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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする

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恋愛小説です。  過去の傷からクラスメイトに心を閉ざした嫌われ者が、新しい恋によって前を向こうとする痛々しい青春模様を書いている…つもりです。  春…起承転結でいう「起」のパート…
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#告白

【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第55話-春、修学旅行3日目〜初夏の足音を聞きながら

 家に帰るまでが遠足です。
 学校に戻り、貴志に送ってもらう道すがら。公園脇に設置されたベンチも、瑞穂には修学旅行先に変わりなかった。
 修学旅行中に、もう一度ゆっくり話したい。まだ家に着いてないからセーフだよね?

 瑞穂に促され、貴志はベンチに腰掛ける。重い荷物からひとまず解放されて、二人はホッと一息ついた。
 瑞穂がゆっくりと貴志の隣に腰掛けて、空を仰ぐ。緊張が止まらない。でも、今はその緊張

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第43話-春、修学旅行2日目〜理美①

 河口湖畔を臨む庭園で、貴志はホットレモネードを理美に手渡した。日は暮れて、湖の輪郭はすでに見えない。庭園の灯りが反射して、ゆらゆらと揺れる様だけが、そこに水面があることを教えてくれる。
 静かだ。道路をわたって、宿に向かえば修学旅行の喧騒が待っている。しかしここには騒がしい中学生はいない。
 ここには理美と貴志の二人しかいなかった。
 受け取ったペットボトルが理美の手を温める。まだ五月中旬。標高

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第37話-春、修学旅行1日目〜瑞穂③

「オレ、瑞穂が好きだよ。
 付き合って欲しいんだ。二人で遊びに行くような、関係になりたい」
 裕の口から思いの丈が旋律となって奏でられた。その音感はとても穏やかで、とても心地よく、瑞穂の心に優しく響くのだった。
 しかし…。
 嬉しいはずのその言葉。待っていた言葉なのに。
 裕が好きだ。好きなのに。
「それはマジのやつ?」
 やっとの思いで返したのは、そんな一言だった。
 裕は真顔で頷いた。笑顔の

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第33話-春、修学旅行1日目〜瑞穂②

 構えた銃にためらいはなかった。自分は今、悪い奴らをこらしめるヒーローなのだ。奴らは物陰から自分たちを狙ってくる。考えろ…。反応しろ…。そして射て!
 瑞穂は華麗な銃さばきで敵を打ち倒していく。隣で裕が小さく「さすが」と呟いたのが聞こえた。
「裕、右!」
 指示すると同時に敵が弾け飛んだ。
 中華街のゲームセンターで、瑞穂は裕と二人、ガンシューティングゲームに興じていた。
 観客が声援を送る。まん

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第30話-春、修学旅行1日目〜裕②

「お兄ちゃんの運命の人は二人いるようだね。そしてすでに、二人共出会った後みたい」
 占い師が貴志の手相を見ながら告げる。
 すでに出会った…二人?
 一人は間違いなく坂木紗霧だろう。だとすると、もう一人というのは、やはり瑞穂のことか。それはこの場にいる中で、裕だけがたどり着いている結論だった。
 貴志も、理美も「意外と近くにいる」の言葉だけを考えていた。紗霧が近くにいる。その可能性だけを。

「運

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第22話-春、修学旅行1日目〜裕①

 親友の初恋がどのように終わったのか、裕は知っている。誰よりも近い場所でそれを見てきたから。それがどんな辛い別れだったのかを。
 だから貴志が無表情かつ冷酷な仮面をつけている意味も知っている。それが看破される事は大きな問題だった。
「貴志のミスじゃない。ただあいつの観察力がバケモノなだけだよ」
 仮面自体には問題はない。ちゃんと相手の嫌がる言葉を選んで、ちゃんと冷たい態度で接して、ちゃんと相手が近

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