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エガオが笑う時

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#少女

エガオが笑う時 第6話 絶叫(2)

エガオが笑う時 第6話 絶叫(2)

「凶獣病っていうのは常在菌の突然変異なんですよ」
 魔法騎士は、淡々と語り出す。
 ヒグマは、巨大な右腕を振り下ろし、その爪で私を裂こうとするが、大鉈の柄でその攻撃を受け止める。
 強い。
 恐らく獣人の姿であった頃よりも何倍も力がある。
 このままでは潰されると即座に判断した私は大鉈を傾けて力を逃し、相手の体勢を崩させ、その腹に蹴りを入れる。
 ヒグマの身体はくの字に折れ曲がり、唾液を吐いて膝を

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エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(5)

エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(5)

 エガオ様と再会したのはそれから半月後のことだった。
 停戦条約が結ばれて教会に下りてくる支援金が大幅と言うほどではないが少なくなった。3食は食べれるものの大所帯を養うのは少な過ぎる。
 私は、再び斡旋所に通いながらひもじい思いをしている弟達に甘いものを食べさせてやりたいと思い、王都でも評判の良いキッチン馬車にお菓子を買いに行った。
 私は、心臓が止まりそうになる。
 エガオ様がそこにいた。
 し

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エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(4)

エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(4)

 彼女は・・・エガオ様は本当に何も知らなかった。
 食事を摂る時はフォークを赤ちゃんのように握って食べこぼすことも厭わずに口に運んだ。
 着替えの時は後ろ前になることは当たり前で下着を着ようとしない時もあった。
 寝る時も鎧を着て寝ようとするので脱ぐように言った。
 トイレの仕方は流石に分かっていたがアレの日の処理の仕方を知らなかった時はこの人を連れてここから逃げ出した方がいいのではないかと本気で

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エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(3)

エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(3)

 もう辞めよう。
 そうは思ったけど現実として働かなければならず、ここより良い給金が貰えて好条件で働けるところなんてない。
 私は、心を固くして働く決意をすると、そろそろ彼女が出る頃だと思い、浴場に向かった。先輩達からは呼ばれた時だけ行けばいいと言われたがあの冷たい女が機嫌を損ねて働けなくなる方が大変だ。
 私は、「失礼します」と声を掛けてから浴場に入り、絶句する。
 脱衣場で彼女は、一糸も纏わぬ

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エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(2)

エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(2)

両親の手紙には必ず"エガオ"という少女のことが書かれていた。
 戦場に貴方と年の近い女の子がいる。
 とても強くて自分たち以上の武勲を上げている。
 大人びていて礼儀正しい。
 エガオって素敵な名前なのに笑わないのが心配。
 貴方がいればきっと仲良く出来るのに。
 などと、手紙の端々に彼女の存在が現れる。
 両親は、彼女のことを慮り、その場にいない私に変わって愛情を彼女に注いでいるように感じられた

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エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(1)

エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(1)

 それは2年前、私が10歳の時だった。
 私は、侍女達と一緒に戦場に向かったお父様とお母様の帰りを待ちながら学校に通い、大好きなピアノの練習をし、ご飯を食べて変わらない日々を過ごしていた。
 寂しさはあった。
 でも、戦場で国の平和の為に戦っている2人を思えば弱音なんて吐いていられない。
 お父様とお母様は毎日のように戦場から手紙を送ってくれた。大概はちゃんとご飯食べているか?学校は楽しいか?ピア

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(7)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(7)

 あの男は、やはり騎士崩れであったらしく捕まえにきた警察達が「また騎士崩れの犯行か・・」と頭を痛めて男を連行していった。私の蹴りを喰らって顔が潰れた男は声にならない恨むごとのようなものを呟きながら手錠を嵌められて連れて行かれた。
 マダムは、私に散々「女の子とは!」についての小言を言い続け、四人組は「私達もあんな下着買おうか?」となどと言いながら帰っていった。
 そしてカゲロウは、キッチン馬車で忙

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(6)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(6)

 首筋がちりっと焼けつく。
 私は、後ろに振り返ると少し離れたところに痩せこけた男が立ってこちらを見ていた。
 見た目は三十過ぎに見えるが痩せこけてそう見れるだけで二十代くらいなのかもしれない。頬はこけ、目は窪んでいるのに服の隙間から見える筋肉はとても発達しており、通りすがりと言うに可笑しなところしかない。
 男は、私のと目が合うとにっこりと微笑んで近寄ってくる。
 マナの目にも怯えが走り、マダム

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(4)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(4)

「わあー!」
 青い傘のさした円卓に座った学生4人組が私を見た瞬間に感嘆の声を上げる。
 私は、恥ずかしさのあまり銀のトレイを持ったまま固まり、顔を背けてしまう。
 私が羞恥に襲われる原因、それは蜂蜜を洗い落とし、白いエプロンを括り付けた鎧の下に着た薄桃色の鎧下垂れのせいであった。
 お風呂上がり、待ち構えていたマダムによってばっちりと化粧され、髪をこれでもかと結い上げられた私の前に「プレゼントよ

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(3)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(3)

 生きた心地がしない。
 戦場以外でそんな事を思うなんて想像もしなかった。
 私とスーちゃん、そしてカゲロウは、横に一列に並ばされ、直立不動に立っていた。
 私は、肩を落とし、お腹の辺りで手を組み、顔を俯かせていたたまれない気持ちで、スーちゃんは、気まずそうに顔を背け、カゲロウは、鳥の巣のような髪のせいで目元は見えないが無精髭の生えた口元は引き攣っていた。
「で・・・っ」
 黄色い傘をさした円卓に

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(2)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(2)

 日差しの中での朝食を終え、私とスーちゃんは森の奥に進むと空気を叩きつけるような騒がしい音が響いてきた。
 これは・・・羽音。
 スーちゃんは、歩みを遅くする。
 音が近づくに連れて見えてきたのは大きな木が並ぶ森の中でも一際大きな、プラムの木であった。
 美味しそうで赤々としたプラム、見てるだけで口の中に甘酸っぱい味が広がる。
 しかし、目的の食材はそれではない。
 プラムの木の中央にそれはぶら下

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(1)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(1)

 風に煽られてせっかく結い上げた髪が解ける。
 きつく縛られていた金色の髪は解放されたことを喜ぶように風に乗って舞う。
 ごわついて固かった髪もマダムに薦められたシャンプーで洗うようになってから細胞ごと取り替えたかのように質感が変わった為、緑の匂いを含んだ冷たい風に逆らうことなく揺らめきながら舞い上がり、空に登ったばかりの朝焼けに当てられて煌めいている。
 私の髪の色ってこんな色をしてたんだと自分

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