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#貴方

冬の終わり

冬の終わりに
父は死んだ
春に芽吹く
フキノトウを
眺める事無く
冬の終わりに
貴方は消えた
ロカビリーナイトを
共に見る事も無く
冬の終わりは
ただ厳しくて
私は途方に暮れる
紅煉のように

貴方は甘くない

私の嘘を
見逃してくれる程
貴方は甘くなく
私は途方に暮れる
私の言い訳を
黙って聞いてくれる程
貴方は優しくなく
私は打ち震える
貴方など何処にも居ない
全て私の独り芝居だと
誰かに指摘されても
空想の貴方は今日も
私を責め続ける
安い壁掛け時計と共に

哀しい歌

哀しい歌が好きと
貴方は言ってた
カートンの煙草が
直ぐに無くなる様に
貴方は消えてしまった
哀しい歌の歌詞みたいに

リズム

たどたどしい
貴方の日本語が
やさぐれた僕の
背骨に染みる
それは完璧な
リズムみたいに
體の中を延々と
駆け巡り
燻っている僕の
心を燃やした

嘘吐きな唇

貴方は今日も
その嘘吐きな唇で
誰かを騙す
貴方に散々
夢中にさせてから
貴方は冷たく
突き放す
そして次の
誰かを探して
同じ事を
繰り返すだけ
満たされない
安い心の隙間を
少しでも埋めようと

溺れる勇魚

神楽火が風にそよぐ季節
深海で溺れる勇魚
誰にも気付かれる事無く
少しだけ季節は廻り
僕は貴方を忘れる
もっと生きやすいよに
その声だけが
安い體に染み付いて
未だに剥がせやしない
それは深い傷口のまま
僕を蝕み続けるだろう
呪詛の様に重く暗く

エンジンが揺れるから

CB1100Rの
エンジンが揺れるから
貴方にくちづけを
ガソリンの素敵な香りが
僕を惑わせるから
貴方にさよならを
キャブレーターが狂った風を
吸い込んで加速するから
貴方とお別れを
素晴らしい筈の日々に
手を振って消えて逝こう

空白

貴方が居てくれたなら
私は太陽だって盗める
貴方が見てくれるなら
私は月だって隠せる
貴方が居てくれたなら
カラスとカナリアにだって為れる
如何かその手やその心と
美しい體に触れさせて
独りは虚し過ぎて
気が狂ってしまうから
私だけを眺めてそして選んで
間違いでも構わないから
空白に耐えられる程
私は強い生き物では無いの

遠ざかるシーベル

抱き合って
くちずけをしても
私達は
分かり合えない
声を上げて
呼び合っても
私達は
一つに為れない
どうしてかしら
こんなに貴方を
愛している筈なのに
心は唯々
離れて逝くだけ
脆い手を伸ばしても
幸せと共に
零れ去るだけ
私の中から
シーべルが遠ざかり
私は取り残される
荒野と言う名の都会に

献花

しけた毎日を
破壊する
ロックンロール
安いラジカセに
カセットテープを
嵌めたなら
パーティーが
始まるのさ
今は灰に為った
貴方にだけ捧げよう
献花よりも
綺麗で素敵な
ロックンロールを

ジルヴァ

戦場で踊るバシール
市街戦で燃える街並み
ワルツの様に美しい
貴方にはもう会えない
ここが分水嶺だと
知ってしまったから
敵地で巧妙に仕掛けられた
対人地雷のトラップに掛かり
永遠を手に入れたジルヴァ
貴方にさよならも言えず
跡形も無く灰に為る

貴方を思い出す夜

貴方を思い出す夜は
何時だって孤独に満ちて
何かを忘れてしまう
貴方を思い出す夜は
何時だって偽善に溢れ
何かを捨てて逝く
僅かな誉すら抱けない
私の手を引いて微笑む
貴方を思い出す夜に
私は自らの命を絶った
星の無い夜空を眺めて

ご機嫌なブギィ

うだるような暑さの夜に
ご機嫌なブギィを
孤独をため込み向かう朝に
いかしてるブギィを
リズムに合わせて
さあ踊ろう愛しき人よ
私達は僅かな日々の中で
消えて逝くしかないのだから
この素晴らしい世界で
ご機嫌なブギィを

微睡み

雨の木曜日に
踊る道化師
季節は微睡んで
大切な筈の
貴方を少し忘れた