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青く沈む
夜に沈む街だ。
曇天に、背の高いクレーンがひとつ、そのてっぺんが赤く光る。それから帰路につく人々の波。
青い街だ。
信号のあざやかなみどりが無数の光を流してゆく。車。そして一気にとどめられる赤の、その群れに、今日が遠くなる気がした。
短めのバス、大きめのプードル、清涼な風、すれ違うたびに切ったばかりの髪が頬に寄り添ってくるがわかる。しらない街でしらないからだでしらない人達と同じ時間を生きていることを想う。つめたくなった爪の先がわずかに青みを帯びている。
薔薇の匂いのする歌をきいていた。なつかしい木漏れ日の残り香のような、やさしくて眩しいうたを。
そのミュージックビデオのなかでは、欧米の女の子がひとり、おさげを揺らして庭を駆けている。ずっとその中にいる。わたしの耳の奥の湖面が揺らいでいる。夢の中の曖昧な画質で存在しているみたいだった。曲を止めれば、わたしがいるだけだった。
背を向けて座るベンチの人、アイスからほのかに灰の匂いがする。舌が薄くなるような口調、夜に染まってゆく、白いカーディガンの裾をちょっと握って、それから歩き続けた。
帰り道は、そんな感じでした。
23.1003
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