉で仕切られ、それぞれのスペースにニワトリは数羽ずついた。
各部屋は広々としていて、ルームシェアしていてもまだ余裕そうである。
ニワトリ部屋の鍵を外すと、そこは更に広々とした運動スペースになっている。
運動スペースは柵で覆われており、鍵がかかる。
 

 
なので、ニワトリ小屋掃除をする人は
まず柵の外側から鍵を開け、運動スペースに侵入する。
侵入したら必ず柵を内側から閉める。これでOK、密室である。
あとは各ニワトリ部屋の鍵を開け
ニワトリがコケコケ言いながら動き出すので、運動スペース(外)に移動させる。
柵は鍵がかかっているし、とても高いからニワトリは脱出できない。
その間に、飼育委員や六年生の当番の方はニワトリ小屋へ侵入し、エサを補給したり、卵の有無をチェックしたり、掃除をするという予定だった。
最後はまたニワトリを部屋へ追いやり、各部屋を施錠して
柵側から人は脱出すればいい。

  
 
 
飼育委員の友達の様子はよく見ていたし
他の友達に付き添ってニワトリ小屋掃除のやり方も何度も予習していた。

さぁいざゆかん!
夢を叶える第一歩だ!

  
私は柵外側の鍵を開けて、中に入り、すぐさま柵を内側から鍵をかけた。
よし、まずはこれでニワトリ脱出不可にさせたぞ。

さ~て、かわいいニワトリちゃん♪
鍵を開けますよ♪

私はニワトリ部屋に近づいた。

 
!!!!!!!!
 
 
 
私は鍵を開ける手を止めた。
ニワトリは、部屋の前…いや、扉の前で派手に死んでいた。
検視するまでもなかった。 
息は…していない。

 
私は叫ぶこともできず、その場で動けなかった。
夏なのにやけに体が冷える。
体温調節がおかしい。
一体何が起きたのか、一瞬意味が分からなかった。

 
他のニワトリ達は何事もなかったかのように
小屋のあちこちでコケコケしている。
見て見ぬフリをしている。
ここにいる誰か……どのニワトリかが犯人だ。
いや、共犯か。
みんなでグルになったか。
この狭い世界で私が来るまでの間に何かしらがあったのは間違いない。

 
掃除をしに来たはずの私は
こうして、殺害現場の第一発見者(人間)になった。

 
 
 
私はその時、自宅で飼いだしたペットを思い出さずにはいられなかった。

 
金魚もメダカも卵を産んでも
すぐに卵を分けないと同族が食べてしまう。

 
ペット屋からすすめられてハムスターをつがいで飼ったら
雄が雌を殺してしまった。
第一発見者はやはり私だった。
家族旅行に行く朝、多めにエサを入れておこうとしたら、メスがピクリとも動かない。
体も冷たい。
しかも状態をしっかり確認しようとしたら
ここでは記せないような無残な状態だった。

オスは同じ小屋の中で何くわぬ顔をしていた。

 
 
 
人間の世界と同じだと思った。

同じ空間にいて、弱いものがやられても見て見ぬふりで
やられた方だけが傷ついたり、息絶える。

同じ姿形をしていても
加害者と被害者がいて
ターゲットとターゲットじゃないものがいて
ターゲットがやられても
世界は変わらない。
何事もなかったかのように世界は回る。

  
死んでいるニワトリより
周りにいるニワトリに異変がないことの方が
ある意味ゾッとして怖かった。

 
 
 
……掃除どころではない。

 
私は慌てて体育館に向かった。
体育館には担任の先生がいるはずだった。
担任の先生はバスケ部の顧問で
たくさんのクラスメートがバスケ部に所属していた。

体育館に現れた私に、担任の先生が驚きながら笑顔で近づく。
クラスメートも「久しぶり~!」だとか「どうしたの~?」だとか
健やかな笑顔と汗を見せる。

そこには何も不吉な気配はなくて
私だけが異質な訪問者だった。

 
 
 
私がニワトリ小屋の惨劇を告げると
体育館には不穏な空気が瞬く間に広がり
バスケ部の練習は中止になった。
 
 
担任の先生とクラスメートが例のニワトリ小屋まで来てくれて
状態を確認し
死体を片づけたり、掃除をしてくれた。

 
担任の先生は「今日はのっけから大変だったなぁ。今日は掃除やらなくて大丈夫だよ。」と言い
私の出番は終わった。

 
ニワトリ小屋の柵の鍵を開けるまではワクワクルンルンしていたのに
掃除をやりに来て
動物を愛でに来たのに。

暑い中、学校まで歩いてきて私がやったことは 
ニワトリ殺害現場第一発見者と通報か。

 
 
私はハァ…とため息をついた。

なんでまた私が担当の時に限ってこんなことになってしまったのか。
動物は好きなのに、いや、好きだからこそ
動物に近づいてしまう。
そうすると死に触れることになる。

  
 
動物に近づきすぎてはいけない。 

命は尊く、重い。

 
 
私は飼育委員にならなくて正解だったのかもしれない。
今でもあの日見た光景は、脳裏に焼きついて離れないのだから。

 

 

 
あれからも、私は動物が好きで
相変わらず動物を飼っている友達の家や動物園に行き
動物を愛でている。

ただ、昔ほど動物を飼いたいとは思わなくなった。

 
動物が死ぬことよりも
同族に殺されたり、加害側がケロッとしていることの方が
私は受け入れがたかった。  

 
ペットにしろ、学校の動物にしろ
自分のテリトリーでそのようなことがある事実が
小学生の自分には重くのしかかった。

私は動物を飼うことに
多分向いていないのだ。 
  
 
 

 
アラサーになってから、自分は結婚できないのではないかという気がしてきた。

いつしか私は、「40歳になっても独り身なら猫を飼う。」と夢を語るようになった。
猫を飼ったら婚期が遅れるとはよく言うが
もう40歳過ぎても一人なら
結婚は不可能に近いと思った。
大好きな猫を飼っても問題はないだろう。

  
それでも私はどこかで未来の自分に期待していたのだ。

10代の頃は20代の自分に
20代の頃は30代の自分に
諦めつつもどこか期待して
未来ならどうにかなっていると願いつつ
「40歳になっても独り身なら猫を飼う。」とほざいていたに過ぎない。

 
一日一日と、私は40代に向かって歩いていく。
洒落にならないかもしれない。
本当に40歳になっても結婚できていないかもしれない。
30代になり、約二年前に婚活同盟の友人二人が結婚したっきりで
あとは同級生は誰も結婚していなかった。

 
35歳未婚者の結婚率は僅かだとデータでは知っていたが
確かに30歳前に、結婚願望の強い友人はほとんど結婚し
今、私含め残っている人達は
結婚の予定が全くない。

 
今更ネコのために一人暮らしもお金かかるし
今、無職だし 
今後財政もますます厳しくなるだろうし
ネコを飼うのは現実的ではないかもな。
 
 
 
そんなことを思うようになってきた時、テレビでらぼっとというペット向けロボットを見掛けた。
愛らしい見た目と性能はなかなかで
金額も30万くらいだから買えないことはない。

「我が家のペットはらぼっとが一番いいんじゃないか。」

 
一緒にテレビを見ていた両親さえも乗り気だ。
未来は変更し、ネコのある生活よりもらぼっとのいる生活を目指そうかな。

  
40歳でも、未婚ならば。



 

  

 
 




 
 

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