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「自由と責任」は安直ではない「眠れ―作品集「青い火影」」

<SF(37歩目)>
他人事ではない。「自由と責任」を安直に考えると、一気にあり得ない世界に連れていかれる。。。

眠れ―作品集「青い火影」〈1〉
ヴィクトル ペレーヴィン (著), 三浦 清美 (翻訳)
群像社

「37歩目」は「5歩目」の「宇宙飛行士オモン・ラー」を紹介しましたが、ロシアのベストセラー作家のヴィクトル・ペレーヴィンさんの短篇集。「自由と責任」が学べます。

読むと、「ガツーン」と効きますが、ペレ―ヴィンさんが現代ロシアでなぜ支持されるのか?彼が歩む「ターボ・リアリズム(Турбореали́зм)」っていったい何なの?からご紹介します。

「ターボ・リアリズム」
旧ソヴィエトの崩壊の直前の1989年に勃興し今に至る。
ターボ・リアリズムとは、より未来の表現形式を模索し、見た内容を表現するファンタチスカ(幻想小説)。
ペレーヴィン曰く「ターボ・チャージャーが排気ガスによって加速を得る様に、ソヴィエト連邦が生んだ社会のひずみから、より進んだ表現形式が産みだされるという意味で使っている」
と。

つまり、究極の共産主義・全体主義による抑圧を昇華した文学運動です。

ソヴィエト連邦は崩壊しましたが、現在も独自なプーチン主義で走るロシアでは、全体主義の抑圧は今もなお続いている。この重苦しい「現実」が原動力となっています。

生まれてきた環境が極めて特殊。故に、何処にもない作品群となっていて、ロシア国内では今も人気作家の地位を不動にしています。

また、ペレーヴィンさんは東アジアに傾倒しているところあり。日本・中国にしばしば訪れ(早稲田大学等で講演も)、仏教の修業をされています。

つまり、ロシア的なもの(社会体制・科学主義)の中から、東アジア的(仏教)との融合作が多い。

特にこの初期作品集は、ブレジネフ時代からゴルバチョフ時代までの行き詰まりの中から飛び出るものは何なのか?が強く描かれています。

私のおすすめは、「太守張のソ連」「倉庫12番の冒険と生涯」「ヴェーラ・パーヴロヴナの九番目の夢」がイケます。

おそらく、ヴィクトル・ペレーヴィンさんや、ウラジーミル・ソローキンさんが大衆の賛同を得られず、ベストセラー作家にならなくなった時。それがロシアが普通の国(プーチン大統領による強力な帝国主義から、普通の自由主義社会の国家へ)になったことの証明になると思います。

ペレーヴィンさん、ソローキンさんがベストセラー作家であるうちは、まだまだ怖いところがある国とも言えます。

私たちが注意しないといけないことは、異形の国家ロシアが人々に起因しているものではないことです。

ロシアと日本の共通点は、「民主主義(投票活動)」を勝ち取った国ではなく、「与えられて得た国」であることです。

「選択」の大切さをおざなりにすると、すぐに行き過ぎた全体主義国家になりやすいこと。ここがこの短篇集が訴えていることだと思います。

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