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千葉奈穂子 父の家 My Father’s Houseギャラリートーク 第2回

 展示「千葉奈穂子 父の家 My Father’s House」に合わせて開催したギャラリートークの記録です。
 千葉奈穂子が制作の経緯、写真を始めたきっかけ、過去作品や展示中の新作などについて、お客様からの質問も交え、3回にわたってお話ししました。


<ギャラリートーク第2回>
2022年5月5日

【目次】

・父の家のこと
・裏山と夏と母屋のエピソード
・「Seaside Town 浜辺のまち」を制作した南相馬での経験と「父の家」のこと
・今後の制作について

聞き手: 佐藤拓実(Cyg art gallery キュレーター )

*ギャラリートークの様子は、Cyg art galleryのYoutubeでご覧いただけます(第1回前半を除く)。

(佐藤)Cyg art galleryの展示、千葉奈穂子さんの個展です。「父の家 My Father’s House」のアーティストトーク第2回目を始めたいと思います。Cyg art galleryキュレーターの佐藤と申します。よろしくお願いいたします。ありがとうございます。

 では、千葉奈穂子さんです。どこから話していったらいいのかなと思うのですが、今日来ている方は結構、千葉奈穂子さんの作品をご覧になったことある方、ファンの方もいつつ、初めて見たよという方も何名かいつつという感じかと思われますけれども。まずはご挨拶を。

(千葉)今日はみなさんお集まりくださって、本当にありがとうございます。それから、このような展示の機会をいただいて、本当に感謝しております。ありがとうございます。
 今日はよろしくお願いします。

父の家のこと

(佐藤)よろしくお願いします。まず、作品をご覧になったことがある方も多いと思いますが、タイトルにもなっている「父の家」というのはどういう場所なのか、という概要というか、シリーズの大きなテーマについて、改めてお聞きできればと思うんですけれども。

 この会場にもエッセイが展示してあったりとか、今回こういう本も作っているんです。この序文のところに父の家のシリーズについて千葉奈穂子さんが書いた文章があるので、これについてまずお願いします。


エッセイ集 千葉奈穂子 『父の家 -2022-』


(千葉)はい。『父の家 -2022-』という短いエッセイを書きました。今日はその最初の部分を、少しご紹介したいと思います。

『「父の家」は、岩手県花巻市東和町の山裾の集落にあります。
私の父方の祖先が代々農業を続けてきた古い家です。

一九七〇年代に高度経済成長期後期を迎えた頃、
家族で小さな農業を営む人々は、
農業だけでは生活が苦しかったので、
父も近くの町で働くようになって、
一九七八年に、父の家は空き家になりました。
それでも父は週末にわたしたち家族とともにこの家に戻って、畑や裏山で働いてきました。
(私は小さいときは、そばで遊んでいました。)
一九九八年に私が写真を撮り始めたとき、
最初の被写体は、幼少の頃から見てきた父の姿と、
父の家と、この集落でした。

私はこの父の家と集落をいつも訪れて、
過去と現在の時間を行き来しながら、
この場所の未来の姿につながるものを探しています。』
(エッセイ集 千葉奈穂子 『父の家 2022』より)

そのようなことを書きました。

(佐藤)ありがとうございます。(「父の家」は)千葉さんの写真撮影を始めたころからの被写体で、ずっとお父さまと千葉さん自身も訪れて手入れをしたりとか、そこで代々祖先の痕跡のようなものを見つけたりとか、自然に触れ合うとか、栗を収穫したりとか、いろんな体験をできた場所で。「過去と現在の時間を行き来しながら」という言葉もありましたけれども、いろんな体験や人と話したりしたことから被写体を選んで作品にしている、ライフワーク的なシリーズですね。

(千葉)はい、そうです。

裏山と夏と母屋のエピソード

(佐藤)ありがとうございます。例えば今回、「父の家」のシリーズの作品が展示してあるんですけれども。どういう場所かという概要はお聞きしたのですが、具体的に建物とか、木とか山、林などがあると思うんです。
今日は、お客さまから見て右側のほうの作品からお訊きしていければと思います。こちらは何を撮った写真ですか。石碑みたいに見えるんですけども。

(千葉)はい。父の家は本当に古い家で、私が農家を継いでいたら13代目だそうです。ただ父の代からは、農業を続けられなかったのです。
父の家には母屋があります。目の前には田んぼや畑、鶏小屋、そして裏山があるような、自然の形を生かした暮らし方がそのまま残っています。


《鶏小屋 2021年3月》36.5×54.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《A Field-side Chicken Shed, March 2021》36.5×54.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba
《山からの水 2021年3月》36.5×54.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《Mountain Spring Water, March 2021》36.5×54.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba


 実は昨日も、私は父の家に行っていたのですが、家はもうぼろぼろになっています。家というのは母屋ですけれども、母屋は空き家になって40年です。
ただ、私たちにとっては、ぼろぼろになっても、とても大事な場所なので、ゆっくりゆっくりこの家と一緒に過ごしている、という感じです。私は素人ですけれども、できるだけ家を直したり、補強のようなことをしたりして、抵抗をしています。
 時間の変化の中で、ただ壊れていくことを、私は受け入れられない部分も勿論あるんです。何とかすこしでも壊れないように、と思って直します。


《裏山の古墓 2020年8月》36.5×54.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《An Old Graveyard in the Mountains Behind the House, August 2020》36.5×54.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba


 この石碑のような写真は、裏山で撮りました。私たちが古墓と呼んでいる、本当に古いお墓を写したものです。江戸時代の1800年代初期のお墓から大正時代までのお墓が、裏山にあります。
 裏山という場所は、私にとって、違う世界に行くみたいな感じがしています。鶏小屋と、焚き木や取ってきた木をストックしておく木小屋のわきをそろそろと通りながら、裏山に入っていきます。
 
 裏山では、私の祖母の代から、原木の椎茸の栽培をしていました。東日本大震災の後は、椎茸の栽培はやめたのですが、椎茸のほだ木は、人が椎茸を取らないでいると、ほんの2、3年で砕けるようにボロボロになって、土にかえっていきました。そのすぐそばに、この古墓があります。

 古墓は、私はなぜなのか知りたいのですが、様々な家紋のお墓や、苗字の違う家族が一緒のお墓になっているものもあります。祖先やこの集落で暮らした人々の関わりや、何かいろいろなことがあったのだろうと感じています。


《裏山から戻る道 2020年8月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《The Mountain Path Leading Behind the House, August 2020》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba


 古墓の写真の隣りは、《裏山から戻る道 2020年8月》という写真です。この道は、私たち人も通るのですが、動物も通る道です。
 なぜわかるかと言いますと、家の母屋のあたりにいると、裏山のほうから足音が聞こえてくるのです。私は、裏山から誰か人が降りてきたのかなと最初思うのですが、呼びかけても、親戚の方の名前を呼んでも、返事がないのです。
 そのまま足音が近づいてきて、ぴょっと、木小屋から鹿が飛び出してきて、おたがいにびっくりしたり。それから、杉の木の皮の表面に、鹿が自分の角をこすりつけた跡などがあって、この道は動物も通っていることがわかります。そういう場所です。

(佐藤)実際に動物も通って、人も通っている道を歩いて。やっぱり食べ物が豊かだったり、木の実が採れたりとかもありますか。

(千葉)そうですね、山菜がいろいろ採れます。それから、木の実、どんぐりなどもあります。収穫をする楽しみがあって、喜びも、安心感もあります。そして新しく気づくことも、今もいつもあります。

(佐藤)やっぱりそうやって昔の人たちも自然の恵みを山からいただきながら代々続いてきた場所なんですね。ありがとうございます。

 今、裏山のお話を伺いましたけども、お客様から見て右側の壁、我々から見て左側の壁あたり、さっき言った母屋のあたり。例えば、エッセイでも『母屋の柱』っていうのが今回の本の中に収録されているんですけども、この右側の写真のタイトル、「ガラス戸と柱」ですよね。その母屋について、撮影したときのことやエピソードがあれば伺いたいです。

(千葉)はい。母屋は、実は正面と横からのカットをずっと撮ってきています。でも、こちらの展覧会には1カットも展示していないのです。それは父さんが言っているように、荒れ果てて壊れていく姿は、本当は見たくない、というのがあるので。私はそれを知りながらも撮っています。ただ、まだ展示はしていません。その中ですこし母屋が写っている作品が、この2点です。


《ガラス戸と柱 2021年6月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《The Pillars and Glass Doors, June 2021》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba


 母屋の端のほうにこのようなガラス戸があって、そこは今もガラガラッと開いて、中に鎌や熊手などいろんな道具がありまして使っています。この写真には、母屋の柱と、補強の跡も写っています。
 2013年の11月に、私はこのまま母屋が崩れてしまったらと思うと見ていられなかったので、父に相談して、家の補強をしたいと相談しました。けど、父には反対されて。補強をしてくださる大工さんたちに、怪我があったり、崩れて怪我をされたりしたら大変だ、ということで反対されました。

(佐藤)母屋は建ってからどのくらいになるんですか?

(千葉)私は母屋が築200年くらいになると聞いています。以前は、曲り家だったそうです。馬がいて、農耕馬たちと一緒に暮らしていたそうです。馬がいなくなってから、馬小屋の部分をとってまっすぐな形の家にして、いろいろ直しながら暮らしてきたそうです。
 いろんな時代を経て、多くの方々が住んで、そして今すこしずつ変わってしまうから、私は父の反対を押し切って、補強をお願いしました。補強と言っても、すごく大掛かりな工事ではなくて、本当に簡単な。

(佐藤)筋交いで補強したんですか。

(千葉)はい、そうです。一日で終わるような補強をしていただいて、それで今も、柱や梁を支えてもらっています。
 父は反対はしたのですが、でもそのあと特に何も話さなかったですが、家の形があるということを、母屋の形が今もあることを、父は私と同じ気持ちで見ているかなぁと思っています。

(佐藤)ありがとうございます。この左側のは、どういう写真ですか。


《カシワの木・夏 2021年6月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《A Kashiwa Oak Tree in Summer, June 2021》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba

(千葉)はい。こちらに写っているのは、母屋の東側とカシワの木です。
  カシワの木は、母屋のそばでゆっくりゆっくり育って大きな木になったので、、いつも見守ってくれる大きな存在のように感じています。葉も大きいので、風が強く吹くとガサガサと大きな音がします。

 これは《カシワの木・夏 2021年6月》で、こちら側の作品が《春とカシワの木 2021年3月》です。

《春とカシワの木 2021年3月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《A Kashiwa Oak in Spring, March 2021》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba

(佐藤)入口のタイトルの左側の写真と同じ場所ですよね。

(千葉)はい。

(佐藤)あれが春の写真。ここ(《カシワの木・夏》)に写っているものと同じカシワの木なんですね。

(千葉)はい、そうです。ときどき友人やみなさんが父の家に遊びに来てくださるので、一緒にこの辺を歩くことはとても楽しいです。

 こういう父の家とこの集落を撮ってきて、これまでは、自分の家族が生まれた場所を写真に撮っていると思っていたのですが、となり近所の集落とか、ほかの地域の人たちも、同じような状況があったということをだんだん知るようになりました。

 長く住んできた場所をはなれなければならなかった方々の事や、はなれた場所から、思い入れのある場所のことを考えている方々に出会って、お話を聞きたい、という気持ちが生まれてきました。

「Seaside Town 浜辺のまち」を制作した南相馬での経験と「父の家」のこと

(佐藤)なるほど。ありがとうございます。ここまで写真撮影をしていく中でのエピソードや、「父の家」に千葉さんが通って撮影している、その思いを聞いてきたところですけども。

 千葉さんの作品は「父の家」シリーズのほかにも青森、福島、海外ではフィンランドとか、各地でも写真撮影をされていて。そういうほかの作品にも通底するものがあると思うのです。ほかのシリーズ制作、訪れた場所について、ちょっとお聞きしたいと思うのですが。

 これは今そこ(シグアートギャラリー内ショップ)で販売もしているんですけど、『浜辺のまち』という、福島の南相馬市が題材ですよね。千葉さんが震災以後に通って撮った写真やエッセイをまとめた本なんですけれども、これについても触れていきたいなと思います。
 これはまず訪れたのは、どういうきっかけだったんですか?


千葉奈穂子 『Seaside Town 浜辺のまち』


(千葉)「Seaside Town 浜辺のまち」は、2012年から福島県沿岸部の南相馬市で撮っている写真とエッセイの作品です。
 震災後、すぐに撮影を始めることは、私はむずかしかったのですが、2012年の2月に、震災から1年経たないころ、私は福島県に縁があって、南相馬の農家民宿の方と出会いました。その方々にそのあとずっとお世話になって、この作品を作ることができました。

 この「浜辺のまち」は、撮り始めてから発表するまでとても時間がかかっていて、エッセイを書いてプリントができたのは、2017年でした。


「Seaside Town 浜辺のまち」より 《削られる山 福島県南相馬市、2016年》ゼラチン・シルバー・プリント、2021年
《Mountains were flattened,Minamisoma,Fukushima 2016》Gelatin silver print, 2021 ©Naoko Chiba
「Seaside Town 浜辺のまち」より 《やまゆりの種 福島県南相馬市、2016年》ゼラチン・シルバー・プリント、2021年
《Gold-banded Lily Seeds, Minamisoma, Fukushima 2016》Gelatin silver print, 2021 ©Naoko Chiba
「Seaside Town 浜辺のまち」より 《タブノキのイグネ 福島県南相馬市、2016年》 ゼラチン・シルバー・プリント、2021年
《Tabunoki trees - Igune, Minamisoma, Fukushima 2016》 Gelatin silver print, 2021 ©Naoko Chiba


 私は2017年に「浜辺のまち」のエッセイを書くとき、南相馬の変わっていく風景と、震災前からずっと続いてきた地域に残る信仰の形や、みなさんから伺ったお話しを記しておきたいと思いました。2017年に本に載せる写真をまとめるときに、自然に、モノクロのフィルムで撮ったままのゼラチン・シルバー・プリントでプリントし始めました。

 震災後の風景は、記憶を思い起すような青いプリントだけではなく、目の前の事をゼラチン・シルバー・プリントにストレートに出したいという気持ちが、胸の中から生まれてきました。

 震災後の風景を写した青いサイアノタイプの作品もあり、勿論私には大事なプリント方法で、記憶をたぐり寄せるように青い色の作品を作ることも大事でした。ゼラチン・シルバー・プリントの作品も、ゆっくりゆっくり手作業でプリントしています。

 こういう「浜辺のまち」の作品制作のあとに、「父の家」のプリントをしていくとき、父の家のまわりで人が減って、集落が変化していく様子を見ていたので、「父の家」の作品について、手法も含めて問い直しながら制作をしました。
 今回ゼラチン・シルバー・プリントの写真が多いのですが、この2年間で撮った写真を引き伸ばしてプリントしました。
 ギャラリー奥の作品は、「父の家」の撮影を始めた頃のものです。1998年に撮った「畑で働く父」など、サイアノタイプのプリントをもう一度プリントしました。

《畑で働く父 1998年》39.5×60.0cm、黒谷和紙にサイアノタイプ、2022年
《My Father Working in the Fields,1998》39.5×60.0cm, Cyanotype on Kurotani Paper, 2022 ©Naoko Chiba


(佐藤)お客さまから見た左手3点の真ん中の作品ですね、今おっしゃったのは。今回のお客さまは、千葉さんの今までの作品を見たことある方も多いと思うので、青いサイアノタイプのプリントのイメージが結構強いかなと思うんです。実際に展示されている作品はご覧の通り白黒のゼラチン・シルバー・プリントの作品で。撮影方法は一緒でプリントの方法が違うんですね。

 南相馬市での撮影とか経験を踏まえて撮ったものをストレートに表現したい、ということで、白黒のプリントを今回は選んでいる。

(千葉)そうですね。南相馬での撮影のお話をすると、お世話になっている集落は、本当に、父の家のある岩手県花巻市東和町のような田畑や山のある集落で、伺う度にまるで父さんの家にいるような感じがしました。その農家民宿さんの家も、父さんの家の母屋のような造りをしていたからです。
 そこでボランティアのみなさんやまちの方々と、寝食をともにしながら、まるで家族のようにだんだんなって、家族のように話をして、そして、それから、撮影をしてきたんです。

 撮影のときに、20キロ圏内という原発から20キロの場所は、最初は入れなかったのですが、入れるようになってからは、原付バイクで通いました。その場所にある家は、みなさん住めないので、まだ居住の許可がないところだったので、家が壊れないように屋根にブルーシートをかけたり、草刈りに何回か訪れたりして、生まれ育った場所や長く住んできた家を、場所を、壊れないように手入れをされていました。

*補足 南相馬市の小高区では当時、警戒区域から避難指示解除準備区域に再編された地域は、日中の立ち入りのみ許されていました。2016年7月に、小高区と原町区の居住制限区域と避難指示解除準備区域は解除されましたが、2022年現在も、市内に帰還困難区域があります。

 そういう方々からお話しを聞いていると、父の家のことと重なって、父さんの気持ちを考えました。そんなふうにして、この写真を撮りました。

(佐藤)ありがとうございます。本の中を見せてもらってもいいですか。ありがとうございます。
 中を拝見して、すごい印象的なエピソードがあって。柚を栽培している方のお話があったじゃないですか。柚農家のおじいさんと千葉さんが会った話があって、ハサミで丁寧に柚の枝の棘を切っていただいて。
 「ここで手を動かして丁寧に暮らす方々の心を、私は受け取ったように感じた」
という文章があるんですけど、すごくそのやりとりが、温かいなぁって印象に残っていたりするんです。
 千葉さんが南相馬市で訪れたところはだいたい農業が中心という感じですね。


《おじいさんと柚 福島県南相馬市、2016年》ゼラチン・シルバー・プリント、2021年
《An old man and Yuzu trees, Minamisoma, Fukushima 2016》Gelatin silver print, 2021


(千葉)そうですね。私は集落の方々にとって、知らない人だと思うんです、最初は。どこから来て、何をしているのかもわからない人だと思うのですが、私が何回も行って、写真を撮りたいとか、この地域のことを知りたいと思っていることを話すと、集落の方々は、地域の古い遺跡や、こんな言い伝えがあるとかを、ずっと話してくださるんです。すごく丁寧に、いろんな本とか資料とかも持ってきてくださって、一つ一つ。あそこの場所に、こういうお地蔵様がいらっしゃるとか、赤ちゃんの夜泣きが止まる場所があるとか、そういう話を一つ一つしてくださるんです。

 現在の地域の暮らしも、昔のことも全部みなさんが教えてくださったので、私は、何か形にできたらいいなと思って、文章を書いたり撮影をしたりしました。
 書いた文章はすぐにみなさんにコピーして持って行って、こんなふうに書いたんです、こんな話を書いたけどもいかがでしょうか、どこかで見せてもいいですか、ってお伺いしました。みなさんとても喜んでくださって、私はとても嬉しかったです。

(佐藤)お地蔵さんとか岩に彫られた石仏の写真もありました。

(千葉)そうですね。

(佐藤)そういうものも教えていただいたりとか。

(千葉)はい。摩崖仏です。その柚のおじいさんも、本当に丁寧に柚を育てています。初めて会った時から、すごく親切にしてくださって、持っていたパンをすぐに分けてくださったり、柚のこと話してくださったり。今は90代で、行くと会えるのを楽しみにしています。おじいさんとか、みなさんにたくさん出会って、いろんな話を聞きました。

(佐藤)ありがとうございます。写真家の方もいろんなタイプの方がいらっしゃると思うんですが、この本に載っているエピソードを今ここでご紹介していただいたのは、千葉さん自身の被写体に対するやりとりの丁寧さというか、よく調べること自体はいろんな人がやると思うんですが千葉さんのお人柄もあると思うし、姿勢みたいなものもあると思うし。「父の家」というシリーズを続けてこられた思いやそこで体験されたことがほかの地域とも共通するという意味で、千葉さんのバックグラウンドもあって、「浜辺のまち」が、今のこの「父の家」というシリーズに影響としてかえってきているというのが、素晴らしいことだと思いますね。

 写真自体の「記録する」という性質があると思うんですけれども、いろんな伝え方をされますけれども、すごくそれが……なかなか言葉にするのもむずかしいですけれど。ストレートに出したいということで今回ゼラチン・シルバー・プリントが多めの展示になっている訳ですが、制作の態度とかコンセプトからも真っ直ぐな思いを感じたりするんですよね。はい。感想でした(笑)。

(千葉)ありがとうございます。

今後の制作について

(佐藤)「浜辺のまち」のお話も今日したいなと思って、こういう流れになったんですけれども。そういう中で、今回ライフワークの「父の家」の展示をやっている訳です。今後どういうふうに制作していきたいか、「父の家」やその周辺は、ライフワークとして撮影していくと思うんですけれども、そういうことを聞いてみたいのですが。

(千葉)はい。「父の家」は、私の祖父母や曾祖父母や、集落の多くの方々が、ずっと長いことこのように暮らしてきた、ということを教えてくれる場所だと思っています。

 例えば、いろんな道具とか、食べ物もそうですが、暮らしに必要なものは何でも、山の中とか、材料になる植物や動物など、いろんなところから少しいただいて、手作りで、手仕事をして、作ってきた。そんなふうにして暮らしてきたことを、今残っているものを見て感じます。そういうことを知りたいなぁと思いながら撮っています。

 なぜかと言うと、考えてみたら、私が生まれた時はちょうど高度経済成長期のころで、何でも必要なものは、手作りしなくても買えるようになって。わざわざ作らなくても。そういう時代に生まれたんだなぁと思いました。物が壊れたときに、わざわざ壊れたものを直して使うよりも、新しいものを買って、何かこう快適に過ごすような。

 昔は、物にはいろんな人の思いや願いがあって、そういう思いをつないで、人の手が何かを生み出してきたり、自然と関わってきたりしてきたと思います。そうやって生きていくことを、集落の方々からも教えていただきたいな、私ももっと学びたいなと思っています。
そういう暮らしが、今ここにあることを感じているから。

 私の祖母は、布団を作ったり、丹前を作ったり、なんでも作ることができる人で、私はさっぱり何も知らないまま、こんなに大きくなってしまったんです。でも、今からでも一つ一つ、手を動かしたりすることを知って、祖母や当時の方々が感じていたことを知りたいと思っています。

 「父の家」にはこれからも通って、撮影を続けていきます。それはなぜかと言うと、行くと発見があるからです。何回行っても、新しい発見と。
でも、崩れていく部分を見れば、本当はつらいところですけれども、でもそれも含めて、目の前のことを、撮って。うまく言えないですが、ちゃんと見ていきたいと思っています。

(佐藤)ありがとうございます。そういうお話を伺って、僕自身もわかるところがあります。みなさんもあると思うんですよね。ご親戚の方で農業をやってらっしゃったけど、生活のために都会に出て働いて、とか。そういう経験を僕自身も親戚から聞いたりしますし。どうしても事情があって、住みたいところに住めないということが、よくあると思うんですよね。

 でもやっぱり住みたいとか、思いがあって。それを言葉で表すのは難しいけれども、関わっていたいというのがあって、そういうところからでてくる作品として写真が似つかわしいのかな、と僕は思っていて。写真で撮ると、余白が生まれますし。そういう部分にすごく合っているし。
 関わっていくと発見がある、と千葉さんおっしゃっていましたけれども。そういうところでみなさんにも楽しんでいただける作品だと思います。みなさんもこの写真作品、展示の中から何か発見していただけるところがあるのではないかと思います。はい。

(千葉)ありがとうございます。

(佐藤)ありがとうございます。そんなところでしょうか。
あとこの写真集とか、今後は作ったりという計画も、あったり、なかったり。

(千葉)はい。あります。

(佐藤)まだ具体的ではないけれども、写真集にまとめたいという、計画があるんですね。

(千葉)はい。 これまで撮ってきた写真と、これからプリントする写真と、いま書いている「父の家」のエッセイをまとめて、写真集「父の家 My Father’s House」を作りたいと思っています。

(佐藤)はい。そういう千葉さんの今後の活動にもご期待、ということですね。

(千葉)ありがとうございます。

(佐藤)あともし、お一人かお二人くらい何かこの場でご質問あれば伺いますが。よろしいですか。このあと千葉さんも在廊されますよね、そのとき直接でもいいと思います。特になければおわりますが、よろしいですか。はい。

 ではCyg art galleryの千葉奈穂子「父の家 My Father’s House」の第2回のトークは、このへんでお開きということにしたいと思います。ちょっとおわる前にお知らせですが、今回のトークは3回やるんですよね。今回2回目で、5月14日(土)に、今日と同じ14時からトーク開催しますので、今回触れなかったまたべつの作品について、千葉さんとお話伺ったりとかもしますし、お時間ある方来ていただいて、ぜひ口コミで広げていただければと思います。すごく充実した展示になっていると思います。

 今回はグッズを製作しまして、これどうですか、ポスター、結構いい出来だと思うんですけども。千葉さんにサイン入れていただいて限定で販売しております。あとポストカードとか今日ご紹介したエッセイが載っている本、写真集ですね、ご紹介した「浜辺のまち」も販売していますので、ご興味ある方はぜひ買っていただけると、とても嬉しいです。
はい。じゃあこのへんで、トーク終了いたします。みなさまご来場いただきありがとうございました。

(千葉)ありがとうございます。

(お客様)拍手


第3回へ続く……


☆ 千葉奈穂子展 関連グッズのご紹介

・千葉奈穂子 A5ポストカード(全3種)

・エッセイ集・父の家 - 二〇二二 -(展示エッセイを全文収録

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ギャラリートーク 第2回

出演: 千葉奈穂子
聞き手: 佐藤拓実(Cyg art gallery キュレーター )


Cyg art gallery 企画展
「千葉奈穂子 父の家 My Father’s House」
Webサイト:https://cyg-morioka.com/archives/1552

会期: 2022年4月27日-5月15日
会場:Cyg art gallery
 
ギャラリートーク日時:
第1回 2022年4月29日
第2回 2022年5月5日
第3回 2022年5月14日
助成:公益財団法人 小笠原敏晶記念財団



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