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探究学習プログラム #01 -田園調布学園 高等部1年生-

プログラムの全体像

2021年11月、2022年1-2月の2回に分けて、田園調布学園高校1年生向けにデザイン思考を活用した探究学習プログラムを実施しました。こちらは、田園調布学園が実施する「土曜プログラム」の一貫として2019年度から実施しています。

プログラムはデザイン思考プロジェクトの方法論を学習する「基礎編」と、学んだことを活かして出題されたテーマに取り組む「実践編」の2つに分かれています。

11月に実施した全2回の「基礎編」では、デザイン思考5ステップの概要を「教室内のこまりごと」をテーマにしながら学びました。そして、1-2月に後半の全4回「実践編」では以下の3つのテーマにチームで挑みました。

実践編

3つのテーマ

「実践編」では以下の3つのテーマの中から、自身が本気で取り組んでみたいものを選択し、4人1チームで探究を進めていきました。

⑴ 学力テーマ:高校1年生が無理なく英単語の単語試験で8割以上得点できるようになるモノ・コトをデザインする
ここでは、日々の英単語学習がうまくいっている人(=成績上位者)をヒアリング&行動観察することでそのパターンを抽出し、何らかの学習サポートとなるモノやコトをデザインすることをテーマとしました。

学力テーマの説明スライド

⑵ 交通マナーテーマ:生徒が通学時の交通マナーを自然に守りたくなるモノ・コトをデザインする
普段の登下校に着目し、生徒の交通マナーを改善させるモノやコトをデザインすることを目的としました。単に「マナーを守りましょう」という呼びかけではなく、UXデザインの考え方を取り入れて、生徒が自然とマナーを守ってしまう仕組みの提案を目指しました。

交通マナーテーマの説明スライド

⑶ ショップテーマ:鹿児島アンテナショップの困りごとを解決するモノをデザインする
学校と繋がりのある「鹿児島県アンテナショップ遊楽館」へのフィールドワーク・ヒアリングを通して困りごとを定義し、それを改善するモノのデザインを目指しました。ショップ側と直接やりとりし、テストを繰り返しながらチームのアウトプットの強度を高めていきました。

ショップテーマの説明スライド

授業の流れ

プロジェクト開始時に、各テーマに対して専門家(例:交通マナーテーマはUXデザイナー)からテーマの取り組み方についての説明がありました。その後は、4人1チームで個々のプロジェクトを進めていきます。

UXデザイナーの解説スライド

プロジェクト途中では、各テーマ担当のファシリテーターからプロジェクトの進め方やプロトタイプ制作やテスト方法などのアドバイスを各チームが任意で受けていきました。

そして、最終回では各テーマごとに専門家に対してプレゼンテーションを行い、これまでの学びを振り返って授業が終わりました。

生徒のプロジェクト紹介

ここでは、「ショップテーマ:鹿児島アンテナショップの困りごとを解決するモノをデザインするプロジェクト」に取り組んだ1つのチームを紹介します。

鹿児島アンテナショップにヒアリングをすると、アンテナショップに来る方が高齢の方ばかりで、若者(特に中高生)が来店しないこと、さらにその高齢者もコロナ禍によって出歩くことが少なくなり来店者自体が減少傾向にあること、が課題感として挙げられました。

このチームは、お店が抱える課題感に対して「中高生が買いたくなる商品ポップをデザインする」という解決策で挑みました。

⑴ テーマとの出会い

このチームは伊藤さん・田中さん・小野さん・松田さん(全て仮名)の4名です。4人がこのテーマを選択した理由や魅力は、プロジェクトと通して実際の現場を理解できること、また以前学校の文化祭で繋がりができた鹿児島アンテナショップとまた一緒にプロジェクトをしたい、とのことでした。

画像左側4名がチームメンバー

伊藤さん:学校の文化祭で鹿児島遊楽館さんとコラボさせて頂いたのがあり、その継続として取り組みたいなってのがありました。個人的には文化祭の継続として、熱意をもっていたいなと思ったので、このテーマを選びました。

田中さん:文化祭では遊楽館さんの商品を実際に売って、その利益をお店にお返しするっていう支援販売をやったんですけど、その時に商品を生徒に売るためのポップっていうのも私たちが全部作成したんです。お店に対してインタビューをして、こういう商品だよっていうのを聞いてからそれを選んでポップを作りました。宣伝するための何かを作るっていうことを、ちょっとやってみたかったのもあるし、この時にすごいご縁ができたと感じたのでやってみました。

小野さん:私はこの鹿児島ショップテーマにある、お店に実際に自分たちがつくった物を置いて結果が出る、つくって試せるということに、魅力を感じて選択しました。

⑵ 2つの困難さ

初回授業では、アンテナショップ店長の前園さんからショップの現状や課題感をヒアリングしました。ヒアリングから「中高生の来客が少ない、との課題に対しては、中高生に受ける商品ポップを作成すれば解決する!」というプロジェクト方向が決まり、このチームでは商品ポップを作成してお店に試してもらおうという話になりました。

さっそく、web検索で出てきたアンテナショップの店内画像や商品情報をもとにポップの試作品をつくり、アンテナショップへメールで共有します。しかし、帰ってきたフィードバックにチームは戸惑います。そこには「寒色系を使ってはいけない」と書かれていました。

zoomでヒアリングを受けるショップ店長

田中さん:お店の人に「寒色系を使っちゃいけない」とフィードバックをもらったけど、それがよくわかんなくて、、。あと、どうしたらお客さんの目に留まるのかと考えることが、思った以上に難しかったなっと思いました。

また、普段何気なく見ているポップをいざ自分の手でつくろうと考えても、どのようにお客さんの目にとまるか、そのための派手すぎず目立たせる丁度良い色合いとは何かが、まったくわかりませんでした。

さらにもう一点、チームは困難さに直面します。それは、チーム内での「ポップデザイン」について、考え方がバラバラだったことです。

伊藤さん:なんか4人それぞれでデザインに関する考え方が違っていて大変でした。私にとってもう想像もつかないようなデザインを出してくるメンバーもいるし、お店の人から多分ここ指摘されるだろうなっていうポイントをメンバーに伝えるのが難しかったし、そもそも一人一人のメンバーがもつ観点も全然違うし、、。私は主にお店とのコミュニケーションを担当したのですが、私に見えてる部分と、みんなが見えてる部分とが違うから、それを噛み砕いて伝えるためにはどうしたらいいのか、すごく迷いました。

松田さん:(私は絵より文字を見るタイプなので)私は文字の配置がとても気になるんですが、多分みんなは文字より絵に興味があるし得意だと思うから、文字については誰も気になってなくて、、そしてそのことをチーム内で指摘した時に「えっ、そこ、気にする?」って雰囲気になったのは、やりづらかったです。

プロジェクトの大まかな方向は決まりましたが、さっそく困難に直面します。課題はヒアリングできたものの、それ以上の詳細状況がわからないことと、そもそもポップに対するチーム内の認識がずれていたことです。

このような難しさを抱えつつも、チームはメンバー内で検討を重ねながら新しいポップをデザインしてはお店に提案し、フィードバックを受けて改善する、というプロセスを丁寧に繰り返していきました。

⑶ フィールドワークからわかったこと

プロジェクト実施時期は2022年1〜2月、ちょうど新型コロナウイルス感染症の第6派拡大時期でした。本来、このようなテーマでは実際の店舗に足を運んでのフィールドワークを行った方がいいですが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で、気軽にかつ全員でフィールドワークするのは難しい状況でした。

このような状況下であっても、チームメンバーはタイミングを計らいながら数回店舗に足を運び、現場の状況を自身の目で確かめたり、店長さんはじめスタッフの方と意見交換をしたり、お客さんの行動を観察したりしました。

伊藤さん:フィールドワークを重ねながら、お店の人とチームのみんなが一緒にコミュニケーションとりながら、例えば一文字目の位置とか、改行の間隔とか「これらとこちらが見やすいよね」ってこと確認していったので、全員が互いに思っていることを無理に言葉にしなくても、ストレートに伝わりやすくなったのかなって思います。

田中さん:最初、お店から頂いた課題は、若者向けのポップが分からないからそれを作ってほしいっていうことだったんですけど、実際にお店に行ってみたら、私たちが見て「これおしゃれだな」って思うポップがいっぱいあったので、自分たちはどのようなポップがつくれるのか不安になりました。

小野さん:ポップのサイズはどういったものが一番良いのか悩みました。単に大きいものを作るんだったら文字でも画像でも好きなだけ入れられると思うんですけど、ちっちゃい名刺サイズを作るとなった時に、入れたい文言があるけどその文言では多分見れないよねとか、その同じものを縮小して作るだけじゃダメだからそれを確認しようとか。今回、コロナで実際に見に行けなかったメンバーもいるので、お店で見た印象をそこに来てないメンバーに伝えるのが大変でした。

松田さん:実際にお店に行くことで、店内の人の流れがわかりました。この位置に置いたらこのポップは見やすいけど、ここだと多分スルーされちゃうな、とか。あと、販売されている商品パッケージが、もう本当に色彩豊かと言うか賑やかなことに改めて気づきました。パッケージに負けないようにしなければいけないけど、逆に競合してしまって商品が目立たなくなってしまったり、お客さんの目を疲れさせてしまったりしないようなポップのデザインが必要だと、お店に行くことで初めて分かりました。 

⑷ プロトタイプの展開

授業最終回までにチームは以下のようなポップを数枚制作しました。そして「メールで店舗へポップデータ送信→店頭掲示→お客さんの反応や店員さんの感想などを店舗からメール返信→次回のポップ制作へ活かす」という流れでテストを重ねていきました。

最終回プレゼン資料より①
最終回プレゼン資料より②
最終回プレゼン資料より③
最終回プレゼン資料より④

⑸ プロジェクトからの学びと今後の展開

プロジェクト開始から2ヵ月後、授業最終回では鹿児島アンテナショップ店長の前園さん、鹿児島県東京事務所の東條さんをお迎えして、成果報告のプレゼンテーションを実施しました。

店長の前園さん、東京事務所の東條さんからは、4人がアンテナショップに関わりながら高校1年生視点で課題に答えようと取り組んでくれたこと、また具体的なポップとして成果を形にしてくれたことへの評価をいただきました。

最終回プレゼンテーションの様子

田中さん:人によって価値観がいろいろあるなと思いました。私が今まで「これは目をひくでしょう」って思ってたものだとしても、他の人から見たら「いやちょっとそれは派手すぎじゃない」みたいに返されたりとか。互いの価値観を知ることは、こうやってつくって見せないとわからなかったと思います。自分の感覚を押し付けるんじゃなくて、他の人の感覚をもらいつつ、自分のものと合わせながら作ることが大切だと感じました。 

小野さん:いつも買う側として何気なくポップを見ていたんですけど、このプロジェクトを通して、この商品にはこの色が合うなという、商品の見せ方に対する視点が鋭くなった気がします。

伊藤さん:私は絵を描くことが得意じゃないので、ポップづくりについては他のメンバーに任せて主にお店とのやり取りに専念してしまったことが、本当に申し訳ないなと思っていました。けど、他のメンバーに対して「(私は)ポップを作れてなくてごめんね」と話をした時に、みんなから「いや、チームの意見をまとめてお店に伝える部分を担ってくれてるから、今の役割を続けて欲しい」というようなことを言ってもらえて、それぞれが得意な部分をチームに活かせられたらいいと学んだ気がします。別に、私自身が何かこう作ってお店に提案することができてなくても、お店の人とチームとをつなぐ役割ができた感じがしてるので、自分の役割を見極めることは結構大切なっていうことを体感しました。

松田さん:チームの中でも考えていることが全然違うから、それらをまとめるのが結構大変だったです。あと、自分としては「このポップはきっとこの商品に合う」と思ってても、それ作ってみたら全然マッチしていなかったり、、とにかくやってみないと分からないことはあるんだなと感じました。

最終プレゼン後の4人

田中さん:私は作ることそのものが好きなので、このポップ作りで行ったように写真に合った文字を考えたりすることが楽しかった。今後はポップ以外のスライドとかポスターとか、ポップ作りと似ているものづくりをいろんな視点から考えたいなと思いました。 

伊藤さん:今回は、鹿児島アンテナショップを対象に進めましたが、自分の地元の取り組みにも還元できることがありそう感じました。地域活性化という観点で考えると、自分の地元にも結構有名なものあって、私自身は好きなんですがその地域だけで完結してしまってる感じがあります。今回のアンテナショップも似ていて、もっと若い世代、今いる常連さんだけじゃなくて、20年から30年先を見据えた外部発信という形をとるべきかと。今回の学びを元にして、自分の地元でも何かできることがあったら、周囲の人とコミュニケーションを取りつつやってみたら面白いかなっていうのを思いました。

小野さん:私は、今後もこのポップづくりを継続していけたらいいなって思いました。まだ、お店で使っていないポップがいっぱいあるので、これから毎月ごとにいろいろ変えて貼ってくれたら嬉しいです。私は実際にお店で貼ってもらったのをまだ見れていないので、それは絶対見たいって思いました。これをきっかけに、もっと盛り上がってくれたらいいなって思ってます。

松田さん:私も、授業で使うスライド制作に、ここで使ったポップデザインを活かせたらいいなって思いました。

まとめ

以上、田園調布学園で実施したデザイン思考を活用した探究プロジェクトのうちの1チームに焦点をあてて紹介しました。今回の授業では、この1チームを含めた全15チームが、このような個別具体的な探究プロジェクトを進めました。

インタビューを行って感じたことは、はっきりとした数値で現れにくい探究プロジェクトのような学習の価値は、一人ひとりの経験の中、個別具体的な語りの中に宿っていることでした。それは学び取っている本人にとっては自明であり過ぎるので、あえてこちらから聞かなければ分からない、見えない領域なのかもしれません。

その唯一無二の世界をつくるお手伝いを、今後も続けていけたら嬉しいです。長文、お読みいただきありがとうございました。

(インタビュー・記述:大門)

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