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わたしの風邪は、「いま、治ってるとこ」。

久しぶりに風邪をひきました。
普段、体にいいことをするのが趣味のような生活をしているので、めったに体調を崩すことがないのですが……たまにこうして風邪をひいたときに思いだす本があります。

『思考のすごい力』(ブルース・リプトン著/西尾香苗訳/PHP)。ベストセラーでもありますので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。著者のリプトン氏は、エピジェネティクスと呼ばれる新しい学問の分野を切り開かれた細胞生物学者です。
エピジェネティクスは、「新しい遺伝学」とも「新しい生命科学」とも呼ばれる深遠な概念で、読者として読むにはたまらなくおもしろいものでしたが、自分が説明する側になるのは至難の業です。わたしにお伝えできる範疇を大きく超えてしまいますので、ここではその説明は避けたいと思います。ぴん、とご縁を感じた方は、ぜひご紹介した本をお手にとり、神髄をお楽しみください。

ここでお話するのは、本のごくごく一部分から刺激を受けた、わたし自身の感想に過ぎません。それでも、「不調」に対する考えに根本的なヒントをもらった……その感覚をお伝えできたらと願います。

本の中の一節で、著者は、生物の「防衛」反応、そして「成長・増殖」反応について語っています。
「防衛」というのは、「闘争逃走反応」とも呼ばれるもので、重大な危機に直面したとき、生物が、他のすべてに優先して命を守る行動をとることを指します。つまり、逃げるか戦うか、という行動ですね。
そして「成長・増殖」というのは、それ以外の平常時の生物の活動を指します。具体的には、栄養を摂取すること、消化すること、自分を回復させること、成長させること、子孫を残すこと……などのために働く、すべての生命活動のことです。

本では、このふたつの反応を説明するのに、天敵に襲われる動物の例などをとって話が進みましたが、ここでは、できるだけ短く端的にお伝えするために、みなさんよくご存知の「火事場の馬鹿力」という言葉を拝借したいと思います。

火事場の馬鹿力。これは、火事などの有事に直面したときに、普段とは比較にならない筋力や瞬発力を発揮する状態のことです。危機に直面し、体が「非常時モード」に入った状態。これがまさに著者のいう「防衛」反応です。
このときに、例えば腰を「ぎくっ」と痛めてしまったとしても、「馬鹿力」が発揮されている間は、それを痛みとして感じることはありません。「火事場」にいるときに痛みがでてしまったら、それは、ときには死を意味します。ですから、体はあくまで非常時モードを維持することを徹底し、痛みを感じるのは二の次、と判断するのです。

その「ぎくっ」を、痛みとして感じるようになるのは、もっとあとのこと。「火事場」を離れて、もしくは「火事」が納まり、非常時モードが解除されたあと──つまり安全が保障されたあとです。そこで初めて体は「痛い」という信号を発信し、わたしたちに不調を知らせます。
つまり、不調がでるということは、「わたしたちは安全な環境にいる」ということの裏返し。「増殖・成長」反応のひとつということができるのです。

上記の概念を映像的に記憶に留めていただくために……ここで本の中の、著者が行った実験について、少し触れておきたいと思います。
単純な実験です。細胞を育生させている培地に、有毒物質を垂らした場合と栄養分を垂らした場合の比較。結果だけみれば、それは大変シンプルです。有毒物質を入れた培地では、細胞たちは毒から逃げるように四方に散り、栄養分を入れたほうでは、細胞たちはそれに引き寄せられるように集まりました。

火事場の話にしても、実験の当たり前すぎる結果にしても、注目したいのは、「防衛」反応と「増殖・成長」反応は「同時には起こらない」、という点です。
もし、培地に毒と栄養が一度に垂らされたとしても、細胞が「逃げながら集まる」などということは起こりません。「防衛」モードの細胞は、ただひたすら逃げるのみ。

非常時には防衛する。平常時には自分の体を癒し、育む。
なんだか当たり前のことばかりご説明している氣もしてきましたが、日常的なわたしたちの活動に目を向けたとき、この「当たり前」が行われていないことも、実際には少なくないと思っています。
例えばわたしのように風邪をひいた場合です。

先程も申し上げたように、非常時モードにあるときには、体は不調を表面化しません。ですから、風邪をひくということは、いまは「安全な状態にある」という、体からの信号でもあるのです。

ですが、わたしたちは、「風邪をひいたから、治さなくては!」と思いがちです。
それの何がいけないの?と思われるかもしれませんが──よく考えてみてください。これは、プチ戦闘態勢です。風邪やウィルスから身を守るという考え方は、風邪やウィルスと「敵対」する氣持ちを根本的に内包しています。
そして「敵対」は、平常時の活動──回復機能を優先しているはずの体の働きを阻害する方向のベクトルです。
何度も繰り返しているように、「闘争や逃走」と「成長や回復」は、同時には成立しません。だとすれば、風邪に対する敵意は、回復の妨げにしかなりません。

本当に早く風邪を治したいなら、「早く風邪を治さなくては!」という氣持ちを手放すことです。
ちょっと言葉遊びみたいですが、試してみるのに何の薬も労力もいらない、お勧めの回復法です。
「風邪を治すぞ!」などという戦闘態勢には決して入らずに、「わたしの風邪、いま、治ってるとこー」と力を抜いてみる。「治ってるとこ」を想像してみる。
風邪が、いつのまにか清らかな風の流れになって、体をさらさらと癒してくれているところ……なんかをちょっと思いうかべてみる。

治りますよ。ほんと。


追記
こちらの記事に、投稿した週にふたつ、翌週にもうふたつ、計4つのコングラボードが届きました。スキをくださったみなさま、本当にありがとうございました!↓↓↓




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