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無駄のない文体から人間の本質を理解する「刑罰」

<文学(80歩目)>
刑事専門弁護士の目から見た「犯罪」の数々から、人間の本質を見つめる。

刑罰
フェルディナント・フォン・シーラッハ (著), 酒寄 進一 (翻訳)
東京創元社

「80歩目」はドイツの短篇の名手の作品。刑事専門弁護士としての経歴がとても生きている。

フェルディナント・フォン・シーラッハさんの作品は話題になっていることは知っていたが、何故か今まで手に取ったことが無かった。
これは結論から言うと「残念」でした。

もっと早くから出会っていたら、読書にかかわるムダ(以前の読書はとにかく打率が低かった。読んできたつもりだが、読んでよかったと思う作品との出会いは1割程度で、9割は壮大な時間のムダだった)は減っていたと思う。

どの作品もとても短いが、それぞれ味わいが濃い。人間がちょっとしたきっかけで転落してしまう生きものであることが丁寧に描かれている。
「参審員」「逆さ」「奉仕活動」「テニス」「友人」が特に良かった。

「参審員」
制度自体は、法学部時代に聞いたことがあった。
日本に無い制度であるが、そんなことよりも日本の陪審員と同じく、一般的な人間がプロに混じって法の判断者になることの難しさが伝わる。
これだけでもスゴイのだが、それ以外の部分も心に突いてくる。素晴らしい。

「逆さ」
あ~、何かミステリ小説で経験した記憶もあるのだが、この身を持ち崩した弁護士の生き様も興味深い。状況と動機とアリバイで構築していく中で、えん罪は発生するが、こんな取組みをする弁護士が多いのか?とても考えさせられた。

「奉仕活動」
ちょっとうなった。75歩目で紹介したドイツの「希望のかたわれ メヒティルト・ボルマン」に通じる重たいテーマ。
それでも弁護しないといけないのが刑事専門弁護士。途中、うなった。
プロというものは突き詰めている。以前に、犯罪被害者になった時に被告の弁護人を憎んだ。
私のちんけな正義感を軽く超越したプロの矜持を感じた。

「テニス」
なんとなく、宮部みゆきさんの研ぎ澄まされた短篇の一つ、あるいは高村薫さんの作品を丁寧に短篇にした感じ。
とても短いながら、心をかなりついてくる。

「友人」
極めて短い短篇。しかし、この中に沢山のものが散りばめられている。
この設定だけで、長編を何通りかで描くことが出来る深い作品。

総じて感じたことは、短篇集ながら読み手の心を突いてくる作品がぎっしり。この無駄のなさは驚いた。まるで別の分野だが、宮内悠介さんの「盤上の夜」(デビュー作)を読んで才能を強く感じた時と同じで、短い作品からの筆力を強く感じる。
ちょっと「一気読み」対象として他の作品も読んでみる。

人間の本質(「愛(love)」「バランスの失調」)を強く訴えるもの多い。とてもおススメです。

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