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故郷喪失者の視点は他人事ではない「ブルーノの問題」

<文学(201歩目)>
サラエヴォから遠く離れ、そしてつながっている。生得の言語ではない英語での発信。故郷喪失者の視点を感じられる作品です。

ブルーノの問題
アレクサンダル・ヘモン (著), 柴田元幸 (翻訳), 秋草俊一郎 (翻訳)
書肆侃侃房

「201歩目」は、アレクサンダル・ヘモンさんの故郷喪失者の視点で描かれた作品。ちょっとありきたりな小説にない、普段気にすることのなかった「視点」を感じる驚く作品でした。

「島」
緊迫したサラエヴォを心で眺め、実際には目の前にあるムリェトのアドリア海の光線を感じられる作品。
ボスニアがまだ故郷の時代の一瞬が美しく切り取られる。
うん、ちょっと惹きこまれます。

「ゾルゲ諜報団」
この短篇集の中では、故郷喪失者の視点が描かれている。
ゾルゲと聞くと、いろいろな作品を思い出すが、「第二次世界大戦のスパイたち」という本で、ゾルゲに出遭う。「日本でのミッション」は私たちには「スパイゾルゲ」として知られたミッション。

作中で、本の中にあるゾルゲの写真を見ながら、ゾルゲを感じる作者。
故郷喪失者の視点で見る一葉の写真が物語るゾルゲの視点。
こんな描き方は初めてでした。ゾルゲにかかわる書籍はかなり目を通したが、こんなアプローチは初めてでした。歴史にかかわる作品の中で、とてもユニークな手法だと感じました。

途中の詩がいろいろな箇所に余韻を残す。

東京は息をしているが、私はちがう―――
雨のカーテンが顔に貼りついてしまった。
私が生きているのは人生ではなく、策謀だ―――
ひとつところに二人の自分がいる―――

「ブルーノの問題」アレクサンダル・ヘモン
「ゾルゲ諜報団」より

この詩が読み終わって心に残った。
最後にある少年の悲しそうな目が印象に残り、脳から離れない作品になった。とてもユニークです。

「アコーディオン」
故郷を描く作品の中で、とても印象深い作品。
ウクライナからボスニアへ。そしてボスニアから離れ、シカゴへ。
ボスニアに留まる叔父、カナダに散らばる一族。
最も故郷から遠い世界での人生を故郷を心で眺めて書かれた作品。
とても印象深い。

「コイン」
サラエヴォでの現実。同じ時代に生きて、この報道を見ていた。
でも、これほど印象的なものには出会っていなかった。
故郷との交流が物理的に困難であったとき、人はそれでもつながろうとする。そして幸せな時代には一瞬で届くことも、相手が今生きているのか?あるいは生きているのに、手紙が届く前に亡くなってしまうのか?
この感覚は、ガザやウクライナの方々の感覚と同じであり、私たちがもう忘れてしまった感覚でもあると思いました。
手紙を書くときに、相手を想う。この価値が理解できた作品です。

小説としてとてもユニーク。
故郷喪失者の視点で、心と愛を研ぎ澄ますと、こんなユニークな作品が生まれるのか?と思いました。
普通の読書に飽きた時に、また再読するなと感じました。

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